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誓いの儀式①

 優の部屋に入ったライフはじっと扉の前で立ったままじっと床を睨みつけるかのように動かなかった。優もまたベッドにすわったまま固まったままだった。何を言っていいのかわからなかったのだ。じっと下を向いていた。顔を上げる勇気もなかった。

どれだけ時間が過ぎただろうか、最初にしゃべりだしたのはライフだった。


「ごめん、みんなから聞いた、僕知らなかったから、優ちゃんもアトラスに女友達ができたらいいかなと思って彼女達に話しかけてあげてって頼んだんだ。まさか彼女達が優ちゃんにあんな酷いことするとは思ってなかったんだ」


「・・・」


「やっぱり僕なんかじゃだめだよね。同じ跡継ぎでもフレッドみたいな方がいいのかな。頭脳明晰で仕事もできるし、頼りがいがあるし」


優は無言で首を振った。


「私ね、ずっと思っていたんだ。私みたいに何も取り柄のないただの日本人じゃ、本当だったらライフさんの側に立つ資格すらないんだって。ライフさん優しいから、アトラスに来た時はずっと私のパートナーをして付き添ってくれていたけど、本当は私なんかどうでもいいんだろうなって。ママも誤解してるんだよね。私そんなに魅力ないってこと自分が一番わかってるもん。だからライフさんももういいよ。私誤解しちゃうからさっ、私の事を妹みたいに可愛がってくれなくてもいいよ。やっぱり私、日本に帰るから…もうアトラスには来ないから」


その時突然ライフが優に近づいて優の手を掴むと突然優に口づけをした。


「どうして…こんなことするの?」


優の瞳から大粒の涙があふれた。


「君のことが好きでたまらないからだ」

「嘘よ、だってみんな言ってたもの」

「君は僕の言葉よりも他の誰かの言葉を信じるの?」


「だって…レベンダさんとずっと付き合っているんでしょ。でもリリーおば様に認めてもらえていないから公にできないって」


「レベンダとは確かに何度もデートしたさ、だけど、恋人同士になったことはないよ。レベンダは幼馴染なんだけどね時々虚言癖があるんだ。悪い奴じゃないんだけど、あっいや、その嘘は悪いよね。ああ~僕は何を言ってるんだ!」


「ライフさんらしい。ライフさんは女性みんなに優しいもんね」


ライフは優の言葉でしばらく言い返す言葉をなくしていた。


「ああ~もう!」


そういうなり髪の毛をかきむしった。そして優の前にひざまずくと優の手に自分の手を重ねて真剣な顔で言った。


「僕は何度だっていうよ。君に僕の心の中を見せられたらいいんだけどな。今すぐにでも結婚して一緒にいたいと思うのは桜木優ちゃん、君だけだよ。確かに高校時代はたくさんの女の子と合コンしたり遊んだよ。それは否定しない。だけど、本気で好きになったのは君が最初なんだ。そしてこれからも君だけだよ」


「ごめんなさい」


「駄目だ、君のごめんなさいは心臓に悪いよ。今のはどういう意味?ああもうだめだ、ほら僕の心臓が爆発しそうだよ」


そういうなりライフは優の手を掴むと自分の胸の所にそっと持っていった。


「すごいドキドキしてる」


優の顔から笑みが浮かんだ。


「優ちゃん、僕をからかって楽しんでるの。もう僕は気がおかしくなりそうだよ」


優はしばらくためらっていた。自分がどうしたいのか、自分の気持ちに正直になるということがどういう覚悟がいるのか、だけど、優はこの時何かがはじけた気がした。


『きっとこの人とならどんなことがあっても笑って生きていける気がする。生きていきたい。誰にも渡したくない』


優はそっと自分の両手をライフの首に巻き付け、自分からライフに近づくと、ライフの耳元にささやいた。


「私もライフさんと人生を歩んでいきたい。何にも魅力がない私でごめんなさい。でも本当にいいの?こんな私で、私本気になってもいいの?」


その言葉にライフがギュッと優を抱きしめた。


「本当だよね、嘘はなしだよ」


「うん、私今決めた。私強くなる。誰にも何も言われないような素敵な女性になるように頑張る。見た目はこれ以上変われる気がしないけど…だから、ライフさんも自分のやりたい夢をあきらめないでほしいの。今の私じゃあなたの夢を支えられる器はまだないけど、なれるようにもっと頑張るから」


「ありがとう。でも大丈夫だよ。君はそのままでいてくれたらいいんだ。僕、君の心が僕だけで満たしてくれていたら頑張れるからさ。考えてみるよ。何とかなる方法。でも心配なんだよ。優ちゃん、君は自覚ないみたいだけど、男からみたら君は魅力的なんだよ。今日の舞踏会でフレッドがいない隙にどれだけの男が君にダンスを申し込もうとしているところを阻止したか」


「えっうそ、私もっとダンスしたかったのに、私今日の舞踏会の為に大学でダンスサークルはいって一生懸命ダンス練習したんだよ」


「そっかあ、だからフレッドと踊っていた時上手だったんだね。今度は僕とずっと一緒にダンス踊ろうよ。だけど、もう大学のダンスサークルは辞めてほしいな」


「どうして?私まだステップ上手に踊れないし」


「僕が嫌なの、あんな密着するダンスを僕以外の奴と踊ってると想像しただけで腹が立ってくるからさ」


「ライフさんって嫉妬深いんですね」

「そうだよ」

「じゃあ、フランス語のサークルにする」

「どうしてフランス語なんだい」


「あのね、フレッドさんが、栞ちゃんと冬休みにフランスに招待してくれるってお誘いがあったの。まだ返事はしてないんだけど、すごいのよ、フランスのお城を持っているお友達が私達をお城に招待してくださるんですって、フランスでも英語は通じるけど、フランス語で簡単な会話ぐらいできるようになりたいし、そうするわ。これからも私アトラスに来てもいい?本当にライフさん迷惑じゃない?」


「当たり前だよ。でも優ちゃん、僕聞いてないよ。フランス行きのこと、エンリーの奴も行くの?」

「だってまだまだ先の話しだし、でもエンリー兄さん今年の冬休みはジャンニおじ様のお仕事を手伝うって言っていたから行かないんじゃないかな。家のパパが冬の休暇はビルおじ様も出張らしいから留守番してるっていってたからママも久しぶりに日本で夫婦でお正月を迎えようかって話してたし」


「碧ちゃんも同行しないんじゃますます危険じゃないか、僕は絶対同行するからね」


「でもビルおじ様が出張ならライフさんも同行しなきゃいけないんじゃないの?」

「休暇まで仕事なんかさせられてたまるか」


「本当に大丈夫よ、フレッドさんが一緒だもん。それにフレッドさんの家までエンリーお兄さんが同行してくれるらしいし」


「絶対駄目、そもそもフレッドが一番危ないじゃないか」


「もう・・・ライフさん、フレッドさんと私いくつ離れていると思っているんですか?」

「だって心配なんだもん」


「ライフさんの眼には私がどう写ってるのかわかんないけど、私あなたが思っているほどもてないから大丈夫よ」

「・・・」


ライフは納得がいっていない様子だった。


「くそ~僕が駄目なら、碧ちゃんをなんとしても同行させなきゃ、そうだシャリーおばさんでもいいのか」


「何ブツブツいってるの?」

「よし、決めた!優ちゃん、今からマティリア様に会いに行こう」

「えっどこへ?」


「下の教会だよ。善は急げだよ。僕は嫉妬深いんだ。やっぱり君と誓いの儀式だけでもしておかないと心配だからね。君は朝になったらやっぱり取消っていいかねないからね」


「ええ?でも本当にいいの?他に素敵な人が現れるかもしれないでしょ」

「優ちゃん、君は僕と結婚したくないの?別の運命の相手捜しするつもり?」

「そっそんなこと…」


「僕はもう君以外の子には恋をしないよ。婚約を公表しちゃえばみんな諦めてくれるよ。それに信じてくれないかもしれないけど大学に入ってから僕は誰ともデートしてないんだよ。みんな高校時代の話しだよ」


「うん、そんな時間なかったの知ってる。でも、もしかしたら寝る時間を削っていたのかなって思ってたんだ」


「そんなことしてたらとっくに倒れてるよ。君との会話の時間を作るのにも僕がどれだけ苦労したか」


優はもう迷うことをこの瞬間から止めることにした。ライフと生きよう。生きたいそう心に誓う優だった。そして優の秘めた思いも同時に遂行しようと誓う優だった。


『私はママに似て欲張りだもん』


「何か言った?」

「うううん、何も、独り言だよ」


そして、二人は立ち上がると手を繋いで部屋を出て行った。



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