遊びは終わりだ、お前達。【スピンオフ】
正気に戻った王子、想いが通じた公爵令嬢は、前の世界で断罪の場所となった卒業パーティーに出席。
さて、御学友とあの娘は?という感じのお話。3部作になってしまった! @短編その17
1番目 処刑された最低王子は転生して死んだ悪役令嬢に許しを乞う
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2番目 婚約者令嬢の朝は早い
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「おーい!最近どうしたんだ、ネイザン」
パウロが肩を掴んで引き寄せるから、私は半分体が回るようにふらつく。
「無礼な真似はやめろ、お前学園だから警備が来ないだけだぞ」
「だから!どうして最近集まらないんだよ!」
「そうだ。俺達はイヤリの守護団なのだから。お前のくそ婚約者からまも・・
「くそなんかじゃない。私はもうやめたんだよ」
「え?」
シュトワの言葉に被せるように、私は言い切る。
パウロ、シュトワ、テールは、私が何を言っているのかが分からなかったようだ。
そう、数日前まで彼らとは、ひとりの女の子を守る目的で団結していたのだ。
4人の中で一番彼女にご執心だったのが、この私、ネイザンだった。
私はこの国の王子で、次期王という頂点の地位だ。文句など言わせない立場なのだ。
だが私はパウロ、シュトワ、テールにはタメ口を許したので、普通の学友のような付き合いをした。
それは平民の少女イヤリに影響されたからだ。
貴族にはない発想、それは自由。
偉い地位の者に対しても無礼、いや反抗心が眩しく見えた。
私を含めて4人は、彼女のおおらかさや自由に憧れ、恋焦がれるようになった。
だがやはり貴族とは相容れない考えだから、意地悪されたり、虐められたりする。
彼女が可愛らしく振る舞うのが、たまらなく奔放で刺激があって、鼓動が高鳴ったものだ。
貴族の娘の振る舞いがお高く止まって、鼻持ちならなく感じて、嫌味に思えて。
だが彼らは・・今は私は目が覚めたが・・前はあざとく、計算高く演技をしているイヤリの手で転がされているなんて思いもしなかった。
「今私は次期王としての教育が始まっていてね。加われないんだ。そちらで好きにやってくれ」
「ネイザン・・?」
私が停馬車場へ歩き去るのを、3人は呆気にとられて見送った。
「くそ婚約者・・・くそか・・アレに混ざって、笑っていたんだ。私は本当に最低だ」
早足で進みながら、自分のこれまでを思うと・・羞恥と怒りで震えた。
数日前までの自分に嫌悪、そして吐き気を覚える。
今は違う。
婚約者であるメラディの心の美しさ、ずっと彼を思い続けてくれた好意を知った今では、彼女にふさわしい人間になろうと決心したのだ。
もう断罪なんて馬鹿な真似はしない。結果、国が滅茶苦茶になるのだ。
いや。メラディが生命を断つ。これだけは絶対にさせない。
こんな私に恋焦がれ、絶望し、生命を自ら・・こんなにも愛してくれていたのを知った今では、彼女が愛しい。
この頃は二人で過ごす時間が増えた。
今まで気付かなかった、メラディの可愛い仕草、口調、くせ、ああ、それから・・
愛おしさが、毎日募るのだ。
十年も近くにいて、ワザと寄らないようにして・・無視して、傷付ける事で憂さを晴らして・・
無駄なことばかりしていた!!
だって、そんな意地悪をした癖に、後でやり過ぎたな、とか思ったのだ。
神がくれたチャンスで、今までの十年分をやり直すのだ。
やらなければならないことも当然ある。ずっとサボって、怠けた事。王としての勉強。
でもこの忙しさ、集中する時間が、堪らなく充実して、心に染み付いた悪しき魂が清められていく気がするのだ。
そして傍には、今はメラディがいる。最近のメラディは快活で、ちょっと意地悪な口調。
だが、それがまた可愛いのだ。前のような、上品で優等生で完璧な令嬢では無い。
飲み物用のカート前に立って、彼女が微笑む。
「お茶と珈琲とソフトドリンク、どれにします?」
「・・・ココア」
「んもうっ!!ネイザン様は!!」
笑顔は膨れっ面に。プイっと出て行って、暫くして・・・ココアを持ってきてくれた。
「ココアですわ!ワザと苦くて濃い味にしましたわ!!」
「ああ、メラディの味だね」
「どういう事です?」
「君は私にほろ苦い」
「それはネイザン様がいけないからです!」
ああ、楽しい。そしてココアは私好みの味だ。
メラディの笑顔は・・あの娘の笑顔よりも綺麗だと知った。
王子に自由?そんなもの無い。当然だ。前はそれが分かっていなかった。
誰も出来ない、権力を駆使して、国民の暮らしを揃えて蓄えて豊かにしていく。
私はそういう存在にならなければならない。大丈夫、私にはメラディがいてくれる。
あの娘は『頑張っているの知ってるよ』なんてほざいたが、そんな事メラディは言わない。
「ネイザン様。頑張っているの、分かっています」
え?あの娘と同じことを言ってる?と思ったのだが、
「ですが!あまり根を詰めると、効率が悪くなりますよ。さ、甘めのココアを召し上がれ」
・・効率。つまり、まだまだ頑張れと言うんだね?甘やかさない、甘いココアを差し出す彼女。
これは、愛さないという選択肢は無いね。私は慇懃に礼をした。
「はははは!畏まりました、マジェスティ」
「ふふ。良きにはからえ。でも今は休憩ですよ。どうぞ召し上がれ」
メラディと紡ぐ日々はあっという間だ。
ついに卒業式。
式典は粛々と執り行われ、伝統の学帽を天高く投げて、終了した。
私達はこれにて学生ではなくなり、それぞれの道へと進むのだ。
昼3時より卒業パーティーが始まる。
前の記憶では、私はあの娘、そして3人と集まり、断罪の用意を始めていた。
だが私は、証拠も証言を書き出した用紙も、全部暖炉に焼べて燃やした。
これで、したくても出来ないであろう?
私は集合場所へは行かない。メラディを傷つけ、死に追い込むようなことを誰がするものか。
そもそも私の権力ありきの計画など。笑ってしまう。
会場にはぼちぼち人も集まりだしている。
断罪?そんな余興など要らぬ。この和やかな空気を毒婦に汚されてなるものか。
いよいよ開始時間だ。
パーティー会場には、卒業生がパートナーをエスコートして次々入場。
私もメラディを連れて入場。
すると響めきや感嘆の溜息。皆メラディがどれほど美しいか知ったのだろう。
いつも落ち着いた色合いしか召さなかったからな。
髪もダンスしやすい結い方にしている。メラディはダンスが上手なのを、私も今回知ったのだ。
私の母がダンスが上手いので、相当扱かれたらしい。私も昔扱かれたからね。
「2曲目は『ヒレデオ』だからね」
私が言うと、メラディの目がキラキラと煌めいた。ああ、可愛い!綺麗なのに可愛いって、天使かな?
「ま!わたくし、大好きなのですのよ?『ヒレデオ』!」
会場の隅に3人とあの娘がいるが、私は近寄る気は無い。
私がいなければ、メラディに男共が寄り付いてしまうからね。
メラディが友人方とお喋りに興じていて、私がひとりになったタイミングで、やはり来た。
「ネイザン様!どうしたんです!あたしを虐めたこの・・と一緒なんて」
その・・は、クソって言ってるんだよね。そう、私も言っていた。過去は償う為にある。
でもね?メラディの生活ぶりを見ていたら、虐める暇など無いって分かった。
それに、君の虚偽告白だけだったからね?断罪証明は。証拠もそこに落ちていただけの物だ。
誰かが置いたかもしれないし、何時落ちていたのかも不明。これを信じたとは。正に黒歴史。
こんな物でメラディを陥れる気だった私は、本当に次期王なんか無理だった。反省だらけだよ。
「私の婚約者で次期正妃、ケーラ公爵令嬢メラディだ。もう学生でなくなるから、私にも、メラディにも名前呼びは慎んで頂こうか。さあ、メラディ。ファーストダンスが始まるよ。では皆、さようなら」
私はメラディの背に手を這わせ、そっと押してダンスホールに向かう。
「ね、ネイザン様!!」
まだ言うか。仕方がない・・これ以上作れない、冷たい表情で顔で睨んだ。
「学生の間は楽しんだ。だがもう私は王になる。平民のお前とは話す事も無い。控えよ」
「なんだと!!おい、ネイザン!イヤリに謝れ!」
すると3人が私に詰め寄った。やれやれ、私もこんな馬鹿のひとりだったのだな・・ますます悔悛だ。
「おい!ネイザン!!このくそに、誑かされたのか!」
「この場で言うんじゃなかったのか!」
「証拠はどうした!」
私が言うのもなんだが、彼らは側近や家臣には出来ないな・・
父上に言っておかなければ。お父上方は、大変優秀なのに。
「私は、君たちの言う所の、真の愛に目覚めたのだ。そういえば、君たちは誰とファーストダンスを踊るのだ?まさか、あの娘を取り合うのか?あと、君たちの婚約者はどうなったのかな?そろそろ始まるぞ」
あ、思い出した。そんな仕草で、とどめだ。おお、3人も慌てているな。
ふーん?私には婚約断罪を推したくせに、自分達は無傷だと?許せませんね・・不敬罪確定ですね。
ちょっと爆弾を落としましょうか・・
「なあ、キール。お前が踊るんだろう?あの娘は君が一番好き、だそうだからね?」
すると残る二人があの娘とキールを睨んだ。さて知らないっと。
前の記憶で、ふたりは手を取り逃げたんだ。もう正直に話してふたりで踊れ。
そして婚約破棄を自分がするんだな。3人で揉めればいいんだ。私を巻き込むな。
私とメラディがダンスホールの中央で踊ると、拍手喝采だ。
そうだろうそうだろう、メラディは大層綺麗だろう、見せてやるからありがたくご覧あれ。
ファーストダンスが終わり、次のダンスを踊りたいのだろう、数人がメラディに近寄るが牽制。
「すまない。次は『ヒレデオ』だ。メラディが踊りたいそうだから、このままで」
「ひ、『ヒレデオ』?殿下もメラディ嬢も踊られるので?」
「そうだよ。まあ、見ていて。さ、メラディ」
「はい、ネイザン様」
そう。ヒレデオは超難易度のダンス。私達は中央に歩いていく。
ヒレデオと分かった途端、ダンス自慢がフロアに出てきた。12組の中にはダンス教師やダンス部の生徒が。あれ?父上に母上も?国王と正妃ペアって!負けられませんな!
さあ、ダンス曲が始まり、スタート!
クルクルとターン、そしてリフトでメラディを持ち上げ、そしてステップ!これがすごく激しい!
メラディがそれはもう、楽しげな顔で、笑顔で、私を見つめる。ああ!!私のメラディは美しかろ?
今までの私のメラディに対する『超塩対応』を見てきた皆は呆然。だろうな。
父上と母上がこちらを見て笑って、私たちも笑って、踊る生徒や先生たちにも笑い掛けて。
最後、ふと3人とあの娘が目に入る。まだ揉めているようだ。知らぬ!
その後は、ラストダンスまではパートナーを入れ替えて踊っていると、懲りずにまあ・・来たか。
今なら分かる、醜悪なあの娘の酷い所。分からぬとは私はまだまだ未熟、善処する所存です。
「あの!王子様・・ネイザン様!踊っていただけますか」
「すまない。そろそろラストダンスだ。メラディと踊るからお断りだ」
「何故です!今まで、あんなにネイザン様は、あたしに優しかったのに!」
「君がメラディを貶めている事に、私はやっと気付いた愚か者だった。それだけだ」
「あの人は、本当にあたしを虐めてたんです。意地悪もいっぱいして」
「分かった分かった。つまり・・お前は意地悪されても仕方ない娘だったと」
「そんな・・」
「婚約者がいる相手でも、自由だ庶民だと都合良く言って、誑かしたと」
「どうして!あたしを好「平民風情が。まだ黙らんのなら、その口、裂くぞ」
言い募るあの娘の声に被せ流ように言い、睨みつつ私はニヤリと笑った。
少し離れた所に、メラディが不安げにこちらを見ている。
「メラディ!私の手を、どうぞ」
「ええ。よろしくてよ」
早足で傍に寄り、手を取ると、ああ・・私が、浄化されていく。
胸が熱く、高鳴る心臓。目の前には、輝かんばかりの、麗しの婚約者!
もう、君以外が目に入らない。さあ、ラストダンスだ。
君を断罪しない、させない。死なせない、そんなきっかけも作らせない。
あの前の記憶でも同じような高揚感を感じたが、あの時は狂気も混じっていた。
メラディを潰す、壊す、そんな禁断の行いに酔いしれた。
清廉潔白な、品行方正な、彼女を叩きのめしたかった。出来損ないが味わった苦渋を、彼女にも。
そうなのだ。
あの娘が欲しかったんじゃない、メラディを自分と同じ立ち位置に引き摺り下ろしたかっただけ。
本当に私は幼稚だった。節穴で愚かで馬鹿で間抜けで阿呆で幼稚。また一つ増えたぞ!
でもそれらを気付かせたのは、メラディの死だった。
あの時死んだと聞いた瞬間、私は気付いたのだ。
憎いと、苦しめたいと、ずっと思い続けた彼女に、本当は恋い焦がれていたのだと。
なんだ。また再発見。
私はメラディがいないと何も出来ないのだ!!彼女がいなければ、焦がれて死んでしまうのだ。
私の考えなど知らない彼女だが、絶対に聞かせられない!
腕の中のメラディは嬉しそうに笑って、ダンスを楽しんでいる。
君が笑うと、こんなにも私も嬉しいのだと、また発見する!
これからも私は、メラディとの喜びを発見していくのだろう。
今日で学生生活は終わる。
自由は結局自由では無く。
好きな子はやはりメラディで。
自分で努力しなければ、サボっていては駄目で。
私は次期王になり。
隣にはメラディが正妃のドレスを召して。
「わたくしがお支えいたします」
出来損ないの私に微笑んで。
『こうして王妃が王を支えて国は栄えたのです』・・こんな終わり方にしたい。
卒業パーティーも終了となり、私達は帰る。
ん?まだあの娘と3人はもめているようだ。
おお!3人の婚約者と、彼女達の身内も一緒だな!いい気味だ。
精々そっちで断罪し合ってくれ。
もうお目にかかる事の無いだろう元友人達に、心の中で別れを告げたのだった。
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。
どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
https://www.pixiv.net/users/476191