第84話 Days2~刺客~
―――それと時を同じくして、本館の一階に物々しい雰囲気が漂っていた。
「いたぞ。侵入者だ。」
「逃がすな。回り込め。」
屈強なオーガ族の小隊長、ライリーが声が響き渡った。
「そちらだ。そちらに追い込め。」
その号令に合わせ、小隊は組織立った連携で影を追い詰めていく。シンプルな回廊に逃げ場は少なく、影達は知らず知らずのうちにライリーの思惑通りの地点へと誘導されていた。
影の群れが曲がり角に差し迫ったその瞬間だった。
「そんなに急いでどこへ行こうってんですかい?」
先頭を走っていた影の頭部が、声の主にだろうか、何者かにがっしりと鷲掴みされた。
「トイレなら……」
声に合わせて影の体は浮き上がり、
「元来た方でさぁ!」
硬い石造りの床に頭から叩き付けられた。
その光景を目にした影達は一斉に足を止めた。
「いち、にぃ、さん、しぃ、ごぉ……昨日よりも増えてるぅ?」
「そりゃそうでしょうよ。」
影の頭を床に押し付けたままのゴルウッドを挟み込むように、アイネとララが刺客の数を数えながら言葉を交わす。なんとも軽い口調ながらも、それを発する本人達から噴き出されるのは重苦しい殺気のみだった。
どうやら刺客も覚悟を決めたようだ。懐から得物を取り出した。
―――使用人の控え室に呼び戻されたミリアらを待ち構えていたのは、ゴルウッドチーム、ライリー小隊長とクロエ。そして、テーブルの取り払われた床に並べられた6体の骸だった。
「これは!?刺客か!?」
いの一番に声を上げたのはナギだった。
「また殺したのか!?」
そして、骸を取り囲むように佇んでいるゴルウッドら3人を見やった。誰も答える者は無かった。
「ざんねんだが、どくをのむのをふせげなかった。それをげんじゅつでふせぐために、おとりをおぬしにへんこうしたのだがな。」
代わりに、クロエが静かな声で答えた。
「……今日はどこに現れたんです?俺達のところへは来なかった。」
ナギがクロエに視線を移した。
「いっかいをたんさくしているのを、ライリーたちがみつけた。」
ライリーが頷いて見せた。
「一階を!?姫殿下はご無事なんですか?」
「ああ、こよいはしんじょを、さんかいのきゃくまにうつしていたからな。」
「三階だって?そんな話しは聞いてない。」
ナギは唸るように呟いた。
「きゅうきょ、へんこうしたからな。おぬしらにはでんたつがおくれた。」
それを聞いて、ミリアは安堵の息を漏らした。純粋にプージャの無事に安心したのだろう。
が、それに比べて。ゴルウッド達の表情は浮かないものだった。
「そ……そうなんですか。なら……良かった。」
ナギは乾いた声を絞り出した。
「それにしても、みょうだな。わたしはてっきり、ごかいをかくにんしたうえで、いっかいにもどってしらべはじめたのかとおもったが。」
「いえ、先程も申しましたが、僕らは刺客と遭遇してません。」
フォスターが声を張った。
「であろうな。おぬしらとであっていれば、けっかはかわったであろう。」
遺骸に眼孔を向けながら、クロエが呟くように言った。
「はじめからいっかいをねらっていたということか。……さくや、しとめたしかくいがいにも、しんにゅうしゃがいたのか。」
その言葉を受けると、直ぐ様ライリーが口を開いた。
「いえ。昨夜の侵入者は3人で間違いはないかと。我々、警邏の誰からも、それにアンデッド軍団からもそのような報告は受けていません。それは今朝の定例会議でも確認したはずです。」
「そうだったな。」
場を沈黙が支配した。
が、すぐにその沈黙を打ち破ろうと動く者があった。
「クロエ殿、それは……侵入者以外に……」
ナギだった。
「やめねぇか!」
が、それをゴルウッドが押し留めた。
「縁起でもねぇ話しはするもんじゃねぇ。」
「悪い。」
ナギも素直に従った。
「たしかに、そうだな。」
クロエは軽妙な調子で顎を鳴らしてみせた。それと同時に場の全員の緊張がほどけた。
「こんやもこれでおわりだろうが、ねんにはねんを、だ。みな、もちばにもどってほしい。」
「「御意。」」
そうして、控え室は無人になった。




