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第60話 長政海子~最強はどなたでしょう?~

「さぁ、屋敷に到着しましたわ。皆さん、長旅お疲れ様でした。」


ジョハンナさんがキャリッジの扉を開けてくれて、わたし達は外に降り立ちました。

わたし(海子)的には始めての魔界の外界。

空は青く、風は爽やかで、空気がとても澄んでいました。

うん。

わたし(海子)の知っている魔界とは大違いですね。

元の世界で言う魔界ってゲームとかで知ってる限りでは、いつも夜で、空気は淀んでいて、なんかおどろおどろしいイメージしかありませんから。


「さぁ、こちらへ。」


 マルハチさんが指差したのは、とてもとても大きな洋風のお屋敷でした。

わたし(海子)的にはもはやお城です。

後で知ったんですが、実のお父さんが生きていた頃に家族旅行で行った、イギリスのバッキンガム宮殿よりも広いみたいです。


 お屋敷の玄関から中に入ると、絢爛豪華できらびやかな内装と調度品が!

とはならず、なんだか地味な剥き出しの石造りの壁に天井。床には申し訳程度に絨毯が敷いてありますが至って普通のベルベットですし、調度品もきちんと清掃はされてますけど決して豪華とは言えません。

これが魔王の居城ですか?

思わず首を傾げたくなる様相でした。


「意外かい?」


そんなわたしの様子に気が付いたのか、マルハチさんが話し掛けてきました。


「魔王様は、ご自身の身の回りの物に贅沢をするのを良しとはしなんだよ。まぁ、威厳を保つためにはこのように大きなお屋敷に住まわれる必要があるのはご承知だけど、過度な装飾はお好みにならないんだ。」


「そうなんですか。」


屋敷内を歩きながら、わたしは上の空でその説明を聞いていました。

正直に言えば、わたしはミスラ様とかいう魔王の政治手腕など興味がありません。

わたしが興味があるのは、


「魔王様は今、ご病気なのですか?」


その点でした。

【ミスラ・ミラ・マリアベルXII(トゥウェルブ)

魔血種族でも特に武力に優れた巨人種ギガース族の長にして歴代屈指の実力を持った破壊神バルモンとの、七日七晩に及ぶ死闘を制して魔界統一を果たした魔界最強の王。

しかし、寄る年波には勝てず、現在は床に臥せることが多くなってきた。

ミュシャの記憶がそう告げていたのです。


「いや、ご病気ではないよ。」


「そうですか。でも、魔王様ももうお年なのですよね?」


正確な年齢は定かではないが、彼の治世が始まってから既に600年余り。

そして遅く生まれた彼の娘も現在は270歳前後。

どう計算しても、かなりの高齢に間違いないはずだったのです。


「君はとても真率(しんそつ)な子だね。」


「そんなことありませんよ。」


「それを聞いてどうしたいんだい?」


マルハチさんが振り返りました。

まさか口が避けても聞けませんね。

現在のミスラ様が最強ではないのなら、誰が最強なのですか?などとは。


「世間話です。」


「そうか。だが、あまり感心しない世間話だね。」


「すみません。」


わたしはとりあえず謝っておきました。

しかしどうしたものでしょう。

最強の魔族に近付くのに都合の良いシチュエーションから始まったかと思っていたものの、もし全く別の場所に最強がいるのなら、逆に足枷になり兼ねない事態です。

そこでふと気が付きました。

娘がいるのなら、その娘はどのなのでしょう。

きっと魔王の娘なのですから、強いのではないでしょうか。


「お姫様のお世話もするのですか?」


「今度は仕事内容かい?それは契約説明でしっかりとするよ。」


マルハチさんの語気が少し強くなってきました。

どうやら質問をし過ぎて苛立たせてしまったようです。


「分かりました。」


ここで怒らせてしまっては事がしにくくなるだけです。

わたしはしばらく黙ってついていくことにしました。

そんなわたしにジョハンナさんがなにやら耳打ちをしてきました。


「お姫様のお世話は専らマルハチさんのお仕事なのよ。私達メイドはお食事のご用意とお部屋のお掃除くらいね。」


言いながら、含み笑いをしていました。

言っている内容は至って普通のはずなのに、この意味深な笑い。

どうやらこの辺には何か事情があるようですね。

今は触れない方が良さそうです。


「そうなんですか。」


わたしは生返事だけを返すと、再び黙って歩くだけでした。


 執事室に到着すると、わたし達はテーブルセットに座るよう促されました。

それからそれぞれの前に、それなりに厚みのある紙の束が差し出されました。


「これを読んで、承諾の意志が固まったのならサインをして欲しい。」


窓を背に設置されたデスクについてから、マルハチさんが言いました。

読むには少し時間が掛かると踏んで、自分の仕事でもするのでしょう。

万年筆や紙を用意しています。

同期の3人も契約書に目を通し始めましたので、わたしもそれに倣ってみました。

ミュシャの記憶があるので会話も読み書きも問題ないのは便利ですね。

契約書の内容は想像とは違いました。

特に驚いたのは、


「メイドも戦うのですか?」


その一文を目にし、マルハチさんに問い掛けました。

マルハチさんが顔を上げました。


「マリアベル家の執事室とメイド室は近衛の任務も兼任しているからね。その為に、募集要項には武芸のたしなみが記されているんだよ。あまり公にできない部分だけど、まぁそういうことなんだ。」


そう言われてみれば、確かにミュシャの記憶でも武芸の鍛練のものがちらほらと散見されます。

どうやらミュシャ自身も確信はなかったようですが、その可能性も視野に入れて鍛練を始めたらしいですね。


「すみません。気付きませんでした。」


「武芸は苦手かい?」


「いえ。どちらかと言うと考える方が苦手です。」


「いや正直すぎるだろう!」


マルハチさんのツッコミはけっこう鋭くて、受けてて心地よいですね。

でも、これでなんとか上手く誤魔化せたでしょうか。

とりあえず全部読み終えると、わたしは最初のページにサインをしました。


目的を達成させるには、情報が多い方が捗ります。

魔王の近衛兵であるならば、強い相手の情報はいくらでも入ってくるでしょう。

これはこれでそれなりの好条件だと考え直し、わたしはメイドの仕事に就くことにしたのです。


「これで今から君達はマリアベルの一員だ。宜しく頼むよ。」


書類を纏めながらマルハチさんが皆に向かって言いました。


「ペルシャとニルスは僕と共に兵舎に。」


マルハチさんに連れられると、ふたりは先に執事室を後にします。

退出の際、ふたりはわたし達に手を振っていました。


「では、ミュシャとミリア。あなた達はこちらへ。」


次にわたし達がジョハンナさんに連れられて部屋を出ると、ふたりとは反対方向へと案内されました。

きっとそちらにメイド室があるのでしょう。

今日からわたしはメイドになるのですね。


そこでわたしは気が付きました。



あ、わたし(海子もミュシャも)、家事とかしたことないや。



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