第33話 気になること。
プージャのベッド脇に置いてある、いつもの椅子に座るマルハチの表情は、いつもとは違って険を帯びていた。
「プージャ様。ひとつ、お伺いしたいことがございます。」
顔付きだけではない。
その語気にも、いつになく鬼気迫るものがあった。
マルハチがここまでの張り詰めた気配を漂わせることは、戦闘を除いてほぼ稀。
それだけでもただ事ではないと思わせるに足る様相を呈していた。
「どした?」
にも関わらず、プージャはいつもと変わらぬふんわりとして柔らかな返答を持って応えた。
毒気を抜かれるとは正にこのことだろう。
その答えひとつで、プージャはマルハチの体を緊張感から解き放った。
「あ、いえ、ええと、そのですね。」
「ちゃんと聞くよ?話してみ?」
「申し訳ありません。」
「どした?」
ブロンドの髪をくしゃくしゃと撫で回し、マルハチは大きく息を吸い込んでから話し始めた。
「プージャ様は、ダクリといつ知り合われたのですか?」
その質問にプージャは笑いながら答えた。
「いつって、マルハチが連れてきたんでしょーよ。身寄りのない子だって。そん時に決まってんでしょ。」
「しかし、彼の持つサイコロの力をご存知でしたね?私は知りませんでした。」
「え?聞きたいことってそれ?」
「え?」
プージャのとぼけた返答を予想してはいなかった。
いくらいつも通りとは言え、あまりにも温度差がありすぎた。
「そ、そうですが。」
「別に深い理由なんてないんだけどな。あの子、神出鬼没じゃん。たまたまおやつにチーズケーキ焼いてたらやって来てさ、スゴロクしようってーから付き合ってあげたんよ。そしたらあいつ強いのなんのって。何回やっても勝てないから、なんかイカサマしてんじゃねーのかと思って黒の衝動で締め上げたんよ。そしたら、あのサイコロのせいだっつーのを吐いたってわけ。」
「そ、そんな簡単な?」
「うん、そーよ。ひとっつも深くないっしょ。」
プージャは実におかしそうに笑うだけだった。
「なんでそんなん聞いたん?」
「じ、実はですね。」
プージャの質問に、マルハチは復興で訪れた町で聞いた、あの老婆の昔話のことを話して聞かせた。
「ふーん。確かに、お父ちゃんからその話しは聞いたことあるなぁ。」
「やはり事実なのですね?」
「まぁ、そうだとは思うけど。そう言われれば、ダクリのサイコロとお父ちゃんの昔話のサイコロは同じ物なのかもしんないね。」
「私もそう思っています。もしかしたら、ダクリには何かあるのではないかと。」
「んー。どうだろうね。あの子の家に伝わる家宝とかそんなんかもしんないよ?クペの実みたいなさ。」
「そうでしょうか?」
「だって見た目も子供じゃん。お父ちゃんが若い時にも子供で、今も子供だってのは無理があるっしょ。いくら長寿の種族だったとしても、あり得ないんじゃない?」
「それは、そうですが。」
確かにプージャの言うことにも一理ある。
魔族の中でもとりわけ長寿なアンデッド族と言えど、老化は避けられない。
「まぁ、どうしても気になるなら、今度あいつを見付けたら聞いてみたらいいんじゃん?しばらく屋敷では見掛けないから、またどっかほっつき歩いてんだとは思うけどねぇ。」
身寄りの無いダクリは、マルハチによってマリアベル屋敷に連れて来られた後に、プージャに小間使いの仕事を与えられた。
だがそれも形だけだった。
衣食住を得るには至ったが、ダクリはまともに仕事をすることはせず、常にフラフラと勝手気ままに振る舞っていたのだ。
「聞いて答えるでしょうか?」
「それこそダクリに聞いてみればいいじゃんよ。ちゃんと質問に答えますか?って。」
「プージャ様。私は真面目に話してるのですよ。」
「じゃあ真面目に答えるけど、私だってダクリじゃないから分かりませんからね。本人もいないのにこんな話しててもしょうがないでしょ。それにだ、」
プージャがマルハチに向かってある物を見せた。
「そんなことよりも、今はどっちを選ぶかの方が重要なのだ!週末はお楽しみのイビル・モンストルデーなんだからね!」
それは、ふたつの衣装だった。
マルハチの話を聞く間、ずっとウォークインクローゼットの中身をひっくり返していたプージャだったが、どうやらこの衣装を選んでいたらしい。
「さぁ、どっち!?」
プージャはそのふたつをマルハチの前に突き出すと、勢いよくマルハチに問い掛けた。
マルハチはその衣装をまじまじと見据えた。
ひとつは黒いドレス。
もうひとつは、黒いドレスだった。




