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第28話 正しき道を示すのは

 クロエが剣を落とした。

精一杯戦った。

産みの親である石棺の帝王と同じく、アンデッド族であるクロエは、個としての戦闘能力は決して高くない。

それでも懸命に戦った。

高い生命力だけを頼りに、何度叩きのめされても、何度切り刻まれても、それでもクロエは復活して挑んだ。

それでも、クロエが歴戦の魔王には勝てるはずもなかった。


「誉めて使わそう。スケルトンナイトよ。」


クロエの剣を取り上げると、その眼孔目掛けて切っ先を立てた。


「貴様ほどに食い下がった者は始めてだ。」


そして、クロエの頭蓋骨を打ち砕くように剣を突き立てた。


「下賎なアンデッドの分際ではな。」


動かなくなったクロエの骸を足蹴にすると、氷煌ヘレイゾールソンは扉の前に立った。


「ここか。プージャ・フォン・マリアベルXIII。」


ゆっくりと扉を開いた。




 氷の角は、今度こそ本当に急所を捉えていた。

マルハチは口から大きく血を吐き、ミュシャも体をがくがくと痙攣させていた。

今度こそ本当に、終わりだった。

そんなふたりを見て、ダクリが立ち上がった。


「マルハチさん!ミッちゃん!」


声を張り上げてマルハチの元へと駆けた。

子供ひとり残ったところで、とるに足らないことだ。

当然、氷煌はそう考えた。

しかし、彼が見たものは、その考えを覆えさざるを得ない事柄だった。


子供が男の方に駆け寄った。

何かを話した。

そして、何かをした。


そこで何も見えなくなった。


何も見えなくなったのだ。


「小僧!!」


氷煌は声を荒げ、走るダクリの体を思いきり氷の鞭で叩きのめした。


「ぐあっ!」


突如として襲ってきた魔王の攻撃に、ダクリは成す術なく吹き飛ばされた。

ダクリの手から何かがこぼれて飛んでいった。


「小僧、貴様は何者だ!?何故私が予知を出来ぬのだ!?」


氷煌の言葉には焦りしかなかった。

未だかつて、この能力に打ち勝った者はいなかった。

誰ひとり。誰ひとりとしてだ。

自分が人間の勇者に敗北したのは、単純に人間界の侵略を急いだからだけだ。

力の落ちた環境で戦った結果、予知をした上で力負けを喫した。

もっと時間を掛け人間界も完全なる冬で覆い、自らの絶対領域を完成させてから戦えば負けなかった。

そして今は完全なる自らの絶対領域を完成させている。

その完全なる氷煌ヘレイゾールソンの予知能力が、この子供には発動しなかったのだ。


「答えろ!小僧!」


氷煌が、ダクリの元へとにじみ寄って行った。



 マルハチの目の前に、ダクリのサイコロが転がってきた。


「ごほっ!」


口からおびただしい血が流れた。

ミュシャに目をやった。

背中から氷に貫かれ、だらりと空中で吊るし上げられている。

ダクリに目をやった。

氷煌に打ち付けられ、首の骨が折れているようだ。変な角度で倒れている。

マルハチは考えていた。

内ポケットには、クペの実が三粒残っていた。


マルハチの選択肢は、ふたつだった。


この実を一度に三粒食べると、血を噴いて死ぬ代わりに、本来の力以上の力が発揮される。

今マルハチが三粒食べ、発揮された力を持って氷煌を打ち倒す。


三粒のクペの実をミュシャとダクリに分け与え、三人が力を合わせてこの場を乗り切る。


どちらを選ぶべきなのか。


前者を選べば、もしかしたら氷煌を倒せるかもしれない。

しかし、ミュシャもダクリも確実に死ぬ。

それでも氷煌を倒せれば、マリアベルは助かる。

後者を選べば、三人で逃げるチャンスはある。逃げおおせれば、プージャ達と合流して軍を率いて決戦に臨める。

しかし、失敗すれば自分達三人も死に、国も滅びるかもしれない。


マルハチは決めあぐねていた。


(プージャ様。あなたは、この実を使って僕に何をさせたかったんですか?)


プージャの顔が、嬉しそうな笑顔が浮かんできた。

プージャ様のバカ。

なんで、なんでこんな難しい問題を僕に出したんだ。

僕だって何でもかんでも分かっているわけじゃないし、何でも決められるわけじゃないんだ。


決められない。

僕には正しい道は、分からない。


マルハチの目から涙が溢れそうになったその時だった。

ダクリのサイコロが目に留まった。


(正しい道を示すサイコロ、だったな。)


重い腕を伸ばし、そのサイコロを手に取った。


(僕に、正しい道を示してくれ。)


サイコロを振った。


出た目は、3だった。


サイコロは光を放ち、1の目の時と同じように幻影を映し出した。

しかしあの時と違かったのは、その幻影は半透明ではあるが、プージャの姿そのものだったことだ。


(プージャ様!?)


マルハチは驚いた。


(あれ?どこ、ここ。)


半透明のプージャは頭を掻きながら辺りを見回していた。


(あ、マルハチ。え!?怪我してんの!?どした!?)


マルハチの姿を見付けたプージャは驚きの声を上げていた。

しかし、驚きながらも状況を把握し始めたようだった。


(なるほどねぇ。そーゆーことか。)


(プージャ様。私は、このマルハチめは何を選ぶべきですか?)


(あらやだ、マルハチに頼られちゃうなんて、なんか照れちゃうなぁ。)


(ふざけてる場合じゃありませんよ!)


(分かった分かった。んじゃ、私が決めちゃうよ。いいね?後で怒ったりしないね?)


(はい、怒りません。絶対に。)


(よし。んじゃ、正解はぁー、)


プージャの幻影はマルハチの内ポケットからクペの実を取り出すと、三人に分裂し始めた。

それぞれがクペの実を一粒ずつ持ち、ミュシャとダクリの元へと飛んでいく。

そして、マルハチ、ミュシャ、ダクリの三人の口に実を当てがうと、


(せーの!)


同時に口の中に押し込んだ。



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