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第27話 氷煌ヘレイゾールソン

 氷煌を覆う氷が、マルハチとミュシャの腹部を貫いた。


「ほう。」


かに思えた。

氷煌が笑みを浮かべていた。


「大した反応だ。」


確かに貫きはされたが、ふたりはギリギリで体を捩り、急所だけは避けていた。

氷の角を叩き割ると、氷煌の体にもう一撃加える。


「無駄な抵抗を。」


が、目的は攻撃ではない。

その反動を利用して、ふたりは氷煌を挟むような形でそれぞれ飛び退いた。

宙を舞いながら氷の角を取り除く。

着地と同時に傷口から血が噴き出した。

片膝を付き顔を上げたマルハチは、動揺を隠せなかった。

それはミュシャも同じだったようで、予想外の出来事に目を白黒させていた。

ふたりは完全に氷煌の虚をついた。

反応が追い付くはずのないタイミングで攻撃を仕掛けたのだ。


「確かに速い。良い攻撃ではあった。」


それを完璧に受け止めたのだ。

そして、同時にカウンターまで放ってきた。

精確に急所を狙って。

ほんの僅かでもこちらの反応が遅れていれば、ふたりとも即死である程に精確にだ。


「しかし、私には通用せん。」


氷煌は佇んだままだ。

隙しかない。

もう一度攻撃を加えれば、確実に仕留められる程に隙だらけだ。

腹の傷を押さえながらミュシャに視線を送った。

同じことを考えていたらしい。

ポケットに手を入れている。

マルハチも上着の内ポケットに忍ばせてあるクペの実に手を伸ばした。

これで回復を計り、次の一撃では必ず仕留める。


「それで、その実を口にするとどうなる?」


氷煌の口から放たれたのは、意外な一言だった。


「!?」

「!?」


当てずっぽうではない。

実と、実と口にした。

何を使い何をしようとしているか、奴は言い当てたのだ。

まさか、こちらの思考を読んでいるのか?

マルハチが思いを巡らせたその時だった。


「なるほど、瞬時に傷を治すのか。厄介な実を持っているな。して、それはいくつあるのだ?」


氷煌の言葉は、マルハチの想像とは全くの別物だった。

もしマルハチの思考を読んだのなら、次の言葉は恐らく、それに勘づかれたことに対して言及されるはず。

しかし、マルハチの思考を全く無視して氷煌は喋り続けた。

いや、ミュシャが心の中で氷煌の問いに答えたという可能性は捨てきれない。


「ふむ。まぁよい。何度でも使わせてやろう。かかってくるがよい。」


その可能性も消えた。

ミュシャは質問に答えてはいない。

ならば奴は、何故知り得たのか。

マルハチとミュシャは、同時に実を口に入れると噛み砕いた。

傷口の痛みが瞬時に引いていく。

マルハチは立ち上がった。

ミュシャも立ち上がるのを確認すると、ふたりは同時に地面を蹴った。


 何度か切り結んだ。

今度はカウンターを食らわぬように、細心の注意を払いながら。

いつものようにふたりは超神速の攻撃を繰り出していた。

だが、一撃として氷煌には当たらない。

掠りもしない。

全ての攻撃はかわされ、受け止められている。

おかしいのは、例えこちらの思考を読んだとしても、ふたりのスピードに対応出来るほど、氷煌は素早くはないことだ。

マルハチには知る由もないことだが、ミュシャに関して言えば、彼女は戦闘中に何かを考えたりはしていない。

完全なる無として戦っている。

本能のみで攻撃を繰り出しているのだ。

そんなミュシャを相手に、相手の思考を読む能力を持つ者がいたとして、その相手が氷煌ほどの身体能力の持ち主だとして、敵うはずはない。

ミュシャには分かっていた。

この相手が何をしているのか。

そしてマルハチにも分かり始めた。

この相手の動きを観察し続ける中で、動きの特徴を掴み始めてきた。

氷煌ヘレイゾールソンは、少し先の出来事が見えているのではないか?

再び金属音が響き渡り、ふたりの攻撃が完璧に弾き返された頃、ふたりは一斉に氷煌との距離を取った。


「そろそろ気が付いたようだな。」


その着地を阻むように、ふたりの背後の地面から氷の角が突き出した。


「気が付いたついでにもうひとつ教えてやろう。私は、氷煌ヘレイゾールソンの分身に過ぎない。何故この館を含め、領内に誰もいないのか分かるか?

既に私は、我が軍勢を率いて、貴様らの居城に攻め入っている。

では、これでお開きだ。」


完全に虚をつかれたマルハチとミュシャは避けることも叶わずに、鋭い氷に背中から貫かれたのだった。



 

 

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