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第158話 ランラルちゃんマイラブ。

 ―――アマチュア作家の即売会場を通り過ぎ、いよいよプージャのお目当てがある会場へと辿り着いた。

 

 これまでの雑多で混みあった会場とは一線を画し、その中規模のホールは非常にさっぱりとしたものだった。

 まぁ他の会場と同じく壁がタペストリーで埋められているのは変わらないが、何かしらの即売をするための場所でないことは明白。最奥のステージに向けて2~30人が座れるであろう数の椅子が設けられている。演劇やコンサートの鑑賞にしてはあまりにも小規模過ぎるし、机などが用意されていないため、講義を受けるような場所でもない。

 入り口を潜るとすぐに受付があり、代表してディセイアが話し始める。懐から何やら書状を取り出して提出すると、すぐに話が纏まったらしく、スムーズにサインなどの手続きに進んでいるようだった。

 

「お待たせしました。参加するための簡単なルールがあるようなのでご説明しますね」


 ほんの少しの時間で戻ったディセイアは、プージャに対して丸い番号札に短い柄がついたようなものを差し出した。


「まず、参加者であらせられる魔王陛下はこの番号札をお持ちになって頂き、あちらの参加者席へお掛け下さい。席はこの番号と同じになります」


 プージャの札には14と書かれていた。


「それ以外の我々は、壁際の席で待機になります。それから、オークションのコール方法ですが、1ずつでお願いします。その出品物ごとにロットが変わりますのでご注意下さいね。ロットの詳細はこのカタログに記載してるようですのでお目通しをお願いします」


 そんな説明と共に、少し厚みのある冊子も手渡された。

 カタログと聞き、すぐに中身を確認するプージャ。ミュシャとツキカゲ、そのカタログに微塵も興味のなさそうなふたりだったが、意外にもプージャと共にカタログを覗き込んでいた。


「それで、貴様のお目当ては一体どれなんだ?」

「ええとね、ええとね」


 ペラペラとページを捲る。その全てのページには、何やらどこかで見たことのある戦士やら巫女やら魔法使いやら、プージャの絵本コレクションの中に登場するキャラクター達の絵がびっしりと描かれていた。


「あっ、これじゃないですか?♪」


 ミュシャが指差した。


「おおっ! それだ! ミュシャ正解!」


 薄っぺらい体型に、青いロングジャケットと黒いタイトな革っぽい光沢のあるパンツを合わせた衣装。髑髏を模した仮面を、長いストレートの黒髪の上に持ち上げるようにポーズを取っている。その顔付きはあどけなく、少女のような愛らしさを感じるが、黄金に輝く大きな瞳がどことなく妖しさを醸し出している。

 クロエ・ナバール先生の最新作、真・地獄白書~妖の章~の主人公、ランラル・アルマデルの全身図だった。


「これこれ! ランラルちゃん1/2スケール超特大フィギュア! 1/2なんてゆー多分、過去最大スケールの特注品! 造型師は人間界最高峰の名匠と謳われるっつー、ナァーシェ・ペングリフォンってお方らしいんよ。すごいよねぇ。早く実物をこの目で拝見したいもんだなぁ」


 魔界きっての大作家と、人間界きっての名工との初コラボ作品。それは同時に、魔界と人間界の友好の証しでもある。

 この世でひとつしかないその特別なフィギュアが今日、このブックフェスティバル内で開催されるオークションに出品される。

 その事実をクロエから聞かされてからというもの、プージャはこの日のためにお金を貯め続けてきたのだ。


 …………魔王ならば、もっと別の手で入手出来ようものだが、まぁそこはプージャなので。あくまで正々堂々とした経路で入手することに拘っていた……別の入手方法など考えにも及ばないのが実情なのだが……そういうことだ。




 ―――プージャ達が入室してしばらくすると、オークションの参加者達が続々と集まってきた。

 一応、ここは招待状を持っていなければ入れない特別な場所。

 プージャ達魔王一行も、ヤーポン王国の国賓だからこそ招待状が発行されていた。

 この会場に入室出来るからには人間界各国の富豪達……なのだろうか? 

 雰囲気はそんな感じがしないでもないが、皆が一様に何かしらのキャラクターの仮装をしているようだし、人によってはそこら辺の一般会場を歩いてる文学ファン達となんら変わらない服装をしている。

 とりあえずそんな人々に混じってプージャは所定の席に着き、それを見守りながらマルハチ達も同行者用の席に腰を落ち着けた。

 プージャは緊張した面持ちでカタログとにらめっこし、時にはコールの予行演習のような挙動を取っている。

 マルハチらもそれぞれに時間を潰す。ミュシャとツキカゲは何やら言葉遊びゲームに興じ、マルハチはプージャと同じくカタログに目を落とす。ディセイアはやはり人間だけあり、会場にも顔見知りが多いらしい。しきりに挨拶回りに勤しんでいた。


 そうこうするうちに、オークションの幕が開けたのだった。


 壇上には司会の男女が一組。

 そのどちらも、恐らくは何かのキャラクターの仮装をしているようだ。

 徹底したものだと、マルハチはその様子に内心で感心していた。

 彼らの進行に合わせ、出品物が壇上にお披露目されていく。


・人間界では絶大な人気を誇る作家による直筆書き下ろし特装版。

・大人気作の主人公のものを完全再現、かつ高級素材をふんだんに使って名工が仕上げた衣装。

・敵役ながらも異例の人気を獲得した、絵本界を代表する名キャラクターを象った銅の胸像。

・様々な人気作の作中魔道具を再現、日常生活でも使えるよう加工した武具のセット。

・絵本文化黎明期を支え、文化の牽引役を担った名作の第一巻初版本。

・大御所人気作家があなたを主人公に短編を描いてくれる権利。


 その他にも様々な、この界隈ではお宝とされる貴重かつ贅沢な品々が登場し、次々と競り落とされていく。

 

 そして満を持して、プージャが夢にまで見るほどに渇望した、


・ランラルちゃん1/2スケール超特大フィギュア(造型:ナァーシェ・ペングリフォン)


 のお目見えとなったのであった。


 プージャは震えた。

 まるで生きているような瑞々しさ。マルハチに言わせれば、あんな目の大きな生物はメガネザルくらいなもんだし、あんな変な形をした鼻を持つ生物もいない。

 が、プージャにはそれが生きている本物の魔族のように見えていた。

 それほどまでに精巧に出来ているのは否定出来ない事実ではあったが。


「最近、魔界から入ってきたばかりの魔界の名作、真・地獄白書~妖の章~の主人公、ランラルちゃんフィギュアです! 世界でひとつしかない、このオークションのために製作された特別品でございます! この機会を逃せば二度と手に入ることはないでしょう!」


 司会の女性が煽るように声を張り上げた。


「それでは皆様、ご準備は宜しいでしょうか? まずは1からのスタートとなります。入札、スタートです!」


 男性司会者の掛け声と共に、会場からコールが上がり始めた。


「2!」

「3!」

「4!」

「5!」


 続々と上がるコールにより、ランラルちゃんフィギュアの価格はみるみるうちに吊り上がってゆく。


「ろく!」


 その勢いに負けじと、プージャも番号札を掲げてコールの声を上げていた。


「14番のご婦人から6の声が掛かりました! 7は!? 7の声はございませんか!?」

「7!」

「8!」

「9!」

「10!」

「10です! 10の大台です! さぁ、11はございませんか!? 11です!」

「じゅういち!」


 再度、プージャがコールを掛けるも、そんな程度では終わるはずもない。

 更にコールは続き、ランラルちゃんフィギュアのオークションはヒートアップしていった。


「18!」

「19!」

「にじゅう!」

「20です! 20の声が掛かりました! さぁ、皆様、20ですよ!? 20です!」


 もはや立ち上がらんばかりの勢いで声を張り上げるプージャ。

 この頃には、競り合いに参加しているのはプージャを含め、3名ほどに絞られていた。


「21!」

「にじゅうに!」


 いよいよプージャの予算額が近付いてきた。

 そんな頃合いだった。

 プージャの奮闘を見守っていたマルハチの耳元に、ツキカゲが囁きかけた。


「あの人形のロット、一体いくらなのだ?」


 その質問に、マルハチは笑顔を浮かべる。そして声を出す代わりに、カタログの該当ページを指し示して見せた。


『ランラル・アルマデル1/2スケールフィギュアに入札する際のロット【1=金貨10枚】』


 ツキカゲは額を押さえた。

 つまるところ、プージャの小遣いから捻出された軍資金では、既に4がコールされた時点で予算をオーバーしていたのだった。



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