第153話 パワー・オブ・ラブ!
私のどてっ腹は、よく見知った愛着のある力達によって、ものっそい勢いでグッサリと貫かれていたのでした。
「…………何しに来たんだよ?」
そんな私の耳に届いてきたのは、不機嫌そうなダクリの声。
そして……
「プージャ様に手を出すなと、何回言ったら分かるんだ!? このクソガキが!!」
聞き覚えのある、と言うよりも一番慣れ親しんだ、それでいて聞いたこともないくらいに怒っている、おにしゃんの声でした。
「何回……って、一度も言われたことないけど……」
そんなマルハチの怒声を受け、流石のダクリも戸惑いを隠せない様子だった。
「言ってないかもしれないが、空気を読め! 悟れ! てめー、俺のプージャに二度も手を上げるとか、死を覚悟しろよ? 今この場でてめーのその腐った心根、この俺が叩き直してやる!」
どさくさに紛れ、プージャの体をしっかりと抱き締め、あまつさえ柔らかいとこなんか触っちゃったりなんかして、それがプージャにはとても嬉しかったりもするんだけど、でもそんな場合でもないし、
……プージャは急いでマルハチの名を呼んだ。
「マルハチ!」
この一言に、様々な言葉が見え隠れしていた。
間に合って良かった。
助けに来てくれてありがとう。
今、プージャって呼び捨てにした?
俺のプージャって言った?
そんな怒らなくても。
私のためにそんな怒ってくれたの?
ちょっとお尻触ってるんですけど。
よく私がいる場所分かったね。
とにかく、ありがとう。
「プージャ様、ご無事で!?」
そんなプージャの様々な気持ちが届いてるのかどうかは分からないが、マルハチはプージャに目を落とし、しきりにプージャのお腹を撫でていた。
痛みは、無い。
どうやら貫かれる間際、マルハチがプージャを救い出してくれたらしい。
「お怪我はありませんね!? ああ、良かった……」
プージャの体の様子を見極め、一気に安堵したのだろう。マルハチはプージャを更に強く抱き締め、震えていた。
「ちょっと……まだオイラ、普通にここにいるんだけどな。どうしていきなりふたりだけの世界に飛んじゃうかな」
そんなマルハチの様子に呆れたように、ダクリはしきりに頭を掻いていた。
何故だろう。
あんなに切羽詰まった場面だったのに。あんなに危機的状況を乗り切り、颯爽と助けに来てくれたはずなのに。
どうしてマルハチが現れただけで、こんなに愉快で、それでいて心強くて、私は無敵になった気持ちになれるんだろう。
プージャは震えるマルハチの頬に、そっと手を触れさせた。
それに応えるように、驚いたように、マルハチが顔を上げた。
そして、プージャはその唇に、素早く、でもそっと、唇を重ねた。
「!?」
驚いたのはマルハチの方だった。
まさかこんな状況に口吸いを受けるなんて思ってもみなかった。
「ありがと。マルハチ」
目を見開いたマルハチの顔がすぐ近くにある。
プージャはにっこりと微笑むと、ゆっくりとマルハチの大きな手に、自身の手を添えた。
「もう放していいよ。自分で立てるから」
君主に……君主である以前に、誰よりも大切なこの女性に優しく命ぜられ、マルハチは同じようにゆっくりと、プージャの背を押し立ち上がらせてやった。
「…………」
マルハチは、もう長いことプージャを見てきた。
だから理解した。
こんなプージャは見たことがない。
力強く立ち上がり、一歩踏み出した。
だけど不思議と理解出来た。
今、プージャが何をしたいのか?何をしようとしているのか?
今、マルハチがやるべきことはただひとつ。
「お待たせ、ダクリ」
プージャの後ろ姿から、そんな声が聞こえてきた。
思わず涙が溢れそうになり、マルハチは必死で我慢した。
「まったく、緊張感ってものがないのかい? 貴女達は」
プージャの背中に隠れて見えないが、ダクリの声は実に愉快そうに聞こえた。
「悪いね。それ、よく言われるわ」
プージャ自身の声も、どこか愉快そうに聞こえた。
「いいよ」
「ありがと」
マルハチには理解出来た。
今、プージャは、ひとりで立ったのだ。




