表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/164

第153話 パワー・オブ・ラブ!

 私のどてっ腹は、よく見知った愛着のある力達によって、ものっそい勢いでグッサリと貫かれていたのでした。



「…………何しに来たんだよ?」


 そんな私の耳に届いてきたのは、不機嫌そうなダクリの声。

 そして……


「プージャ様に手を出すなと、何回言ったら分かるんだ!? このクソガキが!!」


 聞き覚えのある、と言うよりも一番慣れ親しんだ、それでいて聞いたこともないくらいに怒っている、おにしゃんの声でした。


「何回……って、一度も言われたことないけど……」


 そんなマルハチの怒声を受け、流石のダクリも戸惑いを隠せない様子だった。


「言ってないかもしれないが、空気を読め! 悟れ! てめー、俺のプージャに二度も手を上げるとか、死を覚悟しろよ? 今この場でてめーのその腐った心根、この俺が叩き直してやる!」


 どさくさに紛れ、プージャの体をしっかりと抱き締め、あまつさえ柔らかいとこなんか触っちゃったりなんかして、それがプージャにはとても嬉しかったりもするんだけど、でもそんな場合でもないし、

……プージャは急いでマルハチの名を呼んだ。


「マルハチ!」


 この一言に、様々な言葉が見え隠れしていた。

 間に合って良かった。

 助けに来てくれてありがとう。

 今、プージャって呼び捨てにした?

 俺のプージャって言った?

 そんな怒らなくても。

 私のためにそんな怒ってくれたの?

 ちょっとお尻触ってるんですけど。

 よく私がいる場所分かったね。

 とにかく、ありがとう。


「プージャ様、ご無事で!?」


 そんなプージャの様々な気持ちが届いてるのかどうかは分からないが、マルハチはプージャに目を落とし、しきりにプージャのお腹を撫でていた。


 痛みは、無い。


 どうやら貫かれる間際、マルハチがプージャを救い出してくれたらしい。


「お怪我はありませんね!? ああ、良かった……」


 プージャの体の様子を見極め、一気に安堵したのだろう。マルハチはプージャを更に強く抱き締め、震えていた。

 

「ちょっと……まだオイラ、普通にここにいるんだけどな。どうしていきなりふたりだけの世界に飛んじゃうかな」


 そんなマルハチの様子に呆れたように、ダクリはしきりに頭を掻いていた。


 何故だろう。

 あんなに切羽詰まった場面だったのに。あんなに危機的状況を乗り切り、颯爽と助けに来てくれたはずなのに。

 どうしてマルハチが現れただけで、こんなに愉快で、それでいて心強くて、私は無敵になった気持ちになれるんだろう。


 プージャは震えるマルハチの頬に、そっと手を触れさせた。

 それに応えるように、驚いたように、マルハチが顔を上げた。


 そして、プージャはその唇に、素早く、でもそっと、唇を重ねた。


「!?」


 驚いたのはマルハチの方だった。

 まさかこんな状況(とき)に口吸いを受けるなんて思ってもみなかった。


「ありがと。マルハチ」


 目を見開いたマルハチの顔がすぐ近くにある。

 プージャはにっこりと微笑むと、ゆっくりとマルハチの大きな手に、自身の手を添えた。


「もう放していいよ。自分で立てるから」


 君主に……君主である以前に、誰よりも大切なこの女性に優しく命ぜられ、マルハチは同じようにゆっくりと、プージャの背を押し立ち上がらせてやった。


「…………」


 マルハチは、もう長いことプージャを見てきた。

 だから理解した。

 こんなプージャは見たことがない。

 力強く立ち上がり、一歩踏み出した。

 だけど不思議と理解出来た。

 今、プージャが何をしたいのか?何をしようとしているのか?

 今、マルハチがやるべきことはただひとつ。


「お待たせ、ダクリ」


 プージャの後ろ姿から、そんな声が聞こえてきた。

 思わず涙が溢れそうになり、マルハチは必死で我慢した。


「まったく、緊張感ってものがないのかい? 貴女達は」


 プージャの背中に隠れて見えないが、ダクリの声は実に愉快そうに聞こえた。


「悪いね。それ、よく言われるわ」


 プージャ自身の声も、どこか愉快そうに聞こえた。


「いいよ」

「ありがと」


 マルハチには理解出来た。



 今、プージャは、ひとりで立ったのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ