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第147話 タネ明かし

「バルモンさん!」


 ミュシャが金棒を支えにしながら立ち上がった。


「なんで本気出さないんですか!?」


 言い放った。


「…………」


 これにはバルモンも閉口した。

 先程も述べたように、ミュシャは完敗を喫したはずだ。

 にも関わらず、ミュシャは、破壊神バルモンが本気を出していないことを非難したのだ。

 

「ミュシャはずっとずっと、バルモンさんと戦いたかったんですよ! それなのに酷いじゃないですか!」


 この少女にしては本当に珍しい。喉が張り裂けんばかりに声を荒げていた。

 これはバルモンにしてみれば言いがかりに等しい。

 破壊神と呼ばれたこの魔王には分かっていた。この娘と撃ち合った二手で理解していた。

 確かに手練れではある。

 だがしかし。


「初めてバルモンさんがやって来たとき、ミュシャは戦いたかったんですよ! なのに、マルハチさんもジョハンナさんも敵わないって、ダメだって!」


 癇癪を起こした子供のようにミュシャが金棒を地面に叩き付け、巨大なクレーターを生み出した。


「だからポイズンリザードタイラントさんの毒なんかで!」


 その言葉に、バルモンの耳朶がざわつくのが分かった。


「娘よ。あの毒を盛ったのはそなたか?」


 唸るような声で、破壊神はミュシャを問い質した。


「そうです! その節はすみませんでした!」


 目にも止まらぬ速度で頭を下げるミュシャ。


「一度、訊いてみたかった。そなたら、あの毒をどうやって盛った?」


 この問いが、ミュシャにとっての好機となった。


「えへへ♪ 聞きたいですか?」

「だから尋ねておる」

「じゃあお教えします。ミュシャはクリームにポイズンリザードタイラントさんのウンチを練り込みました。ジョハンナさんはわざとクリームを足らなくしました。なので姫様はミュシャのクリームを使ってシュークリームを作りました。」


 そのたどたどしい説明に、破壊神は慎重に耳を傾けていた。


「一応、ジョハンナさんがほんの小さな印を付けておきました。それから皆さんの会談にシュークリームを運んで、後はマルハチさんがマジシャンズセレクトを使ってバルモンさんに当たりのシュークリームが残るように給仕したんですよ!」

「そのような、単純な手で?」

「そうですよ! ミュシャは正々堂々と戦いたかったのに! それもこれも、あの時弱かったマルハチさんとジョハンナさんのせいですよ!」


 バルモンの巨大な体躯がうち震えるのが分かった。


「ぶははははは! 笑止!」


 バルモンが動いた。


 ミュシャの小さな体が吹き飛んだ。


 大太刀がミュシャの胴を薙いだ。


 本来であれば、ミュシャの胴は真っ二つに寸断され、夜闇(やあん)の公園に転がっていたことだろう。


 だが、ミュシャは吹き飛ばされた。

 公園を横切り、ロンドンの街を形作る煉瓦造りの建造物に突っ込んでいった。


 真っ二つになるどころか、吹き飛ばされたのだ。


 大太刀がミュシャを切り裂くことはなく、ミュシャは、その鋭い刃を肉体で受け止め、そして吹き飛ばされた。


 あまつさえ、吹き飛ばされる瞬間、破壊神バルモンの頬に金棒を打ち付けるなどという、驚異の芸当を披露した上で。



 破壊神バルモンとは、仁義を尊ぶ武人。

 己を貶めた奸計の安直な顛末は、彼の矜持を侮辱する以外の何物でもなく、それは彼の琴線に触れるに十分に値した。


 対するミュシャは、強者との戦闘に生き甲斐を見出だす、ある意味でのサイコパス。

 相手の本気を引き出すためなら己が用いた悪辣非道な奸計のタネ明かしすらも辞さない。

 それが外道以外の何物でもないとしても。


 そしてこの正反対の属性を持つふたりの駆け引きは、ミュシャに軍配が上がった。



 煉瓦の崩れ落ちた瓦礫の中から立ち上がると、ミュシャは壁を蹴って駆け出した。

 彼女がバルモンに吹き飛ばされた距離を埋めるのに、またしても刹那の時しか要さなかった。

 全力で迫り来るミュシャを迎え撃つように、バルモンが袈裟斬りに太刀を振り下ろす。

 ゴスッ! という鈍い打撃音が響き渡り、バルモンは目を疑った。

 本気の一太刀はこの少女の肉体に侵入することすら叶わかったのは分かっている。

 しかし。

 まさか掌底一撃でこの太刀を受け止めるとは思いもよらなかった。


 魔王の巨大な太刀を弾いて逸らせたミュシャの黄金の瞳が揺らめく線を引いた。


 がら空きになった破壊神の胴体に、渾身の金棒が強かに叩き込まれたのだった。


 


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