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第12話 雀蜂

 騒乱の中、マルハチは肩で息をしながら、石棺の帝王の眼前に立ちはだかった。

周囲は敵味方が入り乱れてはいるが、ふたりを取り巻く空間は静まり返っていた。

まるで、そこだけ切り取られた額縁の中の絵のように。


「ほう、来たか。」


プージャの炎で背もたれが焼け落ちた椅子に腰掛けたまま、石棺の帝王が声を発した。


「お命、頂戴する。」


銀狼から人型に戻りながら、マルハチが鋭く言い放った。


「愉快だな。貴様ひとりで余を討ち取れるとでも?」


石棺の帝王の髑髏がカラカラと音を立てた。

どうやら笑っているらしい。

マルハチはブラスナックルを手にはめると、ゆっくりと構えを取る。

そして言った。


「ひとりじゃない。」


その言葉と同時に、石棺の帝王の頭上から鋭い一撃が振り下ろされた。


「!?」


瞬時に椅子から立ち上がると、魔王は寸でのところでその一撃を避けた。

魔王の玉座は真っ二つに引き裂かれた。

石棺の帝王が振り返ったその先には、大地に深々と突き刺さった大斧を握り締める、ミュシャの姿があった。


「マルハチさん、なんで言っちゃうんですか?」


ミュシャが笑顔でマルハチに非難の言葉を口にした。


「執事と、メイドだと?」


忌々しげに石棺の帝王が歯軋りをした。


「君に手柄を取られたくはないからね。」


しかしそれを無視して、マルハチはミュシャに向かってニヒルな笑顔を浮かべるだけだった。


「なら競争しますか?」


「不毛だね。」


これに怒ったのは石棺の帝王だった。

恐れ多くも魔王である。

その魔王を無視して軽口を叩きあっているのだ。


「貴様ら!余を愚弄するつもりか!」


石棺の帝王が3つの口から同時に怒声を上げたと同時だった。

マルハチとミュシャが超神速で魔王に襲い掛かった。

凄まじく甲高い衝撃音が戦場に響き渡った。

石棺の帝王はふたりの攻撃を辛うじて、手にした錫杖で受け止めていた。


「邪魔するなよ。」


「マルハチさんこそ♪」


石棺の帝王の足元から拳を突き上げたマルハチと、肩口に覆い被さる体勢で斧を振り下ろすミュシャが交互に口を開いた。


「貴様、らぁ!」


錫杖を振り回し、ふたりを遠ざける石棺の帝王。

マルハチもミュシャも大きく飛び退いたが、着地と同時に再び地を蹴った。


まるで雀蜂が飛び回るかの如く、ふたりは目にも止まらぬスピードで石棺の帝王に攻撃を加えていく。

なんとかそれらを防いでいたが、手数が違い過ぎた。

徐々に石棺の帝王は攻撃を受けきれなくなっていった。


 これが石棺の帝王の第二の弱点でもあった。

軍勢を率いた合戦に於いては無類の強さを誇るものの、こと肉弾戦においてはやはり低級魔族であるということ。

どれだけ研鑽を積んだとて、それは埋めようのない事実だった。


「小癪な!」


堪えかねた魔王が錫杖を振った。

それが仇になった。

大振りの一撃は、マルハチとミュシャにとって絶好の隙を見せる行為でしかなった。


「チャアーンっス♪」


ミュシャが嬉しそうに大斧を振り上げた。

が、それよりも小回りの利くマルハチの拳が石棺の帝王の胸元に突き刺さった。


「ごふ、ぁ!」


三つ首の全てから息が漏れた。


「っあー!ダメですよ!ミュシャの獲物です♪」


「僕の勝ちだね。」


大斧が三つ首を薙ぐと、三つの髑髏は無惨にも宙に舞い上がった。


「ミュシャ、やりました♪」


空中で一回転して降ってきた髑髏首のひとつを片手で受け止めると、ミュシャは弾けるような笑顔で言い放った。


「確かに今の一撃、見栄えはいいかもしれないけど、実際の止めは僕だよ。」


別のもうひとつを掴んだマルハチが言い返した。


ふたりの間で、石棺の帝王の体がゆっくりと倒れ伏した。


開戦からたったの一時間後のことだった。


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