表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/164

第145話 はじめから

「え?」


 プージャは、声を漏らすことが精一杯だった。


「あれ? 意外だった? ふふ。確か貴女はガルダ島で歴史の真実に触れたんでしたね。なら教えても問題ないか。」


 ダクリが満面の笑みを浮かべて言った。


「オイラに破れたヴェルキオンネに魔界の統治を任せたのはオイラ。そのヴェルキオンネの血が暴走し、役に立たなくなった時、それを破らせるためにこの【特別】な力をアースラに授けたのも、またオイラ。それだけの話なんですよね」

「え?」


 ダクリからの思わぬ発言を耳にし、発するべきプージャは言葉を失っていた。


「あれあれ? ひょっとしてプージャ様、自分の力がマリアベルにだけ許された、とても崇高なものだとか勘違いしちゃってました?」

「…………」

「ふふふ。そんな訳ないじゃない。アースラもそうだし、貴女だってそう。」

「…………」

「ただのゴブリン族じゃないですか。ただのゴブリン族に、そんな【特別】なんて、ないよ?」

「…………」

「ごめんなさい。実は、さっきの、嘘なんだ。貴女が厄介ってやつね?」


 ダクリの笑みが狂気を帯びるのが分かった。


「ほんと言うとね、始めからこうなるようにしてたんだ。貴女に、過去の色んな魔王の力を集めさせて、それをオイラが総取りしちゃおうってさ、考えてたんだ。だからさ、貴女に力を授けたの。能力を奪う力だけじゃないよ? 魔王召喚を思い付くように誘導したのもオイラ。貴女が召喚の術を目にした時、そう思い付くように、暗示を掛けておいたのさ」

「……はじめ……から?……うそ」


 ダクリの言葉を、プージャは信じることが出来なかった。


「ごめんなさい。でも今度は嘘じゃないよ? プージャ様さ、オイラのこと、自分が召喚した魔王だと思っていた? 違うよ。オイラは神の涙。最古の魔王にして、神の半身。オイラは悠久の時を生きる者。オイラはね、ずっとずっと存在し続けているのさ。それこそ、いつの頃からももう分からない、ずっとずっと昔からね」

「…………」

「ショックだった? あ、でも貴女には少し感謝してる。だって、こんな強い能力を4つも引っ提げてオイラの元に戻ってきてくれたんだから。多分、魔族が持てる能力の中でも最高に近い4つだよ? それを1度に全部ゲットできちゃうんだ。面倒な戦闘もなしでね。うん。ちょっとは感謝するよ、そりゃね」


 しかし、信じる他、なかった。


 何を言うべきか、言い返すべきか。

 プージャには分からなかった。

 心の奥にあるのは、得体の知れない黒い塊だけ。

 様々な黒い塊が心の隅から隅まで駆け巡った。

 

 やる気が出た。

 自信を持てた。

 自分を好きになれそうだった。

 皆の役に立てるかもって思った。


 何の取り柄もない、どうしようもない、ただのへたれな、魔王の娘というだけで、姫というだけで、何の役にも立たない、本当に何も持たなかったへたれ姫だった自分が、


 皆の役に立てるかもって。


 その彼女の希望は今、無惨にも散った。



「泣かないで、プージャ様。貴女は本当に良くやってくれたよ。」


 腰を落としていた階段から、ダクリは立ち上がった。

 そして一歩、再びプージャへと近付いた。


「オイラにはね、野望があるんだ。貴女はその糧になるんだ。」




 ―――壁に映し出された幻像に、クロエの顔が浮かび上がった。

 馬に乗り、剣を掲げ、必死に軍勢を鼓舞している。

 それに応えるように、エッダが、ジョハンナが、アイゼンが。

 ペラが、フォスターが、ゴルウッドが、ナギが、ララが、アイネが。

 ライリーが、メンサーが、アバラハンが、ミズマキが、ライケイが。


 そして、石棺の帝王が。


 総勢、50万にも及ぶ魔族達が入り乱れ、互いに命を削り合っている。

 全員が、それこそ必死に。


 きっと、クロエが勝つだろう。

 一騎あたりの力もそうだが、既に軍略においてもクロエが大勢を占めている。

 きっともうじき、石棺の帝王の知略も失われるだろう。




 ―――マルハチと黒薔薇の貴公子の結末は……まだ分からない。



 ―――そして、映し出されたのは、再び、


「ミュシャ」


 プージャがその名を呟いた。


 大画面に映されたミュシャが笑った。

 笑いながら何かを言ったようだ。

 何を言ったのかはプージャには分からなかった。


「わぁ!」


 ミュシャがスキップの足を止めたのは、とある公園の入り口でのことだった。


「ほぅ。我の相手は、そなたか」


 ミュシャの視線の先にあったのは、彼女の倍はあろう巨大な体躯を持った、巨人種の盟主ギガース族の魔王の姿だった。


 岩にも見間違えるほどに隆起した筋肉を分厚いプレートアーマーで包み込んだ、長い顎髭が特徴的な壮年の男性。腰にはミュシャほどもある長大な太刀を携えている。その岩のような顔付きは精悍そのもので、美しさとは次元の違う魅力を内包していた。


「あは♪ あはは♪ あはははは♪」


 まるで大好きな有名人でも発見したかのように、ミュシャはとんでもない勢いでギガース族の元へと駆け寄って行った。


「お会いしたかったでーす♪」


 訂正。

 彼女にとっては大好きな有名人を発見したと同義だったようだ。


「バルモンさぁーん!」


 ミュシャが翔んだ。

 空中で背中の金棒を抜き取ると、器用に手首で翻らせ、渾身の力で軽く振り下ろした。


「血の気の多い娘であるな」


 破壊神バルモンもまた佩刀を抜くと、その軽妙な一撃を迎え撃った。

 真っ赤に燃え盛る破壊の炎を豪壮に纏わせ、それは初手とは思えないほどに、彼の本気を意味する一撃を持って。


 満月の輝く夜闇(やあん)の公園を、ふたりの放つ破壊の力が真昼のように照らし出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ