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第144話 ショータイム

 マルハチが地を蹴った。

 凄まじい速度で黒薔薇の貴公子との距離を縮め、渾身の蹴りを放つ。


 黒薔薇の貴公子は瓦礫を操り宙に浮かせ、マルハチの行く手を阻む。

 空中に無数にばらまかれた瓦礫は幾重にも張り巡らせた網の如し。マルハチの進路を阻害し、隙あらば瓦礫自体が攻撃を仕掛ける。

 

 五感をフルに活用し、あらゆる方面から迫り来る瓦礫を避け、ようやく辿り着いたマルハチの蹴りは、黒薔薇を覆うように引き寄せられた瓦礫にいとも容易く打ち消された。


 これで何度目だろうか。もはや数えることすらままならない。

 互いの攻撃は一撃必殺の威力を持つ。

 ただの一度ですら、攻撃を喰らうことは許されない。

 彼らの神経を削り合う攻防は、長い間続いていた。

 



「まぁ、こんなもんかとは思ってたけど、随分と早く終わっちゃったもんだね」


 ダクリが呆れたような口調で言った。


 その眼前には、しのぎを削り合うマルハチと黒薔薇の貴公子の姿ではなく、石畳の街を歩くツキカゲの姿があった。


「パワーバランス的にもツキカゲさんが一番早く抜けるとは思ったけどさ、それにしてもあまりにも不甲斐ないよね。そう思わない? ね、プージャ様」


 ツキカゲの代わりに映し出されたのは、床に突っ伏し身悶える、情けない氷煌ヘレイゾールソンの様子だった。


海子(みこ)ちゃんなんて、まだ会敵してもいないのにさ」


 ダクリは笑った。

 氷煌に代わり、壁一面にミュシャの顔が浮き上がった。

 ニコニコと鼻歌混じりに、スキップで夜の街を徘徊しているようだった。


 プージャは唯一自由になる首だけを持ち上げると、冷たい石の床から頬を引き剥がした。

 四辺を巨大な壁に囲まれた、開けた空間。

 その壁の一辺に、マルハチやミュシャ、ツキカゲの姿が投影されている。しかし、ただの壁ではなく、一面に白い大きな円形の模様が描かれている。

 白い円の内部には、反転しているようだがI(1)からXII(12)までの数字が並んでおり、その間には細かな線が刻まれている。

 そしてヴェルキオンネ・サーガで見た通り、円の中心からは長短の棒が伸びていた。

 その様子からして、自分は恐らく、街の中心にある塔の中にいるらしい。

 頭上を見上げると、円形の紋章に繋がる太く長い金属の棒が見える。更には棒と繋がる幾つもの……よく分からない……金属の円盤なのか? いや、円盤にしてはおかしい。縁にはなにやら凹凸が刻まれている。

 しかもそれは、互いに連動して動いているように見えた。

 一言で言うと、得体の知れない部屋だった。


「ダクリ」


 全身を不可視の力で拘束され、首以外は身動きのとれないプージャに出来ることは、彼の名を呼ぶことだけだった。


「はい? 呼びました?」


 ダクリはにこやかに答えた。


「何がしたいのさ?」


 体に力が入らなかった。

 

「ああ、動こうとしても無駄ですよ。だって今、貴女の能力の一部分にはロックが掛かってますから。この4つのショーが全て終わるまで、貴女の体に自由は戻りません」


 横たわるプージャの前には数段の短い階段。

 その一番上に腰を降ろし、ダクリは笑っていた。


「ショー? 遊びのつもりなのか?」


 プージャは歯噛みした。ダクリの言う通りだ。全くもって体が動く気配はなかった。


「遊びとは違いますね。これは立派な戦略ですよ? 貴女から、厄介な力を取り除くための、立派な戦略です」


「…………」


 訝しげな表情を浮かべるだけのプージャに、ダクリはますます楽しくなってきたらしい。

 その場に立ち上がると、階段を一歩下りた。


「分かってるでしょう? 感覚的に。氷煌ヘレイゾールソンが敗北した瞬間、貴女の体に異変があったことくらい」


 が、プージャの顔色は更に曇るだけだった。


「え? まさか、気付かなかったんですか? いやだなぁ、そんなに鈍感だなんて」


 ダクリの真紅の瞳が怪しく輝いていた。


「そしたら、ちょっと未来を占ってみて下さい。どうなるのか見てみましょうよ」


「未来を……?」


 言いかけて、プージャは絶句した。

 ようやく意味が分かった。

 未来は、見えなかった。

 

「そういうことです。お分かり?」


 ダクリの小さな靴底が、更に階段を叩いた。


「貴女達の言う、【特別】でしたよね。オイラはその呼び方、好きですよ。ダサくて。貴女のその【特別】ってさ、厄介じゃないですか。実に厄介だ。でもそれって、強力だから厄介なんですよね。出来れば綺麗さっぱりなくなって欲しいんだけど、そんな強力な力、勿体ないとも思うんだ」


 プージャの訝しげな顔はますます険しさを増していた。


「だからね、オイラがそれを貰っちゃおうと。そう思ったわけで。だからこんなゲームを」

「意味が、分かんない」


 プージャが吐き捨てるように言った。


「あれ? そうですか? じゃあ言い直しましょうか。貴女が倒した相手から能力を奪ったように、このゲームではね、魔王が破れる度に、貴女の中の魔王の能力が剥がれ落ち、オイラに移るよう【特別】なルールが設定されてるんですよ」

「貴女が倒した相手から能力を奪った『ように』? それは全然『ように』じゃない」

「あはは。そうかもしれないね」


 プージャの場違いなツッコミに、ダクリは声を上げて笑った。


「そんなデタラメなルール、意味分かんない」

「はは。デタラメか。それも、そうかもしれませんね」

「そんなの、ルールなんて言わない」


 激しくダクリに噛み付くプージャ。

 それは、彼女の抵抗。

 理解していたのだ。

 彼の言うことが、真実だということを。


「まぁ、ルールなんて言っても、あってないようなものだからね。だって元々、貴女の持つ【他の魔族の力を奪う】なんて【特別】、オイラが与えたデタラメなルールなんだからさ」


 だが、ダクリの言葉は更に彼女を突き放した。



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