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第143話 氷煌ヘレイゾールソンリターンズ!

「貴様には予知の癖があることを知っているか?」


「く、癖……」


「ああ、そうだ。貴様、防御の際には徹底して予知を駆使している。完全に防ぎきるまで、しっかりとな。だが、攻撃の際、貴様はその徹底を怠る。チェックメイトの未来を見た時点で、その先を見ることを止める。だからこそ、2度もあたしに対応を許し、仕留め損ねた。あたしを仕留める未来まで予知していれば、こうはならなかった」


「それに……気付いた……と?」


「ああ。1度目はあたしに背後から鞭で攻撃した際、4本中1本だけを当てた。2度目はあたしの落下速度を見誤った。どちらも、あたしの動きは分かっていても、ギリギリのところであたしが仕掛けを行うことは分かっていない挙動だからな」


 ツキカゲが指に力を籠めた。

 氷煌の体表が、少しだけ溶けた。


「貴様の使う予知は恐ろしくもなんともない。むしろ、あたしが知っている奴の方が、よっぽど脅威的な予知能力者だ」


 そのツキカゲの一言に、氷煌の体を滲ませた水滴は再び凍りつくこととなった。

 

「それは、それはプージャ・フォン・マリアベルのことか?」


 どうやら彼の闘争心に火を着ける……いや、彼の闘争心を大いに凍らせたようだ。


「よく分かってるじゃないか」


 ツキカゲは笑って見せた。

 その笑みが氷煌の怒りを加速させたのは言うまでもない。


「舐めるなよ! あのような能無しに、この氷煌ヘレイゾールソンが遅れを取るものか!」


 氷煌が咆哮した。

 が、


「貴様とプージャの違いを教えてやろう」


 逆にその怒りが、ツキカゲの持つ怒りに火を着けたのだった。


「プージャはな、奴の見る未来は、常に先のある未来。奴は、自分が失敗する未来ばかりを見る。実にネガティブではあるが、奴は失敗を見ることにより、常にそれを乗り越えようとしてきた。

片や貴様には、先のない未来しか見えてないだろう? 常に己の成功のみを予知し、常にそこが貴様の終着点。だからこそ成長もしなければ、予知通りでないと対応もしきれない。

つまるところ、同じ能力を扱ってはいるが、貴様とプージャとの決定的な違いは……」


 ツキカゲの指が触れる氷が、やはり再び融解を始めた。

 彼女の指から放射状に熱が広がり、ぽっかりと穴が開いていく。

 

「魔族としての器のデカさだってことだ。分かったか? バカめが!」


 ツキカゲが、触れていた腕で氷煌を突き飛ばした。

 弱々しくよろめく氷煌。

 伝説に名高い魔王はこの瞬間、魔王ですらない、一介のメイド相手に、完全に気圧されていた。

 

 だが、腐っても魔王。


「ふざけるな……ふざけるなよ!」


 氷煌は再度、吼えた。


「ならばこの私も、全ての未来を見てやろうではないか! 貴様が言う、先のある未来というやつをな!」


 全身を覆う氷がみるみるうちに膨れ上がる。

 怒りが氷煌を変えた。

 

「バカは貴様の方だったな! 私を開花させるとは、敵に塩を送るとは愚かにもほどがあるわ! 望み通り、改めてここで討ち滅ぼしてくれよう!」


 同時にかつてないほどに強烈な冬が、ツキカゲの体を飲み込む…………はずだった。


 だが、ツキカゲは笑っていた。

 笑ったまま、氷煌を見据えていた。


「何が可笑しい!?」


 そのふてぶてしい態度に、魔王たる氷煌ヘレイゾールソンが怒るのも無理はない。

 だが、それでもツキカゲは笑っていた。


「聞きたいか? なら、予知してみろ。あたしが何故笑っているのか、すぐに分かるだろうよ」


「予知だと!? それが何だと言うのだ!!」


 氷煌は、未来を見た。

 

 それは、おぞましい未来だった。


 ツキカゲに貫かれ、氷煌ヘレイゾールソンが、地に落ちる未来だった。


「こ……これは!?」


 未来を見終え、目を見開いた。

 目の前にいるツキカゲは、やはり笑っていた。


「ようやく喰い付いたか。貴様が先の先まで予知するのを待っていたぞ。」


「どういうことだ!?」


 再度、氷煌は、未来を見た。


 それは、おぞましい未来だった。


 ツキカゲに平伏し、氷煌ヘレイゾールソンが朽ち果てる未来だった。


「ど、どういうことだ!? 何なのだ!? 一体!」


 氷煌が後ずさった。


「貴様、何かしたのか!?」


 一刻も早くツキカゲから離れなくてはならない。それだけは分かった。


「何か? 何もしてはいない……今はまだ……な」


 ツキカゲが笑った。

 その瞬間、またもや未来が脳裏をよぎった。

 今度は望んではいない。

 彼の意思を無視して、ツキカゲに殺される未来が、彼の意識に直接流れ込んできたのだ。


「ぐあぁぁぁぁ!! 何だこれは!? やめろ! やめろ!」


 氷煌はその場に膝を突くと、頭を床へと激しく擦りつけ始めた。

 そんな魔王の傍らに、ツキカゲはゆっくりと歩み寄ると、腰を落として話し掛けた。


「まんまと掛かったな、バカめ。貴様が乗せられて、失敗する未来を見るのを待っていたぞ。あたしは既に、貴様の予知を加味した上で貴様を殺す方法を、2万飛んで675通り想定している」


「ぐあぁぁぁぁ!! あぁ、ぐおぉぉぉぉぉ!!」


「貴様の見る未来は、その全てがあたしの頭の中にある、あたしが貴様を殺す未来。あたしがひとたび頭の中でそれを考えれば、漏れなく貴様の予知として貴様の意識に流れ込む」


「やめろ! やめて! やめてくれぇぇぇ!!」


「残りは2万飛んで671回だ。貴様の精神はどこまで持つのだろうな?」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 見たことのない施設。

 名前すら知らない、広い広い空間に、断末魔の声が響き渡る。

 

「好きなだけ死ね。バカめ」


 そんな言葉だけを置き土産に、ツキカゲは駅を後にした。


 


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