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第142話 立証

 ツキカゲは身を翻した。


 再度、20体のサルディナを召喚。

 そして強酸を放出するよう、思念を送った。


(力押しがこの私に通用せんことがまだ分からぬか。下らぬ)


 氷煌の体が光を放った。

 同時に、彼の周囲を取り巻いていたダイアモンドダストは更に強い輝きを放ち、漂う範囲を爆発的に加速させた。

 その密度はまるでホワイトアウト。

 彼を中心とした駅構内は、放射状に広がる真っ白な氷に覆われていった。


(視界を奪えばもはや何も出来まい。白い悪魔に喰われながら、無様な最期を迎えろ)


 強酸の閃光(レーザー)が白く煙る空間の中を駆け巡っている。やはり、氷に覆われた空間の中で進路を曲げられている。

 あとコンマ数秒後には、再びツキカゲ目指して射出されるであろう。

 氷煌には見えていた。

 次に閃光(レーザー)が奴を捉えるのは、奴が床に着地したと同時。


 己自身が放った攻撃により、貫かれて死ぬ。


 どうやらこの敵は悪運が強いようだ。

 先程から、何度か予知と違う結果になっている。微々たる、取るに足らぬ些細なボタンの掛け違いが奴を救っていたのだろう。

 だが今度はそうはいかない。

 逃げ場はない。

 今度こそ、奴は自らが放った攻撃をまともに受け、死ぬのだ。

 閃光(レーザー)の反射が終わる。

 軌道を変えきり、奴の元へと戻る。


 サルディナの放った攻撃は進路を変え、ツキカゲに襲い掛かった。


(死ね!)


 氷煌が胸中で勝利の雄叫びを上げたと同時だった。


 収束した一筋の青い強酸が、氷煌の眉間を貫いた。


(な?)


 氷煌の思考は、完全に途絶えた。

 脳を貫かれたからではない。

 彼の脳は、本来あるべき頭部には存在しない。

 精霊族である彼の脳は、いや脳だけではなく、生命維持に関わる全ての器官は、魔力核に収められている。

 腹の奥底にそれは眠っている。

 彼の思考を停止させたのは、目の前で起きた事実以外に他ならなかった。


 ツキカゲの姿が、消えたのだ。


 彼はビジョンを見た。

 ツキカゲが着地すると同時に閃光(レーザー)の束が到達するビジョンを。

 だが、そこに奴は、いない。

 そして、自身を貫いた一筋の閃光(レーザー)


 全てが予知とは完全に異なる結末だったのだ。




「痛いだろう、バカが」


 思考停止に陥ったことにより、彼の展開させた冬は消え失せた。

 越冬を終えた駅の構内にツキカゲの声が響き渡った。

 声と共に、彼女の薄紅色の美しい顔が床から芽吹いた。


「何度もサルディナを打ち付けるのは、貴様の攻撃よりも数段効くんだ」


 彼女は床から顔を突き出した。

 氷煌には理解が出来なかった。

 ツキカゲの顔を見たことにより、思考は既に動き始めている。しかし、それでも彼には、今何が起きているのか、理解することが出来なかった。


 ツキカゲが現れたのは、線路を敷くために掘られた、大きく深い溝の中からだった。


「無理もなかろう。こんなけったいな溝、普通は存在せんからな。戦略上、見落としても恥ずべきことではない」


 ゆっくりとしたペースで言葉を紡ぎつつ、ツキカゲの体が浮き上がっていく。


「な……?」


 氷煌はその短い、言葉にすらならない声を捻り出すだけで精一杯だった。


「貴様が恥じるとすれば、己の短慮のみだな」


 宙へと浮き上がりつつ、ツキカゲは笑って見せた。


「どういうことだ? 何が起きた? 一体どうやって? どうやって私を攻撃した!?」


 遂に氷煌の思考が正常な速度を取り戻した。


「バカな!? 貴様の攻撃が通ることなど、私は予知しておらぬぞ!」


「だろうな。そこが貴様の底の浅さよ」


 氷煌の問いにツキカゲは意地悪そうな表情を浮かべた。


「貴様はあたしの攻撃が届く前に、未来を見ることを止めた。それだけだ」


「そもそも届くはずがない! 我が予知は完璧! 貴様の攻撃の軌道は全て見切っていた!」


「そこが浅いのだ。サルディナの放つ攻撃は酸。貴様が繰り出した低温では凍らぬ。貴様に気付かれぬよう、貴様の配置した氷の結晶のひとつに細工することなぞ造作もない」


「細工?」


「ああ。表面を溶かし、一筋だけ貴様に向かって反射するように角度を付けておいた。初撃でな」


「なん……だと!?」


「貴様が、あたしに攻撃が届く点までしか予知を行わないのは分かっていた。だから、あたしへの攻撃が終わってから、貴様に攻撃が向かうように調整しておいたのだ。そのタイミングであれば、貴様は絶対にそこを予知することは、ない」


「バカ……な……」


 ツキカゲはゆっくりと宙を移動しながら、言うべき言葉を失った氷煌の前へと舞い降りた。


「バカは貴様だ。貴様の未来予知という能力、凄まじい脅威だとそれは認める。だがそれはな、あくまで使い手が脅威であれば、の話だ」


 目の前で立ち尽くす長身の魔王の胸元に、ツキカゲは指を突き立てた。



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