第11話 激突~賢きミュシャの解説~
石棺の帝王。
千数百年前、魔界を統一し、人間界へと侵攻した伝説の魔王のひとり。
同時に、人間界まで攻め入ることが出来た最後の魔王でもある。
元来、魔族とは非常に自我の強い生命体であり、個の力も人間とは比較にならないほど強い。
人間界を魔界の植民地化することは古来より魔族の悲願ではあるが、如何に強力な魔族であっても、世界征服するためにはその力を結集しなくては成し遂げられない。
故に、まずは魔界全土を掌握し、全ての戦力をひとつのものとしてから、人間界に攻め込むことが魔界の暗黙の認識だった。
しかし、魔界を統一することは先述した通り、強力な魔族の全てを撃破し傘下に治める必要がある。非常に手間が掛かる作業なのだ。
過去のあらゆる魔王は魔界統一自体は成し遂げてはきた。
しかし、統一した頃には、人間界に侵攻するほどの体力は残されておらず、その手前で力尽きることが大体だった。
石棺の帝王もその例には漏れなかった。
人間界に侵攻するに至ったものの、その頃には彼の軍勢は疲弊しきっており、侵攻と同時に人間の勇者に討ち取られた。
実に愚かな歴史だ。
だが、魔族が愚かな民だからこそ、人間界は長い年月を平穏に過ごせてきたとも言える。
さて、それでは石棺の帝王についても触れておこう。
石棺の帝王とは、見てくれ通りのアンデッド族だ。
悪魔種の最下層階級にあたり、魔族の中ではかなり低級の部類に位置する。
基本的には上層階級の魔族に使役される対象の種族の出自だった。
更に言えば、破壊神バルモンや黒薔薇の貴公子のような特別な力も持って生まれたわけでもない、なんの変哲もないただのアンデッドだった。
だが石棺の帝王が他の同族と違たのは、彼がとても功名心の強い個体だったということ。
己の出自を良しとはせず、研鑽を積んだ。
本来ならば上層階級の魔族しか習得し得ないはずの蘇生の秘術を身に付け、ネクロマンサーとなった。
自らが召喚した数多のアンデッドを率い、魔界の常識をひっくり返した。
しかし、それだけなら大勢の上層階級魔族に肩を並べる程度で終わっていたはずだった。
彼には、それ以外にも大きな特別が用意されていた。
彼には生まれつき、人並み外れた戦術眼が備わっていたのだ。
自らの手足の如く動く強力な軍勢と、それを巧みに操る頭脳。
石棺の帝王の軍勢は、魔界最強の軍勢となった。
こうして彼は、己の出自を覆すに至ったのだった。
「はい♪なんだか難しいお話でしたね。
ミュシャ、眠たくなってしまいました!
ではでは、つまんない昔話は終わりにしまして、お話を進めましょう♪
ここからはミュシャがご説明を致します♪
えっと、まず、プージャ様の癇癪によって、期せずして戦闘は開始しました♪
急な開戦で困りましたね。
でも、プージャ様の勇姿に、兵隊さん達のボルテージは最高潮に!
一瞬で装備を整え、皆、一斉に砦を飛び出したのです♪
もちろん作戦だって立てましたよ。
皆が準備している少しの間で、エッダ将軍達は会議をして、それで出陣となったのです。
まずはワンちゃんになったマルハチさんと、お馬さんに乗った騎馬隊を先頭に、機動力に優れた歩兵さん達で構成された一個大隊5000人が魚鱗の陣で突撃しました♪
殿を務めるのはエッダ将軍です!
対する石棺の帝王軍はセオリー通りに鶴翼の陣で迎え撃ってきました。
えっと、魚鱗の陣というのは、お魚の鱗みたいな形で固まって進軍する陣形で、突撃と消耗戦に優れた陣形なのです。
そして鶴翼の陣というのは、鶴さんの羽みたいに広がった陣形のことで、相手を囲い込むのに有利な守りに特化した陣形です。
こんなことも知ってるなんて、ミュシャ、賢いですね♪
マルハチさん達はわーって行って、敵さんとわーってぶつかりました!
一応、マルハチさんはミュシャの次に強い人なので、敵さんはどーん!ってぶっ飛んでいきました!
マルハチさんの割には頑張りましたね♪
ミュシャもお鼻が高いですよ♪
マルハチさんと騎馬隊が楔となって、敵さんはみるみるうちに蹴散らされていきます。
でもそう長くは続きません。
敵さんの数は鶴翼の陣で広がっているとは言え、マルハチさん達の倍以上いるのです。
中に入り込むにつれ、囲まれてしまいます。
マルハチさん、大ピンチ!
ですが、これが作戦だったのです♪
マルハチさん達を囲もうと周囲の敵さんが群がってきた時に、鶴の羽の付け根を狙って、後から出陣した大隊が左右から攻め込んだのです!
敵さんは大混乱!
薄くなったところを狙われて、本隊から切り離されてしまいました♪
実はこれが石棺の帝王軍の弱点だったのです♪
石棺の帝王の軍勢はワンマンチーム。
魔王がいなければ判断力がとっても低下するのです。
分断されてしまった敵さんは、士気の高いマリアベル軍の敵ではありません♪
こうして見事に鶴翼の陣を打ち破り、数の不利を打ち消すことに成功したのです♪
戦局はマリアベル側に傾いたと思いました。
ですが相手は魔王の本隊です。
いくらマルハチさんやエッダ将軍と言っても、そう簡単には打ち破れません。
蹴散らしても蹴散らしても波のように順番に攻めてくる敵さんの攻撃に、マルハチさん達は進むことが出来なくなりました。
このままではジリジリと押されてしまいます。
少しずつ、仲間の兵隊さん達も倒れ始めました。
マルハチさん、大ピンチ!
と、その時でした!
たらったらったらーん♪
なんと!
石棺の帝王軍本隊の真後ろから、伏兵が現れたのです!
その伏兵である小隊を率いていたのは、なんと!
ミュシャだったのでーす♪
ミュシャ、かっこいいですね♪
ミュシャ強い!
挟み撃ちにされて、またまた敵さんの軍勢は大混乱!
これで一気に局面はミュシャ達に好転したのでしたー♪
前門の狼♪後門のミュシャ♪
それでですね、聞いて下さい!
なんとですね、この作戦を考えたのは、プージャ様なんです!
エッダ将軍もマルハチさんも、他の隊長さん達も、意外すぎるプージャ様の作戦に賛成したんです!
姫様、お料理と寝ること以外にも出来ることあったんですね♪
マルハチさんは敵さんの兵隊を飛び越えながら、ぐんぐんと敵陣深くに攻め込みます!
狙うはひとり!
遂にマルハチさんは石棺の帝王の元へと辿り着いたのです!
はい♪以上でミュシャの紙芝居はおしまいです♪
めでたし。めでたし。」
騒乱の中、マルハチは肩で息をしながら、石棺の帝王の眼前に立ちはだかった。
周囲は敵味方が入り乱れてはいるが、ふたりを取り巻く空間は静まり返っていた。
まるで、そこだけ切り取られた額縁の中の絵のように。