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第134話 降臨

 緋哀の樹が大きく揺れた。


 どうやら動力炉に例のあれを撃ち込まれたらしい。

 炉心の爆発と共に誘爆が引き起こされ、主に街塊部(がいかいぶ)から火の手が上がっているようだ。

 メイン動力を失った緋哀の樹は、もはや高度を保てない。

 みるみるうちに地上へと引き寄せられていた。


「最古の魔王の力とは、この程度のものですか」


「さっきのを見ただろ?プージャ様の力がオイラの力を上回った。それだけだよ」


「冗談ではない。奸計(かんけい)しか能のない小者ではないか」


「ふはは。貴様は一体、奴の何を見ていたと言うのだ?」


「誠、愉快な娘よ。今度こそはその真贋、我が見極めようではないか」


「あぁ、貴方が一番、上手くやられたクチでしたもんね。最初に貴方が攻めたときは、そりゃもう終わりかと思いましたよ」


「そのお陰で彼女の危険さに気付いたわけですが。その点では感謝せねばなりませんか」


「気付いたところで、結果は変わらぬ。余の認めた女ぞ」


「貴様らがことごとく脆弱であっただけであろう」


「あはは! 言うね!」


「ご託はよい。参るぞ」


「ふふ、そうしますか。では、地上は貴方にお任せして構いませんね?」


「無論だ。我が腹心がどれほど力を付けたのか、余自身が試してくれるわ」


「ふふ。面白くなりそうだ。さぁ、予備動力を発動させるよ。パーティーの始まりだ」


 緋哀の樹が下降を止めた。

 町から少し離れた平原(ステップ)の上だった。

 プージャらの手が届きそうな、今にも触れそうな、そんな場所で。




「墜落しないのかよ!」


 プージャの口から不平が漏れた。

 噴煙を撒き散らしながら墜ちゆく様は、プージャに確実な勝利を期待させていた。

 だがしかし、緋哀の樹は空中に留まった。

 それは、彼の空中の街が未だ健在である証拠であり、その内部では神の涙が健在である証拠。


「ま、そんな簡単にはいかないと思ってたけどさ」


 自身の見た少し未来の姿そのままの緋哀の樹を、プージャは怨めしそうに見据えていた。


「ですが、これで手が届くのは確かです。あの位置であれば、私以外のドラゴン族による総攻撃も可能ですから」


 銀狼の姿を保ったままのマルハチが、唸るような声で話し掛けた。


「そうです♪ 一気にやっつけちゃいましょう!」

「ああ。ドラゴン族だけではない。我らソーサラーもあの高度なら浮遊術で届く範囲だ」

「うーん……確かにそうかもしんないんだけど……」


 プージャの声は沈んでいた。


「何か気掛かりなことでもおありですか?」

「そうはさせて貰えないと言うか……」


 マルハチの問い掛けに、プージャは頬を掻きながら答える。なんとも歯切れの悪い返答だった。

 

「ならばもう一発かますか? 次は墜とせるだろう」


 ミュシャの金棒を指差しながらツキカゲが楽しそうに笑った。どうやら彼女にとって、先程の一連の攻撃はかなりのツボだったようだ。


「いや……と言うか……うん。すまん。話しすぎた。もう間に合わんわ」


 プージャが頭上を見上げ、3人もそれに倣った。

 そして驚いた。

 彼女の視線の先には、緋哀の樹の釜の底が大きく開き、大量のアンデッド族が飛び降りてくる様が展開されていたのだから。


「な……んだ!? あれは!」

「わぁ! いっぱいですね♪」

「まずいな。見える限りでも、既に我々の手勢を上回ってるんじゃないか?」


 広大な平原(ステップ)を埋め尽くすほどの魔族の群れを目にし、誰もが驚きを口にしていた。

 プージャ以外は、だが。


「いや、すごいね。しかし早いな。尊敬するわ」


 眉をひそめながら、独りごちるように呟いていた。

 

「ひょっとして貴様、これが見えていたのか?」


 そんなプージャをツキカゲが問い詰めた。


「うん」

「だったら早く言え!」

「いや、言っても結果は同じだし」


 悪びれもせずに笑うプージャに、今度はマルハチが問い掛けた。


「つまり、我々が対抗策を講じる前にこれが起こる予定だったと。そういうことですね?」

「そうそう。あちらもあちらで、こっちの手は(せば)めたいようだからね」

「では、我々はどうするべきとプージャ様はお考えですか?」

「そうだねー。うーん。難しいよね」


 珍しく眉間に皺を寄せ、本気で思い悩むプージャを、3人は静かに見守った。

 

「今ここで、地上で全面戦争を始めてもいいんだけど……それは敵の思う壺……と言うか、あいつの意図はそこだと思うんだよね」

「私めも同意致します。ダクリは、神の涙はこちらを誘っている。そのつもりで軍勢を解き放ったのでしょう」

「うん。だけど裏を返せば、それは極力、地上での決戦でこちらの戦力を削ぎたい……詰まるところやはり、緋哀の樹本体に戦力を集中されたくないから……」

「なるほど。目眩ましの意図もある、ということですね?」

「恐らくは。であれば、やはり私達がやることはひとつ。直接、緋哀の樹に乗り込んでダクリを叩くべきだ」

「では、如何しますか?」


 マルハチがプージャに問い掛けた。


 その時だった。



「ふははははは!」


 高々とした笑い声が響いた。

 緋哀の樹から続々と流れ出る軍勢の中からだ。

 プージャ達はその声の主を刮目し、そして驚愕した。


 釜の底から淡い光が溢れ出る。

 その中心に、その者はいた。


 紅い法衣がたなびき、その隙間からは白骨の体が見え隠れしている。手には巨大な黄金の錫杖。

 剥き出しの脊椎の上に鎮座する凶悪な髑髏首を、同じく恐怖を覚えるほどに禍々しい髑髏が挟むように並んでいる。

 一度でも目にすれば忘れることの出来ないその姿は………


「…………石棺の……帝王?」



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