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第8話 黒の衝動~ホルメマヴロス~

 マルハチが目を見開いたその時だった。




邪神像の動きが空中でぴたりと制止した。




(これは?)「止まった。」


マルハチの眉間に突き刺さる寸前で、像はその動きを止めた。


(一体?)


全身から吹き出した汗が服の下を流れているのを感じる。

しかしそれ以上に感じたのは、腕に伝わる更に熱い感覚。

それは

腕の中の君主に視線を移した。

そこにあったのは、不機嫌そうに口をへの字に結んだまま、マルハチの顔をジト目で睨み付けるプージャの顔だった。


「そうだよ。つい今、使えるようになったんだよ。」


「それは素晴らしい。」


「黙ってろって言ったからだよ!」


「ええ。別に今も報告は求めていませんが。」


「プージャ様が助けてくれたんですか?って聞きなさーい!!」


怒声と共にプージャが指をくいっと動かすと、

像が少しだけマルハチに倒れ込んだ。


「痛いです!痛いです!刺さってます!眉間に刺さってます!第三の目が開眼してしまいます!」


「ならばおねー様にお礼言ってから更に数多の称賛の言葉を述べなさーい!」


「痛い!本当に痛い!助けて下さってありがとうございます!すごいです!流石はプージャ様!黒薔薇の貴公子の能力まで手に入れるとは感服致しました!」


「それから!?」


「そ、それから!?」


まるで細い鎖に縛られたかのような感覚に襲われ、マルハチは身動きがとれなくなった。


「それから、プージャ様は魔王の中の魔王です!」


「それは嬉しくない。」


「違います!違いました!プージャ様ほどお美しい方は他にはいません!なんて素敵なのでしょうか!このマルハチ、今腕に女神を抱いているのかと勘違いをしてしまうところでした!」


「よーし。良いだろう。」


マルハチの眉間から角が引き抜かれた。


「ぜぇ、ぜぇ。」


急死に一生を得たマルハチは全力で肩で息をしていた。

それを見て満足そうなプージャが指を動かすと、マルハチの体に自由が戻った。


「今後はもっとプージャ様を大切にすること!あとおやつは一日三回にすること!」


真剣な眼差しで無関係な要求を突きつけるプージャだったが、それとは裏腹にマルハチの表情が険しく変わっていった。


「お喋りは後です。」


気が付くと、ふたりの周囲を無数の黒ずくめの人影が取り囲んでいたのだ。


「なるほど。幻術で見えないよう細工していたのですか。」


マルハチが溜め息をついた。


「すんげーいっぱい。」


「プージャ様。少しお退がり下さい。少し騒々しくなります故。」


「マルハチ!」


「なんです?」


「無事に。」


「御意。」



 ―――プージャに立ち上がるよう促すと、マルハチは構えを取った。


「主を失って尚、挑みますか?(ここでは銀狼化は出来ませんね。)ヤケクソ、と言うやつでしょうか?(この数、流石に厳しい。)」


黒ずくめの魔族達が一斉に飛びかかる。

が、その刹那、

魔族達の首が一斉に舞い上がった。


「マルハチさんはワンちゃんなので、こんな狭いとこでは役立たずですね♪」


声の先にあったのは、ミュシャをはじめとしたメイド達の姿だった。


「すまんが援護を頼む。」


「はい♪ミュシャ、頑張っちゃいますから♪」




 屋敷内には黒ずくめの魔族達が相当な数、潜んでいた。

屋敷の至るところで、マルハチを筆頭とした使用人達との戦いが繰り広げられた。

主を失い、統率を失った兵に勝ち目はない。

黒薔薇の貴公子の残党は次々と討ち取られていった。


マルハチが拳に着けたブラスナックルで黒ずくめの魔族の頭を打ち砕いた。


「これで30人目か。」


息を吐き、立ち上がる。

そんなマルハチの前に現れたのは、スキップをしながら近付いてくるミュシャだった。


「もーいーくつねーるーとー、オームーラーイースー♪」


身長の2倍はあろう長大なポールアックスを片手でブンブンと振り回し、もう片手には黒頭巾を被ったままの生首を4つもぶら下げている。


「マルハチさーん♪ミュシャは40人もやっつけましたよー!」


弾けるような笑顔で言ってのけた。


「流石だね、ミュシャ。僕は50人だ。」


ブラスナックルを外しながらマルハチはニヒルな笑顔を浮かべて答えた。


「あ!間違えました!ミュシャは60人でーす♪」


「いや、僕の方こそ間違えた。70人だったかな。」


「あ!間違えました!80人でーす♪」


「すまない。90人だった。」


「ならミュシャは100人でーす♪」


「なら、ってなんだ。なら、って。僕もよくよく考えてみれば110人だ。」


「ミュシャは10万人やっつけました♪」


「それだけ倒せればひとりで魔界制圧できるんじゃないのか?」


マリアベル家最強の戦士はどちらなのか。

今日もその答えが出ることはなかった。





 ―――こうして、黒薔薇の貴公子は破れ去った。

破壊神バルモンに続き、歴代屈指の魔王をふたりも葬ったことにより、プージャ・フォン・マリアベルXIIIの存在はいよいよ無視出来ないものとなっていった。


この頃には、100以上もいた魔王達も、ぶつかり合いの末に半数以下に絞られつつあった。

より強大な力を持つ魔王達が大国を築き上げ、互いに牽制し合う膠着状態にも突入した。


その容易には動けない状態がマリアベル家には好機となった。

マリアベル家はこの隙に軍備の拡大に時間を費やし、なんとか大国に抵抗できるまでの状態にまで回復していた。



 そんなマリアベル家の領地の目と鼻の先。

石棺の帝王の軍勢が陣を敷いたのだった。





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