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第99話 私が、あなたを……

―――マルハチが顔を上げた。


「プージャ様!俺は!俺はここです!マルハチはここです!!」


 下草の中に膝を突き、マルハチは叫び声を上げた。


「マルハチさん!?」

「どうした!?」


 苦しんでいたマルハチが突如として恐慌をきたした。その姿に、ミュシャとツキカゲは冷静さを取り戻す。今、この瞬間、全てにおいての支柱はふたりに変わった。ふたりが取り乱せば、先へは進めなくなる。


「落ち着いて下さい。まずは息を深く吸って。」


「そうだ。それから話せ。一体何が起こっている?貴様は一体何が見えているんだ?」


 マルハチの体を抱き起こすと、慎重に大樹の根元へと座らせた。それからミュシャはリュックから水筒を取り出すと、ゆっくりとマルハチの口許へと運んだ。


「分からない。分からないけど、戦っている。プージャ様が、戦っている。」


 水筒の水を一気に飲み下すと、マルハチが息を吐いた。


「戦っている?今、か?」


「ああ、今だ。」


「今、どこでだ?」


「サルコファガス。」


「誰とだ?」


「…………僕とだ。」




―――プージャに命ぜられたミリアらは、クロエと合流すべく階段を駆け降りていた。

 騒ぎに気付き、屋敷の至るところで明かりが灯され始めた。


「クロエさんはどこに!?」


「分からねぇ!」


「いや!あそこだ!」


 階段の窓から正門前の庭が見える。明かりが集まっている。その明かりの中心にクロエを見付けたフォスターが指差した。


「なんだ!?どうした!?」


「兵達か!?」


「相当数集まってるぞ!」


 集団の中にはゴルウッドらも見える。全員が夜空を、いや、プージャの戦闘を見守っているようだった。


「しゃらくせぇ!翔ぶぞ!」


 地上階はまだ先だった。ナギは言い終えるよりも速く窓を突き破り、地上へと飛び降りて行った。ミリアとフォスターもそれに続いた。




―――マルハチの攻撃は止むことは無かった。

 凄まじいスピードで、凄まじい威力で、プージャを弾き飛ばし、凪ぎ払い、その度に大気は震え、プージャの体は呆気なく吹き飛ばされていく。

 その度に、サルコファガスの砦は崩壊の一途を辿った。

 このままでは、兵に被害が及ぶ。

 マルハチは信じたい。だけど……


 プージャは決心をした。


「いい加減に!」


 プージャの腕が真っ黒に燃え上がった。


「しなさぁーい!!」


 もはやどこの階層にいるのかも定かではなかった。マルハチに弾き飛ばされ、頭から床に叩き付けられ、突き破り、それでも尚、飛び続けていた。

 が、遂にプージャは空中で体を反転させると、床に足を着いた。


「私はお前みたいに速くは動けん。悪いが、ズルさせて貰うぞ!」


 プージャを追うように飛翔するマルハチ。それを迎え撃ち、プージャが腕を振り抜いた。

 極大の黒の炎(パイロマヴロス)が噴き出された。

 マルハチは身を捩り、炎を避けるべく真横に飛ぼうとした。

 だが、そんな抵抗など嘲笑うかのように、プージャの炎は屋敷の本館ほとんどを飲み込みながら夜空へと噴き上がった。

 あまりに太く膨大な炎の奔流に飲み込まれ、マルハチは無惨に夜空へと舞い上がった。


「すまん!火力は抑えてあるから!」


 プージャは周囲を見回しすぐ側に窓を見付けると、ドタドタと近付いて窓から身を乗り出した。

 どうやら今いるのは二階らしい。真下には庭が見えた。


「クロエ!空を見よ!あと、出来るだけ早く!全員を集めよ!」


 忠臣であるスケルトンナイトに一声掛けると、プージャは夜空を見上げた。

 打ち上げられたマルハチが、今まさに体勢を立て直そうとしているところだった。


(ちっと怖いけど、あれ、やれるかな?)


 プージャは恐る恐る窓から身を乗り出すと、黒の衝動(ホルメマヴロス)を発動させた。自身の足元目掛けて。

 瞬間的に凄まじい重力加速度が襲いくる。途端にプージャの体は窓から夜空へと飛び出した。


(やっぱ怖ぇー!!)


 自らの体を自らの能力で弾き飛ばしたのだ。恐ろしさのあまり、一瞬目を瞑ったが、気を取り直して目を見開いた頃には、彼女の体は既に四階付近にまで達していた。


(理論上では翔べるの分かってたけど、多用するのはやめよ。)


 心中で独りごちながら、勢いが弱まってきたところを見計らって再度、能力を発動させる。

 そして次の瞬間には、プージャは夜空の中、マルハチと対峙していた。


「マルハチ、何故よ?私には分からないよ。」


 プージャがマルハチに問い掛けた。


「何で、何で?裏切ったの?それとも、始めから?」


 マルハチは答えなかった。


「ねぇ、答えてよ……お願いだから……」


 必死で懇願するプージャを尻目に、黒の炎で焼き焦がされたマルハチは、それでも剣を構えた。


「どうして……答えてくれないの……どうして……?」


 俯きながら、プージャは小さく呟く。


「答えてくれないなら……」


 そして、その言葉に合わせるように、


「私は、あなたを殺すしかないじゃんさ!!」


 黒の炎は漆黒の輝きを放ちながら燃え上がった。





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