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第八話 I WANT YOU

「ごちそうさまでした……」


 美味かった。

 感動だった。

 新しい世界が開けた気がした。

 もう今までの黒パン生活には戻れない……。

 くそ、勇者め、俺をどうするつもりだ!


「満足していただいたみたいでよかったですわ」

「うむ。気持ちのいい食べっぷりだったな!」


 ピンクの巨乳がほんわりと微笑み、それに追従するように金髪巨乳が首を縦に振る。


「……、まぁお礼にはなったって思っていいわよね」

「ちょっと驚きだったの」


 赤髪スレンダーと青髪ちびっこが苦笑いを浮かべる。


「それじゃ自己紹介するの」


 ああ、飯に心奪われてすっかり忘れていた。

 というか名前とか聞かないほうがいい気がするんだよね。

 ほら、殺しにくくなるじゃない?

 でもこの流れじゃ無理かな。


「えーっと、たしか君は魔法使いでロリだったっけ?」


 青髪のちびっ子はそんな名前だった気がする。


「違うの、リノなの。子供扱いするな、なの」

「いや失礼」

「失礼にも程があるの」

「まぁまぁ、マグスも悪気があっていったわけじゃないだろうしさ」


 テーブル越しに半眼で睨みつけられるが、赤髪スレンダーが抑える。

 やり取りを見る限り、パーティーの仲はいいようだ。

 背中を預けているので当たり前といえば当たり前だが、Fランク冒険者のパーティーとはやはり雲泥の差だな。


「んで、私はライア=ガルシア。弓使いやってるわ。一応斥候役もできるけど、あまり得意じゃないわね」


 なるほど。

 それで軽装なのか。

 しかし、残り二人も斥候役ができそうには見えない。

 これだと罠の解除や宝箱の解錠とか結構大変なのではなかろうか。


「シャルロット=コリンズ。見ての通り前衛だ」


 金髪巨乳はそう言って胸を張る。

 食事中くらいはその胸部を覆う外部装甲外せばいいのに。


「システィーヌ=ミィシェーレですの。回復役をやらさせていただいておりますわ」


 たゆん、たゆん。

 ……、はっ。

 なるほど、ピンク巨乳は魅了担当か。

 違った、神官か。


 彼女たちは前衛、弓、魔法、回復の四人でパーティーを組んでいるらしい。

 元々はもう一人いたそうだが、少し前に抜けてしまったそうだ。

 勇者パーティー抜けるとかあるんだな。


「ま、まぁいろいろあるのよ」

「は、はぁ……」


 赤髪スレンダーことライアさんがバツの悪そうな顔で横を向く。

 青髪ロリのリノや、金髪巨乳のシャルロットさんも同様だ。


 唯一ピンク巨乳のシスティーヌさんだけは、ほんわかと微笑みながらこちらを見ていた。

 なんだろう、なんかゾワッと来たんだけど気の所為か?

 魔王の存在バレてないよね?

 神官的なアレで見つかるとか勘弁してほしいんですが。


「えっと、もう知っているみたいですけど戦士やってるマグスです……」


 少し冷や汗を流しながらそれだけ言って水を口に含む。


「ねぇ、Fランクって本当なの?」


 俺が自己紹介するとすぐにライアさんが食いついてくる。

 もう知れ渡ってるみたいだし隠すこともない、よな。


「おい、いきなりそれは失礼だろう」

「でも大事なことでしょ」

「それはそうだが……」


 シャルロットさんが慌てて止めるが、ライアさんはどこ吹く風だ。


「いや、別に隠してないんでいいですよ。冒険者カード見ます?」

「ありがとっ!」

「すまん……」


 俺から冒険者カードを受け取ると四人がまじまじと見つめる。


「本当にFランクなの」

「しかもレベル五でスキルなし?」

「いやしかし、彼の装備はBランク、いやAランククラスだぞ?」


 おいおい、レベルとスキルまで見るなよ。

 冒険者にとってレベルやスキルの情報は命綱だ。

 仲間内では当然共有するが、部外者にはあまり教えることはない。


 なんせ自分の力がバレれば、後ろからブスリってのもありえるからな。


 しかしレベル五?

 あ、そういえばここ半年一回も冒険者ギルド行ってないわ。

 魔王がレベル判定できてたから気にしてなかったけど、カードの更新のことすっかり忘れてたよ。


「マグス様は冒険者ギルドにあまり近寄っていないようですし、それでは?」

「ああ、そういうことか」

「なるほど、カードの更新してないってわけね」

「裏の店にしかアイテムも卸してないの」


 どうして? といった様子で四人が揃って俺を見てくる。

 大した理由はないというか、強いて言うなら受付の姉ちゃんにゴブリンのクソ持っていった時に二度と来るなって言われたからかな?

 あの冷たい眼差しを向けられて以降、どうにも冒険者ギルドに苦手意識を持ってしまっている気がする。


「なんというか、冒険者ギルドって苦手なんですよね」

「ふむ、そういうものか」

「でも裏の店って足元見られるでしょ? それに代金を誤魔化されることあるし」


 ライアさんは否定的だが、他の三人は納得してくれたようだ。

 苦々しい顔をしているし、きっと痛い目にあったことがあるのだろう。


「そのようなことがあるのですか?」

「噂では聞いたことがあるの」


 システィーヌさんたちはそれでも少し信じられないといった様子だ。

 まぁ表の世界でずっと生きている人間にはわからないのかもしれないな。

 レベルやスキルの情報だって、Cランク以上の冒険者は公開していることも多いし。


「それで、実際のレベルはいくつなのよ」

「……それ、教える必要あります?」

「え? あー、ごめん。あんたFランクだったよね。忘れてた」


 ライアさんは少し焦った表情で手を合わせて頭を下げてくる。

 いや、そこまでして貰う必要はないけどさ。


「あんた、うちのパーティーに入ってよ」

「はぁ……。はぁ!?」


 いやいや、ありえないでしょう。

 なんで俺が勇者パーティーにはいることになるんだ。

 大体勇者はSSSランクだろ?

 仮に俺がAランクだったとしても足手まといにしかならないはずだ。


「勇者パーティーはいいぞ。なんせ国から有形無形の支援が受けられる」

「関所もフリーパスですし、入街税も取られませんの」

「指定の宿に優先的に泊まれるの」


 その代り魔王を倒す使命が与えられるんでしょう?

 俺、自殺志願者じゃないんで。


「お声がけは有り難いのですが……」

「ちょっ、え、断るつもり!?」


 俺が断ろうとするとライアさんは目を丸くして慌て始める。

 どうやら断られるなんて欠片も思っていなかったらしい。


「Aランクダンジョンを最下層まで踏破出来るほど鍛えてるんでしょ!? 勇者として魔王を倒せば富も栄誉も思いのままなのよ!?」


 うん、そうだね。

 今すぐ自分の首を剣で貫けばボクチン英雄だー!

 ……お断りだわ。


「まって! すぐに答えださなくてもいいからしっかり考えて! お願い!」

「え?」


 ライアさんは急に必死な表情に変わり、涙をたたえて懇願してきた。

 いや、そんな必死に言われると逆に怖いんですが。

 何を隠してるんだこの人。


「ライア、お兄さんが困ってるの」

「うむ、少しみっともないぞ?」

「じゅる、あら失礼。マグス様もお困りですし、一度持ち帰って考えていただいてはいかがでしょうか?」


 まぁ、この場を収めるにもとりあえずはそうした方が良さそうかな。


「もう、無理なの……、耐えられないの……、お願い……」


 ……、なんかライアさんも急に精神崩壊しちゃったし。


「わかりました。一度宿でじっくり考えてみます」


 俺はそれだけ伝えるとそそくさとレストランを後にした。



「勇者パーティーに入るぞ!」

「何言ってますの魔王様。トチ狂いましたか?」


 部屋の扉を閉めるなり、バアルが意味のわからないことを言い始める。

 あれか、ピンク巨乳、違ったシスティーヌさんの魅了にでもあてられたか?


「ちゃうわい!」

「んじゃなんでよ」


 自分を殺すためのパーティーに加入するとか、気が触れたとしか思えないんですけど。

 あれか?

 あまりに長く生き過ぎていい加減死にたくなったとか?


「久しぶりに、食事をした……」

「はぁ?」

「あれだ、あれが食事なのだ」

「はぁ」


 つまり、魔王様は、飯に釣られたと?


「この俗魔王!」

「うるさい! 貴様がまともなものを食べようとしないのが悪いのだろうが!!」


 儂は魔王、王なのだぞ! とバアルが悲鳴をあげる。

 知ってるよ、俺に食われた魔王様だもんな。

 でもゴブリンの家庭料理やスライムさんの刺し身美味しかったでしょ?

 そこまで否定するのは、ボクどうかと思うの。


「はぁ、最初は砂混じりのカビた黒パンで感動してたくせに……」

「ふん。飢えが最高の調味料だったというだけだろう」


 現金なやつだ。

 というか、飯のために自分の首を断頭台に乗せるとか意味がわからない。


「それに、貴様にとってもメリットが有るのだぞ?」

「へぇ? いってみ?」


 飯に釣られた魔王様の言い訳が是非とも気になる。

 どんな無様な言い訳をしてくれるのか。

 俺は期待を込めて続きを促した。


「同じパーティーならラッキースケベに遭遇しやすくなるぞ」

「よしわかった! 加入しよう!」


 いやほら、勇者を始末するにしても同じパーティーの方がヤりやすいし?

 安心して油断したところをサクッと行けるわけだ。

 ならば勇者パーティーに加入するのも悪くないはずだ。


「初めて意見が一致したな」

「ええ。まぁ折衷案というところで」


 逃げるか殺すかの間がを取って、俺は勇者のパーティーに加入することに決めたのだった。

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