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第七話 勇者

「この礼は必ず返すの」

「いえ、お構いなく」


 宙に浮いているお姉様方からなら是非ってところだけど、このチミっ子じゃあね。


「代償を要求しないの? ……その心構え、相応しいの」

「早くベッドに寝かせてあげたほうがいいのではないですか?」

「……。わかったの。感謝するの」


 街に着くとさっさと別れを交わし、宿へと急いだ。



「なんでアドバイスくれなかったか聞いてもいいかなー!」

「いいともー!」


 夜、宿屋の一室で明るく元気な声が響く。


「今日のゲストは豊穣と死を司る大魔王、バアルさんでーす」

「バールじゃないよ、バアルだよ! 皆さんこんばんわー!」


 ちっ、嫌味も通じねぇ。

 こちとら一人でヒヤヒヤしてたっていうのに。


「で、なんで急に黙り込んだのさ」

「あの四人が勇者だからでーすっ!」


 そのノリもういいから。

 って待て。

 今なんつった?


「急にテンション下がるのな」

「いいから。今なんていった?」

「あの四人、勇者だから。ほら儂が喋ってるの万が一バレたら詰むよって」


 ゆうしゃ、ユウシャ、YOUはSHOCK……。


「勇者!? それってあの勇者?」

「そうだよあれだよ勇者だよ」

「えーっと、俺の記憶が正しければ、勇者って魔王を退治するのが使命だったよね?」


 ついでに半年ほど前にバアルが封印されそうになって逃げ出したのも勇者だった気がする。

 それに魔王は普通殺せないけど俺と同化してる今なら、俺ごとなら殺せるとかなんとか。


「儂の記憶がボケてなければその通りのはずだ」

「……」

「……」


 どうする、どうするよ俺!


「こうなったら選択肢なんて一つしか無いだろう」

「そうだな、他に手はない」


 俺とバアルの思いが一つになる。

 出会いは食べられた者と食べた者で最悪だった。

 その前も人類を滅ぼそうとする魔王と魔物を狩る冒険者と真逆の立場だったが、半年もずっと一緒だしね。

 流石にもう以心伝心ってやつよ。


「殺そう」

「逃げよう」

「え?」

「え?」


 真逆だったわ。

 逆方向を向いてたわ。

 誰だよ以心伝心とかキモいこと言ったやつ。


 まぁなんっていうの、出会ったときから変わらない関係性っていうの?

 そういうの、大事だよね。


「いや、もうヤルしかないでしょ? 逃げたって追っかけてくるって絶対」

「いやいや、まだバレたわけではない。致命的な行動をする前に逃げ出せば問題ないだろう」

「いやいやいや、ヤっちゃえばもう追いかけられる心配しなくて済むし!」

「いやいやいやいや、勇者って一人じゃないからね? あのパーティー以外にもいるからね?」


 勇者抹殺を主張する俺と、逃げようとする大魔王バアル。

 話は平行線をたどる。


「それでもお前は大魔王か!」

「それでも貴様は人間か!」


 二人の罵声が重なる。


 畜生、バアルが納得してくれないと暗殺が実行できないじゃないか。

 万が一、手をかけようとした瞬間に声を上げられると詰んでしまう。


「……マグス、確かに貴様はこの半年で強くなった」

「そうだな。誰かさんが馬鹿みたいに魔力譲渡失敗しまくるおかげで、今じゃこの街で一番魔力も多いしな」

「感謝しろよ」

「黙れよ」

「ともかく、レベルは五十を超え魔法とて魔法使いと名乗っても問題ないほどになった」


 ほんと、スライムさんやエルダーゴブリンさんたちには感謝だよな。

 毎日毎日俺の訓練に付き合ってくれて。

 服とかも彼らの奥さんが裁縫してくれるから見違えるほど立派になった。


 ドラゴンさんたちなんて生え変わった牙をくれたりしてさ。

 おかげで俺は属性付きの竜牙剣を四本セットで入手していた。

 装備していないと寂しそうな目をされるので四本とも腰に下げることになったのが辛いけど。

 属性ドラゴンの鱗とオリハルコンの糸で作られた鎧は属性攻撃への完全耐性を有している。


「だが、勇者というのは化物だ」


 化物ねぇ。

 俺からしたら裏表のない魔物より人間のほうが化物に思えるからある意味あっているかな。


「魔王の中の魔王、大魔王の儂でさえ油断すれば……、って誰だ気分が乗ってきたという時に」


 バアルが演説を開始しようとしたところで部屋の扉が叩かれる。

 俺に来客なんて今までなかったけど。

 晩飯も頼んでないはずだ。


「はーい。どちらさまですか?」

「夜分失礼するの。リノなの」

「え?」


 噂をすれば影と言うやつだろうか。

 今まさに話題にしていた勇者が、俺たちのもとにやってきたのだった。


「仲間が起きたから改めてお礼を言いに来たの」


 開けてもらってもいいかと聞いてくるリノに俺は一瞬考える。

 しかし、ここで開けないというわけにも行かないだろう。

 しぶしぶ、俺は施錠を外し彼女たちを迎え入れた。


「なにもない部屋で申し訳ないのですが」

「本当になにもないの」


 自分で言ったことではあるけど入ってくるなり失礼なやつだな。

 何もないっていうけど、屋根も壁もある。


 そしてなんとベッドの他にもテーブルと椅子があるのだ。

 ベッドだって藁の上にシーツを敷いたものではない。

 木箱の上に薄手の毛布が掛けられた素晴らしいものだ。

 路地裏とは比べ物にならない快適さで、かなり立派な部屋だと思うのだが。


「リ、リノ!? いや、ちょーっとばかり質素かもしれないけどさ!?」

「助けてもらった相手にそれはないだろう!」

「そうですよ。失礼ですわ」

「ああ、お構いなく」


 これだから金持ちはと内心苦々しく思いながらも俺は笑みを浮かべる。

 ドッペルゲンガーさんたちにたっぷり指導してもらったからな。

 ポーカーフェイスには自信があった。


「でもここだと話せないの」

「あー、まぁせめて座るところは欲しいわね」

「そうだ、夕食はまだな? ご馳走させてくれ!」

「それはいいですわね」


 お礼に是非と誘われては断れない。

 タダ飯に釣られたわけじゃないぞ。

 もうお金には困ってないし。

 いや、どうにも貧乏性が抜けてないけどさ。



 彼女たちに連れて行ってもらったのは、俺が普段近づくこともしないような超高級レストランだった。

 むしろ視界に入れないまである。

 眩しすぎて目が焼けそうだし。


 さらに個室で、専任の給仕さんまでついているとは……。


 えっ、水有料なの?

 コップ一杯銅貨八枚?

 まじかよ、俺コップについた水滴舐めるだけでいいわ。


「さ、今日は私たちの奢りだ。気にせず食べてくれ!」

「あんたのおかげで私たち死なずに済んだんだから、遠慮しないでね」


 本気で言ってる?

 あとでやっぱ払えって言わないよね?



「う、うまい……!」


 今まで俺が食べていたものはゴブリンの飯だった。

 そう言わざるを得ない美味さの料理の数々。

 あ、もちろんゴブリンの家庭料理はそれはそれで美味しいんだけどね?

 やっぱりちゃんとしたレストランの料理とはちょっと違うわけで。


 しかし、もしヴァンパイアさんが招待されたら食事中に昇天させられてしまうのではないだろうか。

 なんせ食器が銀製なのだ。

 水も聖水だったりするんじゃないかと疑ってしまう。

 だってコップ一杯銅貨八枚だよ?


「喜んでもらえてよかったの」

「えーっと、普段何食べてるの?」

「ずいぶんと美味しそうに召し上がられますのね……」

「う、うむ。食事は美味しく取らねばな!」


 四人が複雑そうに俺を見てくるが気にしていられない。

 それほどにどの料理も美味しかったのだ。


 ワインも飲んだがこれもまた美味かった。

 ドラゴンさんたちの秘蔵の酒に比べると少し落ちるが、それでも場末の酒場に比べると雲泥の差だ。


 それにしてもはじめての高級レストランで少し緊張したが、オークキングさんたちに食事のマナーを教えておいてもらってよかった。

 そうじゃなかったらがっついてしまい、恥をかくところだったろう。

 俺はデザートを口に運びながら、後でお礼をしないとと思うのだった。

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