第六話 BOY MEETS GIRL
「でだ、どうするつもりだ?」
「うーん、まぁ困っている人を放っておけないし」
俺の目の前には四人組の冒険者が床に突っ伏していた。
皆、高そうな装備を身に着けており、剥ぎ取って売るだけで数年は遊んで暮らせるようにみえる。
「その心は?」
「みんな巨乳だから運んだら幸せ感覚が得られそうじゃないですかー!」
「マグス、やはり貴様は屑だな」
うるさいよ。
人類滅ぼそうとしてる魔王様に言われたくないわ。
「しっかし、宝箱回収に最下層まで来てみればまさかだなぁ」
「タイミングが悪かったな」
「GAAAA」
ダンジョン最下層のボスであるフレイムドラゴンさんがバツの悪そうな顔をしながら頬を掻く。
あ、今落ちた鱗もらっていい?
ありがと。
「GAGAGYUA」
「あ、この人たちもくれるの?」
「GYUA」
「あー、そっか、悪いね」
フレイムドラゴンさん的には俺の目の前で同族を殺すのは少し抵抗があるらしい。
別に気にする必要はないとは思うが、律儀な竜だ。
「今度うまい酒持ってくるよ」
「GYAGYA! GUAAAAA!」
「わかってるって。ツマミも忘れないよ」
フレイムドラゴンさんから鱗をもらって床に転がる四人の冒険者の前に立つ。
あー、ちょっとグロいことになってるな……。
流石に見てられない。
少しもったいない気がするけどさっき拾ったエリクサー使うか。
俺がエリクサーを彼女たちに振り掛けると、欠損していた手足が再生していく。
流石に装備は再生しないので中々の眼福だ。
「さて、どうするか……」
「なんだ、連れて行かんのか?」
「いや、連れてくけどさ。ここは慎重に選ばないと」
「選ぶ?」
だってほら、俺一人じゃ四人まとめて運べないじゃない?
そうすると俺が背負う一人以外はゴブリンさんとかに運んでもらう必要があるわけで。
背負う一人は吟味しないとさ。
「マジモンのクズじゃな貴様!」
「うるせえ! 魔王が何いい人ぶってんだよ!」
「どうせなら直接揉めばよかろうに!」
いやー、それだとほら、ちょっと犯罪臭しちゃうじゃないですか。
俺はあくまで善意で動いて、その中でのラッキースケベ的なのがいいんですよね。
「……、真の邪悪とは正義の中に隠れるものということか。それともただのチキン野郎か?」
「とりあえずローブ姿の青髪のロリっ子は外して、 革鎧のスレンダーな赤髪さんもパスだな」
「いや聞けよ!」
あーもう、こっちは真剣なんだから少し黙ってて。
しっかし、バアルとの付き合いも半年か。
気がつけばかなり時間が経ったものだ。
いつの間にか会話もかなり砕けたものになっているし。
「儂、なんでこんなやつに食われたんだろう……」
どうせ食べられるならもっとまともな人間に食べられたかったとか。
失礼な魔王だな。
「うーん、可愛いピンク髪の子とキレイ系な金髪の子……。顔はピンクの方が好みだけど胸は金髪の子の方がでかいな……」
だが金髪の子はブレストプレートを着込んでいる。
これなら白いゆったりとした服に身を包んでいるピンク髪の子を選ぶべきだろう。
「う……」
「ん……」
しまった!?
悩んでいるうちに目が覚めてしまいそうだ!
「ちょいフレイムドラゴンさん! もう一発どついて!」
「ゲスにもほどがあるじゃろ貴様!?」
え、まって。なんでジリジリと引くのさ?
どうして嫁さんと娘さん背中に隠すの?
大丈夫だって、俺は人間だから竜のメスには興味ないから!
「はっ……、無事……、なの……?」
しまった、フレイムドラゴンを説得している間に一人完全に目が覚めてしまった。
くそ、この駄竜め!
いや、優柔不断な俺が悪かったのか……。
「反省だな……」
「反省するところが違うとバアルさんは思うんだ」
いやまて、まだチャンスはある。
「諦めたら、冒険者は終わりだっ……!」
「かっこよく言ったつもりだろうが、内容は最悪だな」
冒険者は四人、そして今起きた一人はちびっ子だ。
つまり、スレンダーな子を起こして一人を担がせればもう一人は俺が担ぐことになる!
これだ!
「やぁお嬢さん、大丈夫ですか?」
「誰なのっ……!」
なんかめっちゃ警戒してるし。
俺、そこまで怪しい格好じゃないよね?
昨日スライムさんに洗ってもらったばっかりで臭いもしないはずだし。
「通りすがりのFランク冒険者です」
「Fランク冒険者がダンジョンの最下層? 冗談はよすの!」
え?
あ、そっか。
ここダンジョンだったわ。
普通に考えたら相当な実力者しか最下層には来れない。
ここ半年、顔パス魔物の案内付きでうろついていたからすっかり忘れていた。
他の冒険者と鉢合わせしないように誘導までしてもらってたし。
「えーっと、諸事情ありまして……」
「……。もしかして、最近噂になってるFランク冒険者のマグスなの?」
「噂になるようなことしてないと思いますけど、一応たぶんそれです」
俺が答えると青髪ロリっ子は少し肩の力を抜いた。
「ここ半年で急激に伸びてきた冒険者がこの街にいるって結構な噂になってるの」
「へぇ……?」
彼女いわく、ダンジョンの深層でしか取れない竜の鱗やエリクサーなんかの供給がここ半年急増したらしい。
しかもその供給源は信じられないことにFランク冒険者だという。
その冒険者はたった一人でダンジョンに潜り、毎回無傷で帰還を果たしているらしい。
さらには彼が戦っている姿を見たものは誰もおらず、尾行もあっさり巻かれてしまうそうだ。
また、その冒険者がアイテムを売る先は裏の世界の店で情報収集が出来ないと。
「それでレベル上げついでだけど、様子を見るために私たちのパーティーが派遣されたの」
あー、うん。
たぶんというか確実に俺のことだわそれ。
おとなしくダンジョンに篭ってたつもりだったけど、言われてみればたしかにおかしい。
まずいな、どう誤魔化せばいいんだ。
おい、魔王様、こういう時に知恵を貸すのがあんたの仕事だろうが。
何黙ってんの。
「でもここのフレイムドラゴンに遅れを取っちゃったの……」
「なるほど」
フレイムドラゴンさん強いからなぁ。
「まさか三体もいるなんて信じられないの……」
お父さんもそうだけど嫁さんと娘さんも含めれば三体もいるわけで。
そりゃ勝てないよね。
「私も脚、無くなったはずなのに戻ってるの。これ、マグス、さんが治してくれたの?」
「ああ、まぁ。あはは……」
「感謝するの」
そう言ってペコリと頭を下げてきた。
その仕草は中々可愛らしく、彼女も悪くないかと一瞬思ってしまった。
まぁ目が覚めてるから無理だけど。
「自己紹介がまだだったの。私はリノ。魔法使いなの」
「えっと、もう知ってるみたいだけど戦士のマグスです」
なるほど、それでローブ姿なわけね。
元々帽子をかぶっていたが、それは燃やされてしまったらしい。
「さて、これから撤収しなくちゃだけど……」
消耗品は全て失い、装備も殆どが破損。
これでは帰還前に力尽きてしまうと彼女は俯いた。
「助けてもらっておいて図々しいかもなのですが、街まで護衛をお願いしたいの」
「ええ、もちろんいいですよ」
「ありがとうなの!」
「困った時はお互い様ですから」
そうと決まれば早く赤髪の子を起こそう。
と、思ったのだが……。
「レビテーション」
彼女が一言唱えると、未だ転がっていた三人が空に浮く。
「これでお荷物はなくなったの」
「ソウデスネー」
「?」
「ナンデモナイデス」
俺は失意を胸にダンジョンを登っていった。
「凄いの……、魔物と全く遭遇しなかったの……」
「あー、俺、結構勘がいいんで」
魔物たちが皆、俺の気配を察知すると道を開けてくれていた。
顔パスに慣れすぎてて全然気が付かなかったが、そういえばこれもおかしいのか。
「魔法もなしに罠も全て看破してたの」
「か、勘がいいんで……」
新しく出来た罠とか来る度にゴブリンさんたちが教えてくれるんだよね。
大体作るパターン同じだし、目印も着けてくれてるから無意識で避けてたよ。
「……、そういうことにしておいてあげるの」
戦士兼斥候、是が非でもほしいの。
そんな不穏な言葉を聞かなかったふりをして俺は街へと向かった。