第五話 魔法の輪舞曲
「それではまずは軽い攻撃魔法を使ってみるのだ」
「はい!」
翌日、街から少し離れた丘で魔王様指導の元、魔法の練習を始めた。
のだが……。
「……」
「……」
えーっと?
「どうした、使ってみせろ」
「いや、使えませんけど?」
「なに?」
なに? じゃないし。
何言ってるのこの人。
ただのFランク冒険者が魔法なんて使えるわけがないだろうが。
そりゃ魔法使いの一族に生まれてればレベル二十にもなれば初級魔法が使えるようになってるだろうけどさ。
俺は一般庶民、エリートじゃないんですよ。
「本当に使えないのか?」
「はい」
「本当に本当に?」
「ええ、まぁ」
「あれだぞ、火炎輪程度の魔法でも構わないのだぞ?」
先生、火炎輪って上級魔法ですよね。
それが軽い攻撃魔法と申すか。
「予想外だ……」
「むしろなんでそんな発想になるんですか」
「貴様がゴミすぎるというだけだと思うが。しかし、むぅ……」
魔王様いわく、今まであったことのある人間は皆、聖級以上の魔法を使いこなしていたそうだ。
なので人間は魔法が得意なのだと思いこんでいたらしい。
「そうなると貴様、剣術ももしや?」
「えーっと、スライムさんのことでしたら、あれ、俺なりに必死で剣を振り回してましたよ?」
「あれは遊んでいたわけではなかったのか……」
魔王様いわく、今まであったことのある人間は皆、斬撃を飛ばしたり岩を剣で切り裂いたり出来ていたそうだ。
なので人間は剣も得意なのだと思いこんでいたらしい。
だが、俺は魔法も使えなければスライムさんの分体にダメージを与えるのにも全力だったのだ。
しかし魔王様目線では俺は遊んでいたようにしか見えなかったらしい。
感覚共有しているんだから分かれよと思う。
「それにしても、魔王様に人間の知り合いっていたんですね」
「ああ。数年に一度、人間が儂を討伐しようとやってきていたからな」
あー。
なるほどね、なるほど。
聖級魔法を使えて斬撃飛ばしたりできる魔王を討伐しようとする人間ね。
俺、それ心当たりあるわ。
「それって勇者とか名乗ってませんでした?」
「ん? よく知っておるな」
「はっはっは。ふざけんなボケッ!」
え、なに、俺勇者と比べられてたの?
俺のことゴミとか言っといて自分が常識ないだけじゃん!
「基準が勇者とかバカじゃないんですか? 魔王様っていうかバカ王様ってなのった方がいいですよ。むしろ王すらいらねぇ、バカ様で十分だろ! 人間の最高峰、神の祝福を受けた勇者と底辺オブ底辺な俺を同列で語ってくれてんじゃねーぞ!」
「ちょ!? 何急に!? というかそこまでいうか!? そもそも貴様の能力が不足していることであって儂が悪いんではなかろうが!」
はぁ……。
なんか魔王様が小難しいこと言っているけど何言っているのかよくわからない。
だが、怒っていても仕方ないか。
「すみません、言い過ぎました。人間、誰にだってミスはありますよね」
「え? あ、急にテンション下げられると反応に困るんだが。まぁ、そうだな……?」
魔王様はなにか釈然としない様子をしている。
うん、もう一つ釘を差しておこう。
「魔王様は人間じゃないけど」
「うっ……」
ともかく、魔王様は俺に魔法を教えることは出来ないようだ。
なんせ魔王様が使える魔法で一番ランクの低いものが上級魔法の火炎輪らしく、初級どころか生活魔法も使えない俺では全く理解が出来なかったのだ。
仮に理解できたとしても魔力が足りなさすぎる。
レベル三百オーバーの勇者とようやくレベル二十の底辺冒険者を比べるのが無茶なのだが。
「はぁ……」
「あ、いや、なんかすまん、な?」
「もういいですよ」
ゴブリンに教えてもらいますから。
俺がそういうと魔王様は震える声で自分はゴブリン以下かとつぶやいた。
「いや、ゴブリンもそこまで悪くないと思うんですよね」
「そういう問題ではないわ!」
「えぇ……」
魔王様の怒るポイントがよくわからないな。
「まぁよい。儂は魔王だからな。広い心で許してやる」
「そないですか」
俺は肩をすくめるとダンジョンへと向かった。
「おげぇえええええ! うぶぽぶう……!」
「魔王様……、マジうるさいです……」
大体そんな声出したところで胃のない魔王様じゃなんにもならないだろうに。
「うっぷ……」
「GUGYAGYA……?」
「すみません……、ちょっと気持ち悪くて……」
「ちょっと、どころじゃ……うぶ……」
ゴブリンの爺さんから紹介してもらったゴブリンメイジに生活魔法の点火を教えてもらっていたのだが、練習しているうちに目が回ってきた。
それでも続けていたら吐き気がし始めたのだ。
これがあれか、洞窟内で火魔法を使うと毒が出るとかいうやつなのか……?
「貴様……、魔力切れだ、愚か者め……」
「魔力切れ……?」
魔力が切れるとこうなるらしい。
そういうことは早くいってほしかった。
「あ、すみません。俺が無知なのが悪いんで……」
「GYURAGYURA。GUGURA」
「いえ、少し休めば大丈夫です」
ゴブリンメイジさんが心配そうに背中をなでてくれる。
彼は魔力譲渡などが出来ないらしく、俺は自然に魔力が回復するか魔力ポーションを飲むかしないと回復できないらしい。
「ふん……。ならば儂が魔力をくれてやる」
「え、そんなこと出来るんですか?」
「儂は魔王、魔を司るものだぞ? それくらい当たり前じゃ」
そういうと腹が輝き出す。
「お、おぉ、何かが満ちてくる……。ってぐああああああああ!?!?!」
「ぎゃあああああああ!?!?!?」
全身を切り裂くような鋭い痛みが走り、俺は意識を失った。
「ダンジョンの天井だ……」
目を覚ませばフカフカの柔らかい何かの上で、俺は仰向けになっていた。
「GYURA?」
「PURURU」
「えっと、一体何が……?」
「GURARA」
どうやら俺は魔王様から魔力を譲渡された直後に悲鳴を上げて倒れたらしい。
それでゴブリンメイジさんがスライムさんを呼んできて俺を寝かせてくれたらしい。
「あー、魔王様、まだ寝てますか? 寝てたら起きてくださいな」
「う……、ん……。はっ……。ダンジョンの天井だ……」
「それ俺がさっき言いましたから」
「え、あ、かぶった?」
「はい」
いや、そんなことはどうでもいいんっすよ。
さっきの激痛のこと、説明してくれへん?
「……、貴様の最大魔力量が想像していたものよりかなり少なかったのが悪いのだ」
「なるほど、それで?」
「正直すまんかった!」
うんうん、わかればいいんだよわかれば。
魔王様いわく、容量がないところに無理やり魔力を押し込もうとした結果、全身に激痛が走ったらしかった。
「しかし危ないところだった。危なくパーンとなるところだったぞ」
「魔王様はいくらでも復活できるかもしれませんけど俺は無理ですからね?」
そんな軽く言わないででほしい。
「いや、儂もそうなったら消滅するぞ?」
「は? 魔王っていくら殺しても復活するんじゃ?」
「それは半分合ってて半分は違うな」
確かに体力を全て削られたり身体を切り裂かれても世界に満ちる瘴気がそのうち魔王を復活させてくれるらしい。
「そんなわけで先日うちに来た勇者は儂を封印する呪具を持ってきよってな」
封印されると復活もクソもないので命からがら逃げ出したそうだ。
ただし、今は俺に同化してしまっているので俺が死ぬと引きずられてそのまま魔王も死ぬらしい。
「まさかこんなことになるとは思ってもおらんかった」
「え、それってもしかして俺、勇者に狙われるってことですか?」
「おお、よくわかったな! バレたらそうなるな、はははは!」
「それはやばいっすね! はははは! ってふざけんな!」
いや、マジでやばいんですけど……。
俺、目立たないように大人しくしておいたほうが良さげかな。