第四話 分裂スライムとレベルアップ
「な、なぁ……、たまにはベッドで寝ないか?」
「え? ベッドならあるじゃないですか」
俺は魔王様の言葉に藁のベッドを指差す。
「違う、違う。そうじゃない、そうじゃないのだ……」
「はぁ、仕方ないですね。そこまで言うなら明日はちゃんとしたベッドにしてもらいますよ」
ここのところ安定して収入も入ってるし、プチ贅沢をしても構わないか。
毎日というわけには行かないけど、週に一度くらいはね。
「本当か! よかった……、よかった……。毎日毎日ダニに食われて痒くてかなわんのだ……」
憔悴しきった声で言われるとなんだか心苦しくなってくるんですが。
藁のベッドも悪くないと思うんだけどなぁ。
「そこまで痒いですか?」
「当たり前だ! そもそもなんで貴様は風呂にも入らず平気なのだ!?」
「ぷっ」
「な、なんじゃ!?」
風呂とか、笑ってしまう。
冒険者たるもの、風呂に入るなど軟弱なことはしない。
まぁ泥だらけになったりしたら擦れて痛いから川で落としたりはするし、月に一回くらいは水浴びをするけどその程度だ。
「信じられぬ……、ゴブリンとて水浴び程度は毎日するというのに……」
「え、そうなんですか?」
あー、こないだゴブリンから水浴びに誘われたのはそのせいか。
ちょっと不潔に思われたのかもしれない。
「んじゃ今日は水浴びをするよ」
「風呂に……、いや、よい。千里の道も一歩から、コツコツとじゃな……」
「ぎゃああああああああああ!!!!!」
「ちょっと魔王様、うるさいですよ」
まったく、魔王様が自分で風呂に入りたいって言ったのに。
なんでこんなに泣き叫ぶかね。
そりゃ風呂とは少し毛色が違うというか、ちょっとくすぐったいかもしれないけど。
「にょりゃああぎゃめでえええええええええ!?!?!?」
「ああ、もう。すみません、うるさくて」
「PULULU」
せっかくスライムさんが背中を、というか全身を流してくれているっていうのに。
そんなに叫ぶなんて失礼だろう。
しかも洗うだけじゃなくていい感じに全身マッサージもしてくれている。
ここのところ毎晩魔王様に計算を教えてもらったりしてて肩が凝ってたからとても助かる。
「あー、そこそこ……。スライムさんほんと上手ですね」
「PURURU~」
「へぇ、そうなんですか? 大変じゃないです?」
「PUPURURU」
裸の付き合いというやつだろうか、互いに心置きなくスキンシップが取れる。
おかげで相変わらず言葉は通じないが、スライムさんともかなり仲良くなれた気がする。
「え、そんなこと出来るんですか?」
「PURUPURU」
「それでしたら、お願いしていいです?」
「PUPU!」
墓から魔石を回収し始めて数日後、魔王様からレベルも上げないと不自然だって注意されてたんだよね。
ただ、魔石と違ってレベルは本当に魔物とかを倒さないと上がらないからどうしたものか悩んでたけど、まさかの解決だ。
「魔王様、スライムさんがレベル上げに協力してくれるそうですよ。やりましたね!」
「……」
「あれ? 魔王様? 魔王様ー? あー、すみません。魔王様、気持ちよくて寝ちゃったみたいです」
「ちゃうわい!」
「あ、起きました?」
「PUPU、PULULUー」
「もう突っ込まぬぞ、突っ込まぬからな!」
「はぁ……?」
その後、俺はスライムさんの分体をひたすら倒す作業を続け、レベルを二十も上げることが出来た。
今までのなんと四倍だ。
五掛ける四で二十だからな。
ふふふ……。
レベルも上がり、計算もできるようになり、生活も余裕ができた。
味はいまいちだったが、本当に魔王様を食べてよかったと思う。
「それで、その礼がこれか?」
「はい、ご所望のベッドです」
今日は奮発して藁の上にシーツを敷いてもらっていた。
これだけで馬小屋半泊分、銅貨一枚も取られるのだ。
まさにプチ贅沢といえよう。
「週に一度くらいはこういうのもありですよね」
「……」
「魔王様? 魔王様ー?」
魔王様は嬉しすぎてもう寝てしまったようだ。
せっかくのベッドなのだからもう少し楽しんでもらいたかったんだけど。
ま、俺ももう眠いし早く横になるとしよう。
「明日は魔法の練習だし、楽しみだな」
レベルも上がり、魔力も増えたということで明日からは魔王様から魔法を教えてもらう予定になっている。
魔法、それは超常を操る奇跡の術。
一生底辺冒険者で終わるはずだった俺には関係のない話のはずだった。
だが、その奇跡を俺は掴むことが出来た。
「ここ一週間、本当に大変だったからな。その努力の成果が、ようやく実を結んだと思うと喜びもひとしおだな」
「貴様のどこが努力をしたというのだ……」
「あれ? 魔王様まだ起きてたんですか?」
「気絶したままの方がまだマシだったように思うがの……」
俺のつぶやきで起こしちゃったかな。
少し申し訳ない気になる。
「貴様がこの一週間したことが大変だったと申すか……」
「え? ええ、そうですね。でもそのかいあって、レベルもあがりました。こうして宿にも連続して泊まれるようになりましたし今日はなんとシーツも敷いています。努力ってするものですね」
「貴様にとって努力とは、ゴブリンに案内してもらい宝箱を開け、墓を掘って魔石をもらい、そしてスライムに動かない分体を倒させてもらうというものなのか!?」
「えーっと」
あれ?
そう言われると俺、何もしていない気がする?
「いや、ダンジョンを歩くのも神経使いますし、墓掘るのもけっこう大変ですからね? あと相手が動かないって言っても剣を振るうのって疲れるんですよ」
「っっっっっ!!!」
「それに毎晩勉強漬けで頭も疲れましたしね」
「き、貴様っ、貴様はっっっ!」
え?
魔王様、なんか怒ってる?
なんか俺怒らせるようなこと言ったか?
「ふ、ふぅ、よい、よいのだ……」
「はぁ」
「この一週間で貴様のダメっぷりはよく理解した」
明日からの魔法の練習は覚悟しろ。
そういうと魔王様は完全に黙ってしまった。
「えーっと、とりあえず激励してくれたってことでいいのかな?」
俺は明日から始まる魔法の練習に思いを馳せ、ゆっくりと目を閉じるのだった。