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第三話 魔石と墓荒らし

「はー、久しぶりの宿だ。これも魔王様様だな」

「……」

「どうしました? 魔王様?」

「い、いや、これが貴様の言う宿というものか?」

「はぁ、そうですけど?」


 そう言って俺はフカフカの藁を軽く押し込む。

 少しチクチクするが、暖かく素晴らしい寝床だと思う。


「宿というのは、他の冒険者たちが登っていった、階段の上にある部屋のことを差すのではないか……?」


 震える声で魔王様がそんなことを言ってくる。


「ああ、あっちもそういいますね」

「あっちしかいわんわ!! なんだここは!!」

「え? 馬小屋ですけど?」


 まったく、魔王様は一般常識に欠けているらしい。

 まぁ魔『王』っていうくらいだからある程度は仕方ないのかもしれないけど、これは俺が教えていかないといけないな。


 魔王様が俺へ計算とかを教えて、俺が魔王様に一般常識を教える。

 以前神官の人が言っていた相互利益の関係ってやつだ。


「一泊銅貨二枚。五日泊まっても……、銅貨十枚なんですよ、ここ」


 俺にだってこれくらいは出来るんだとアピールの意味も込めて指で五泊したときの宿泊費を計算して答える。


「つい先程収入があったばかりではないか! なぜわざわざ馬小屋なのだ!?」


 俺のアピールは無視っすか、そっすか。


 ともかく魔王様はもっと豊かな生活が送りたいと言いたいらしい。

 そんな贅沢許されるわけ無いでしょうに。

 さっき確かに収入はあったけど、一体何日もつかなんてわからないからな。

 早く一般庶民の暮らしに慣れてもらわないとな。


 この馬小屋なら、運が良ければカビの生えた黒パンだって貰えるのだから。

 ま、今日は固くなった黒パンを買ってきてるから貰えなくても大丈夫だけどさ。


「もう少し志を高くもて! それでも男か!?」

「そうはいっても、俺は毎日のパンにも事欠くFランク冒険者ですよ?」

「うごごご……」


 現実を教えると魔王様はうめき声を上げて黙ってしまった。

 辛いかもしれないが、こういうのは早いうちに知っておいたほうがいい。

 あとになって気がついても遅いからね。

 それこそ、昨日の俺みたいにその日食べるパンの代金がないことに夕方になって気がついても手遅れなんだ。


「決めた、決めたぞ……」

「え? なんです?」


 現実を受け止める気になってくれているのなら嬉しいんだけど。


「儂がマグス、貴様を教育してやる!」

「あ、計算なら多少出来ますよ。さっき見てたでしょ?」

「そうじゃねえよ!」


 激高する魔王様の怒鳴り声は、隣で寝ていた馬がいい加減黙れと嘶く(いななく)まで続いた。



「あーねっむ……」

「しゃっきりとせい! まずは顔を洗え! ああ! それは馬の飲水ではないか! やめろ! やめるのだ! やめええええええ」


 うるさいなぁ。

 顔洗えと言ったりやめろと言ったり。

 馬の飲水がなんだっていうんだ。

 井戸で汲んだ同じ水だろうに。


「ふぅ、さっぱりした」

「わ、儂は負けぬ、負けぬぞ……。うう、臭い……」


 まぁ魔王様が言うだけはある。

 朝に顔を洗うのも悪くないな。


「さってと、今日もダンジョンに行きますかね」

「まて、ダンジョンに行ってどうするつもりだ?」

「そりゃ昨日と同じくゴブリンたちに案内してもらって宝箱を手に入れるつもりですけど?」


 他に何をするというのだろうか。

 まぁ昨日たくさん稼いだから二~三日は何もしなくていいかもしれないけど。


「貴様は毎日アイテムを売りに行くつもりか?」

「何か問題あります?」

「問題しか無いだろうが!」


 魔王様いわく、Fランクの冒険者が毎日アイテムを売りに行くなど怪しすぎるのだそうだ。

 なるほど、言われてみればそうかもしれない。


「それに昨日は魔石を売っていなかっただろう?」

「はぁ、ゴブリンたち殺してませんし」

「アイテムは売りに行く。でも魔石は売らない。そんな事がありえると思うか?」

「なるほど……」


 おかしいといえばおかしいか。

 しかしさすが魔王様、頭がいい。


「うーん、考えてても仕方がないしとりあえずダンジョンに行きましょうか」

「お前はもう少し考えるべきだ。頭はなんのためについていると思っているのだ」

「ああ、なるほど。ではゴブリンたちに相談してみますよ」


 魔王様もこれだけ頭がいいならもっと別の方法で平和に過ごせる事もできたんじゃないかと余計なことを考えてしまう。

 そして、なんで人間滅ぼそうとするのか。

 敵対することになったのか、少し気になった。


「なぁ、話聞いてたか? なんでそうなる?」

「え、頭がついている理由ですよね?」


 目と耳と口があれば誰かに相談できる。

 そういうことでしょう?


「もうよい……。好きにせよ……」

「はい!」


 魔王様の了承もとったし、俺は意気揚々とダンジョンへと向かった。



「GURARA、GUU……」

「ええ、そういうわけで魔石を少し融通してもらえると助かるんですけど」


 ダンジョンの一室で俺はゴブリンたちに魔石を譲ってもらえないか相談していた。

 しかし反応は芳しくない。

 魔石は魔物たちの核となるもの。

 それを失えば死んでしまうのだから当たり前なのだが。


「GUU、GUU」

「GYUGARA?」

「GYURA、GYUGYU……」

「えっと、あまり無理を押し付けるつもりもないですから、無理なら無理って言ってくださいね?」

「なぁ、マグス、やはり貴様ゴブリンの言葉わかっとるじゃろ?」


 俺がゴブリンたちに相談していると魔王様が横槍を入れてくる。

 今真剣な話してるから少し黙っててほしいんだけど……。


「しつこいですね。わからないですって。ゴブリンたちも俺の言葉わかってないですよ、たぶん」

「GYURA」


 ゴブリンの長老が当然だといったふうに首を縦にふる。

 やっぱそうだよな。

 人間とゴブリンでは言語がぜんぜん違うのだから。


「納得がいかぬ……」


 魔王様がなにか言っているがとりあえずスルーしとこ。


「GYURA。GYUGYU」

「わかりました。ついていきます」


 何かを決心したような年老いたゴブリンがついてこいと俺に手招きする。

 どうやら魔石がある場所に心当たりがあるらしい。

 あまり気は進まないようだが死ぬよりはマシ、そういった感じのようだ。


「無理言ってすみませんね……」

「GYURAGYURA」


 年老いたゴブリンは気にするなと軽く手を振りダンジョンの奥へと向かっていく。

 少し申し訳ない気になりながら俺はゴブリンの後をついていった。



「お墓、ですか」

「GUA」


 ダンジョンの奥、隠された扉のさらに先。

 ダンジョンの最奥ともいえるそのエリアの一角にはモンスターの墓場があった。

 もられた土に、遺品と思わしきアイテムが置かれている。


「あ、失礼」

「PU!? ……、PULULU」

「いえ、お構いなく」


 時折墓参りに来ていたと思わしきスライムやコボルドといったモンスターとすれ違う。

 彼らは俺と目が合うと一瞬驚いた顔を浮かべるが、すぐに魔王様の存在に気づき軽く会釈をして静かに通り過ぎる。


「さすが魔王様ですね。オーガですら頭を下げてますよ」

「儂がおかしいのか? なぁ、儂がおかしいのか?」


 まおうさまはこんらんしている!

 と冗談は置いといて、俺はゴブリンたちの墓が密集しているところまで案内された。


「GURA……」

「すみません、丁寧に取りますから許して下さい」

「GYURAGYURA……」


 はぁ、相手が魔物とはいえ墓荒らしか。

 冒険者らしいといえばらしいけど、少し陰鬱な気持ちになってしまう。


「あとでお供え物持ってきてもいいですか?」

「GYURA」


 俺は多数の魔石を手に入れることができた。

 もっとも、その収益の半分はお供え物に消えたのだが。


「あー疲れた、今日もよく働いたなぁ」

「墓を掘ってまた埋めるのは冒険者の仕事とは違うと思うのだが……」


 いや、冒険者なんていうなれば何でも屋と変わんないからね?

 ちょっと危険が伴うけどさ。



 なおこの日以降、時折魔物から魔石が差し入れられるようになった。

 どうやら死んだ魔物の魔石を俺に渡す代わりにお供え物を持ってきてもらいたいようだ。

 人間の作る酒や食べ物は魔物たちにとってもご馳走らしく、お供え物としていいらしい。

 それでいいのかと思わないでもないが、それが魔物の文化なのだと思えば否定もできない。

 俺としても利点があるから構わないけどね。

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