第二話 強欲なおばちゃん
「まさか路地裏で寝るとは思わなかったぞ……」
翌朝、魔王様は辛そうな声で文句をいってきた。
今までこんなところで寝たことなんて無いのだろう。
しかしこれからは慣れてもらわないとな。
「まぁ仕方ないでしょ。馬小屋だって寝るのはただじゃないんだから」
「う、馬小屋だと……?」
なにか変なことでも言っただろうか。
魔王様は絶句して二の句を告げなくなっているようだ。
「ともかく、今日もダンジョンに行かないと」
「しかしあの子供の小遣いはもうないだろう?」
今度は殺すのか?
魔王様はそう言外に匂わせてくる。
「いや、子供の小遣いにたかるつもりもないし、殺すつもりもないですからね?」
「ほぅ? まぁよい、お手並み拝見といかしてもらおうか」
「まぁ任しておいてくださいよ」
嫌らしく笑う魔王様には悪いが、俺には秘策があった。
「それじゃ案内お願いしまーっす」
「GUGYA」
ダンジョンに到着するとすぐにゴブリンたちが俺をむかえてくれた。
昨夜のゴブリンとは違う者のようだが、とりあえずはいきなり襲ってくるということもなかったので対話を試みたのだ。
対話と言っても俺にはゴブリンの言葉は理解出来ないが、身振り手振りでなんとか意思の疎通を行った。
「ふむ、なかなかやるものだな」
「人間の知恵もバカにしたものではないでしょ?」
「GUGYAA」
「あ、あっちみたいです」
ゴブリンいわく、次の通路を左に行ったところに宝箱があるらしい。
「GYAGYA」
ただし、その手前に罠があるので解除するまで待ってくれとのことだった。
「しかし、貴様はよくゴブリンの言葉がわかるな」
「いや、わかんないですよ? 身振り手振りで何となくやってるだけで。な?」
「GUGYA」
俺が同意を求めるとゴブリンはそりゃそうだといった様子で首を縦に振る。
「……、通じているようにしか見えんのだがな……」
「気の所為、気の所為。あ、あれが宝箱ですね」
その日、ゴブリンの案内で俺は宝箱を多数開けることが出来た。
大体の中身はゴミだったが、魔力回復ポーションなどそこそこの値段で売れるアイテムが手に入れられたので良かった。
「ふむ、これで宿に泊まれるな」
「ええ、フカフカの藁を敷いてもらいましょう」
「え?」
「え?」
「GUGU?」
魔王様は何か疑問があったようだったが、特に気にする必要もないか。
俺はゴブリンたちに別れを告げると街へと急ぐ。
なんだかんだもう夕方になってしまっている。
買い取り屋が閉まると今日も野宿になっちゃうからね。
「いらっしゃい。何だ銭無しのマグスじゃないか。今日は何を売りにきたんだい?」
「いや、なにか買うかもしれないって考えないわけ?」
路地裏にある買い取り屋、グリード。
ここなら後ろ暗い物でもなんでも買い取ってもらえる。
その代り足元を見られてしまうが、それは仕方がないことだろう。
「はっ、毎日のパンにも困るようなあんたがうちの店で何か買えるような金を持っているわけがないだろうが」
「まぁそうだけどさぁ」
「ほら、私も忙しいんだ。用がないなら帰っておくれ」
そういって店主のおばちゃんがあっちへいけと手を振る。
まったく、客に向かってする態度じゃないと思うんだけどね。
「まったまった、今日は売るものがあるんだよ」
「はぁ、またゴブリンのクソなんて持ってこられても買い取らないからね?」
「それは忘れてよ……」
冒険者になったばかりの頃、なんでも買い取ってくれるという噂を聞いた俺はゴブリンのクソを集めて持ってきたことがあった。
当時は何でも買い取ってくれるなんて嘘じゃないかと憤ったものだが、今なら理解できる。
「あの時はまだ馬鹿だったんだよ」
「今もバカだろうが」
「黙ってろ」
小声で魔王が俺のことをバカにしてくるが、そんな俺に食べられた間抜けはどこの誰だろうね。
というか聞こえるから黙っててくれ。
「何か言ったかい?」
「いえ、なんでも」
「それで、何を売りたいんだい? 早く出しな」
俺はカウンターの上に細長いポーションの瓶を二本並べる。
片方は紅く、もう片方は青く薄っすらと輝いていた。
「ほぉ? これはポーションかい?」
「へへっ、ダンジョンの宝箱から手に入れてさ」
「へぇっ、あんたがねぇ。運のいいこってまぁ」
おばちゃんが瓶へ手をかざすとポーションが淡く輝く。
おそらく鑑定の魔法だろう。
この結果次第で今日の収入がわかる。
俺はドキドキしながら結果を待った。
「両方とも下級だね。体力回復が銀貨一枚と銅貨八十枚、魔力回復銀貨二枚と銅貨七十枚といったところか。まぁまけて銀貨四枚だね」
「えぇ、もうちょっと色つけてよ」
相場はわからないが、とりあえずごねてみる。
言うだけならタダだしね。
「おまけしてると言っただろうが、嫌ならいいんだよ?」
「うぅ……」
他のところに売りに行くにしたって、冒険者ギルドだとどこで手に入れたんだとか色々めんどくさい。
普通に手に入れたならともかく、今回はちょっと説明の出来ない手段だったし。
「っと、ちょっと裏に行っているから待ってておくれ」
「えー、んじゃその手間賃おくれよ」
「鑑定費用と相殺にしておいてやるよ」
笑いながらおばちゃんは店の奥へと消えていった。
しかし銀貨四枚なんて大金を手に入れるなんて初めてだ。
これなら当分は宿の心配をしなくていいかもしれない。
「おい、誤魔化されてるぞ」
「え?」
浮かれていた俺に魔王様から声がかかる。
「お前は計算もできないのか? 銀貨一枚と銅貨八十枚、それに銀貨二枚と銅貨七十枚なら銀貨四枚と銅貨五十枚になるだろうが」
「そ、それくらいわかってるよ! だから銅貨五十枚まけてくれたんだろ?」
「お前がまけてどうする!?」
「あ……」
そ、そうか、銅貨五十枚まけてくれるって言葉に騙されてたけど、減ってるじゃん!
「待たせたね、何かちょろまかしてないだろうね?」
戻ってきたおばちゃんがこちらを睨んでくるが睨み返す。
「ちょろまかしてるのはおばちゃんだろ?」
「何? 私が何をちょろまかしたっていうんだい? 言いがかりはよしておくれ」
俺が計算できないからって馬鹿にしてるのか。
たぶんだけど今までもちょろまかされてたんだろうな。
そう思うと腹が立ってくる。
「銀貨一枚と銅貨八十枚、それに銀貨二枚と銅貨七十枚なら銀貨四枚と銅貨五十枚。そうでしょうが!」
「なっ、あんた計算出来るようになったのかい……?」
驚き、気まずそうに聞いてくるが答える義理はない。
「銀貨五枚」
「……、わかったよ。銀貨四枚と銅貨五十一枚」
「ふざけんな、今まで騙してたんだろうが! 銀貨四枚と銅貨八十枚!」
「そんなに出したら破産しちまうよ! 銀貨四枚と銅貨四十枚!」
「減ってるじゃん!?」
流石にそれくらいはすぐに分かるぞ?
全くこのババアは!
「ちっ。銀貨四枚と銅貨六十枚! これ以上は出せないよ!」
「わかったよ。んじゃそれで」
「ああ、鑑定賃が銅貨十枚だ」
「さっき店番と手間賃相殺っていったよね?」
「まったく、よく覚えてるね。はぁ、いいカモだったのに誰だい余計なことを吹き込んだ奴は」
頭をガリガリと掻いたあと、おばちゃんは渋々とカウンターに硬貨を並べてくる。
「ほら、銀貨四枚と銅貨六十枚だ。早く持っていきな」
「ちょ、ちょっとまって。数えるから」
「早くしておくれよ」
おばちゃんに急かされながら数えようとするが、俺、十以上数えれないんだけど……。
「二枚少ないぞ……」
小声で魔王様が教えてくれなかったらまた誤魔化されるところだった。
危ない危ない。
「おばちゃん、二枚少ないよ」
「はぁ……、ほんとに誰なんだよ、余計なことやってくれて」
ぶちぶちと文句をいうおばちゃんを無視して俺は宿へと向かった。