第十二話 幹部襲来
ライアたちのパーティーに加入して一週間は平和に過ぎ去った。
変わったことといえばライアが豊胸エクササイズを初め、リノが服を身につけるようになったくらいだろうか。
他にも細々と変わったことはあったが大したものはない。
強いてあげるなら宿が勇者パーティー指定のものに代わり、ベッドがランクアップしたと魔王が喜んでいたくらいだろうか。
「しかし勇者様様だな。もうずっとこのパーティーにいよう」
ダンジョン探索を終えて、のんびりとベッドに横になったところで魔王が口を開く。
「おい魔王……」
「ベッドもフカフカ。料理もちゃんとしたもの。なんの不満があるというのだ?」
そうだね、不満はあまりないよ?
数少ない不満は、もし魔王が俺と同化してるってバレたらそのまま首チョンパってくらいかなー?
冗談じゃない。
「貴様だってメリットあるだろうが」
「あのなぁ、魔王様よ。あんたほんとに何もわかってないよ」
「なんだと?」
俺に透視スキルが有るとわかった途端、魔法職のくせに前に飛び出るようになったリノ。
たまに玄関で寝転び、俺に踏まれて嬌声をあげるシャルロット。
ライアの前限定だが、俺の手を取って胸に持ってこようとするシスティー。
そしてそれらを見てブツブツと呟き始めるライア。
「これのどれがメリットなんだよ!」
「いや、自分ラッキースケベ好きって言ってただろう?」
たしかに好きだ。
だが、これは絶対違う!
ラッキーどころかアンラッキー。
むしろトラップでは無いだろうか?
「何が違うのだ?」
「違うよ? ぜんぜん違う」
恥じらいとか偶然性とかそういったほのぼのした要素が絶望的に不足してるんだよ!
特にシスティーなんか、アンデットさんたちの放つ邪悪なオーラを塗りつぶすレベルだからね?
最初は神官だからアンデットのオーラ弾き返してるのかと思ってたら、実は本人の方がどす黒かったっていう。
もう神官じゃなくて邪神官名乗れよってレベルだよ。
「ライアとかいう娘の好意はどうなのだ?」
流石に気がついてるだろう?
と魔王に言われて頬を掻く。
「あー、なんであそこまでって思うんだよね。正直心当たりがなくて気持ち悪いっていうか」
「心当たりがない?」
「おぅ」
魔王が訝しそうな声を上げる。
だが、本当に心当たりが無いのだ。
「そりゃ貴様、死にそうになっているところを貴重なアイテム使ってまで助けられれば関心も湧くというものだろう?」
「あの時はライア気を失ってたろ」
「その後も仲間に絶望しているところに手を伸ばしたのだろう?」
「それって自業自得なんじゃないですかねぇ……」
そりゃ、幼馴染を見捨てれないっていう気持ちはわからないでもないけどさ。
見てると毎日ダンジョンから帰っては洗濯物まとめたり、消耗品確認したりと彼女が居なかったらおそらくパーティーは成立していない。
そう思えば多少優しくしてやるべきかと思わないでもない。
「まぁ、明日あたり一緒に遊びにでも――」
と、そこまで言ったところで頭の中にチャイムが鳴る。
さっきまで一緒だったのに、なんだろうか。
(はいもしもし)
(マグス! 大変よ! 装備を整えて宿前に来て!)
ライアが至急を知らせてくる。
平和は、長くは続かないようだ。
「フハハハハ!!」
宿の正面、街の中央広場に笑い声が響く。
広場の中心、そこには尾服に怪しげなマスクを身につけた男が立っていた。
「愚かなる人間どもに告ぐ!」
俺が見ていると彼は宣言を始めた。
「憎き勇者共の所為で大魔王様がお隠れになられた! 魔王軍幹部たる我は大魔王様の意思を継ぎ、この世界に厄災をもたらさん! 手始めにこの街を怨霊の住まう街に変えてくれる!!」
だが、周囲の人たちは一部を除き完全にスルー。
ただの酔っ払いと思われているらしい。
「あやつは何をやっておるのだ……」
「知っているのか! バアル!?」
俺が問いかけると、魔王は何やらいいづらそうな雰囲気を醸し出す。
「あれ、うちの幹部……」
……。
ねぇ、帰っていい?
誰にも相手にされていないというか、
とは言えないか。
もう皆集まっているみたいだけど、彼の情報を魔王から聞くのが先だな。
俺は魔王軍幹部の情報を聞きながらパーティーの集合場所へとゆっくりと歩いていった。
「マグス! 来たわね!」
「お、おぅ」
弓の調整をしていたライアが引き締まった顔つきでこちらを見据える。
「眉唾だけど、あれ、魔王軍の幹部を名乗ってるの」
うん、知ってる。
レベルは二百オーバーで、種族はオールドデーモン。
得意とするスキルは憑依と天候操作系魔法。
名前がタマリオンとちょっとファンシーなのを気にしてるらしい。
週末は川遊びにバーベキューをして過ごし、炭火で焼くニンニクが大好物。
去年の夏には日焼けしすぎてしばらく行動不能になってしまい、奥さんに雷(本物)を落とされたらしいってことまで知ってるよ。
「あれが、魔王軍の幹部……」
だが、とりあえずは驚いたふりをしないとな。
それにしても、一体何をしにこの街にやってきたのか。
「凄いの……」
「だが我らはレベルが低いとは言え勇者」
「そうですわね。民衆を守る盾として、引くわけには行きませんわ」
リノたちはそれぞれ覚悟を口にする。
普段はあれだが、こういう時はビシッと決める。
これが勇者の気質というものなのだろうか。
「さぁ、あの酔っぱらいを捕縛しましょう」
ライアの宣言に他の三人が首を縦に振る。
……。
いや、あれは本当に魔王軍の幹部だよ!?
「マグスも来てくれて助かったわ。今日は衛兵が忙しいらしくて手が回らないらしいの」
「なるほど……?」
「でも、相手は男だから、ほら」
そういいながらライアは自分の体を抱きしめる。
つまり、男に触られたくない、と?
ライアはともかく、他の変態どもなら別にいいのではと思わないでもないが、それを言ったら怒られそうなので黙っておく。
俺も成長したのだ。
「んじゃ行こっか」
「うん!」
ライアさん、とりあえず俺の腕取るのやめてもらえます?
遊びに行くんじゃないんですから。




