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 伽音の案内で、再び街を眺めていく。

 彼女は細い路地をすり抜けるように歩いていく。

「どこに行こうとしているの?」

「それはあなたの行きたいところへですよ、草薙さん」

 そう言われて初めて、響は自分が名乗っていないような気がしてきた。

「あれ? どうして名前を?」

「さっき聞いたじゃありませんか。お互いにちゃんと名前と年を名乗ったじゃありませんか」

「そうだっけ? キミはーー」

「あなたと同じ17才ですよ」

 当たり前のように伽音は言った。「あなたと同じ高校生です。あなたと同じ陸奥中里高校に通っているんですよ」

「ボクと同じ? どうしてそれを?」

「だから、さっきご自分でそう言われたじゃありませんか」

「言った?」

「はい」

「そう……」

 記憶はないのだが、そう断言されると否定出来ない。

「陸奥中里市は初めてですか?」

「うん、あ……いや」

 響は曖昧に答えた。わざとではなく自信が持てなかったからだ。

「初めてではないのですか?」

「実はよくわからないんだ」

「わからない? 子供の頃に来たような記憶があるとか? 幼い頃に親に連れられてきたんだけど憶えていないとか?」

「そんな昔の話じゃないんだ。そもそも今回の引っ越しは昨年の秋に決まったことなんだ。そこでボクは事前にこの街を見てみたいと思って旅行に来た」

「あら、ずいぶんしっかり憶えているじゃないですか」

「いや、ところが途中から記憶がない」

「記憶がない?」

「新幹線に乗ったところまでは憶えているんだ。ところがその後の記憶がない。気がついたのは5日後、京都の駅でボーッと立っていた。だから、ボクはこの街に来たのかどうか、わからないんだ」

 伽音はいかにも面白いものを見つけたように嬉しそうに目を細めた。

「それは変な話ですねぇ」

「うん」

「過去にもそういうことはあったのですか?」

「実は……昔、何度かね」

「ご両親にはそのことはお話になったのですか?」

「話していない。でも、両親は意外と知っているような気もする」

「どうして?」

「何も聞かないんだ。子供が初めての一人暮らしのために、引越し先を見に行ったんだ。普通は『どんなところだった?』とか『やっていけそうか?』とか聞くものだろう? でも、ウチの親は何も聞かなかった。聞いても無駄だと思ってるんじゃないかな」

「おや、やっぱり変わったご両親ですね。ご両親についてどんな記憶をお持ちですか?」

「記憶? どうしてそんなことを?」

「おもしろそうなご両親だからですよ。そういうご両親なら、きっと面白いエピソードがたくさんありそうじゃありませんか」

「エピソード?」

 響は首を捻った。「さあ、そんな特別な記憶はないな」

「それは残念。意外と記憶がないというより、実態がなかったりして」

「何のこと?」

「ところで、ご両親はどんなお仕事をされている方なのですか?」

「さあ、ボクはよく知らない」

「知らない?」

「そう。よく知らないんだ。文化財の保護の仕事って聞いたことはあるけど、詳しくは知らない。この年になって親の職業を知らないなんて不思議な話だと思うだろうけど、教えてもらったことがないんだ」

 それは響にとって、大きな悩みの一つであった。

 今回の引っ越しを素直に受け入れたのは、両親から離れることで新しい道が開けるかもしれない、自分という人間について何か掴めるのではないかと考えたからだった。


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