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試練5

「ゼノ、昔話をしよう。ある時、主はある若者に、大きな力を与えた。主は自分を倒しうるものの出現を望んだからである」


「……」


 俺は、枝を出しつつ、高速で蹴りを繰り出した。


「そのものは、お主に比べると圧倒的に強かった。そして、その強きものに、主は魔剣をお渡しになった。それも、お主の[枝]のように、成長途上のものでなく。強力なそれは、魔剣を振るえば振るうだけ、マナを吸収し、切れ味と攻撃範囲を増す代物(しろもの)だった」


 師匠は、その同時攻撃を余裕でかわして、俺に蹴りを浴びせる。


「そんな強力な魔剣なら、なぜ古竜は生きている」


「単純だ。その者は、努力を惜しんだのだ。その魔剣のように、圧倒的な力を手に入れたにせよ、それは主を倒すための始まりでしかない。そこから、弛まぬ努力により、それを磨きその得物(えもの)と己を強靭にし、初めて主に対する力を得る」


 俺は師匠の蹴りを回避して、次の攻撃の段取りを組む。すでに、俺は反応と思考が一致するくらいまでは、力を高めている。闘いは、体で動くが、戦術あってのものだ。俺は、アイテム士の特性しかないが、剣士などは、このようなことを毎回やっているのだろう。その戦術とシナリオが一致しての勝利は、格別のものであろう。


「その者は、有能な勇者であるから故か、己の現状と魔剣の力に満足してしまった。努力を放棄し、世界の支配に注力してしまった。今、人間種が激減し、魔人が蔓延っているのは、主の気まぐれが、一人の魔王を生み出してしまったことだ」


 俺は、師匠に蹴りを浴びせた。


「魔剣の魔王のことか……」


 蹴りは、師匠により止められた。


「そうだ。征服者だ。主も直々に討伐しようと考えて、呪いで動けぬ自分の代わりに、擬態竜をつかわそうとしたが、お主の仲間にやられた」


「あれでは、魔剣の魔王に勝てないのではないか?」


「あれではな。ただ、あれが数千体いたらどうだ?」


 師匠の動きが鈍くなる。


「おぞましいですね」


 俺は、枝を師匠に向けて使用した。


「それには時間が必要だがな。しかし、どうしてお主が現れたのだ」


 師匠は枝をかわした。


「俺が?」


 師匠は俺に、打撃を浴びせようと、態勢をやや右に曲げた。


「そう、お主が現れ。主は、お主に力を授けた。アイテム士という底辺にいながら、その力を仲間の為にささげたお主に……。孤軍奮闘し、最強になった勇者とは違い、人に頼りつつ、その力の中で最大限に、自身と仲間を輝かせようと考える弱者」


 俺は、師匠のその態勢の変化を、プラーナで感じた。右から打撃が来る。


「俺は、俺は期待には応えることができない」


 俺は、枝を師匠の左わき腹めがけて、使用した。


「たわけ。お主の強みは、その忍耐だ。初めは赤子のような者だった。しかし、今は……」


 師匠は、俺の攻撃に気が付き、左の脇を固めようと、態勢を再度立て直した。


「師匠、俺はアイテム士だ。それ以外ない。必要に迫られたから、こうなった。人との付き合いも悪い。人からの評判も良くはない」


 師匠のその行動は、予想通りである。視界から、一瞬俺が消えた。


「されど。その弛まぬ姿勢に、自然と人は惹かれるだろう。そう、私のように」


 強烈な俺の回し蹴りが、師匠の脇腹をとらえた。


 プラーナの壁に、少々のダメージを与えただけで、師の壁を超えることができなかった。


「師匠……」


 ノックバックした師匠は、笑っていたのだろう。プラーナが、揺れていた。


「よくやった。これが手向けだ。受けとれ」


[先導者の左腕]智将の軍配:印を作ることにより陣術を発現する。

       滅神の軍旗:敵の抵抗値をすべて無力化する。


「お主は、先導者となった。仲間を率いるとは、壮絶な責任を負う。ただ、数は力でもある。お主一人では、主や魔王は倒せぬぞ」


 師匠は、最後に俺の肩をたたいた。


「行け」


 手向けの言葉。俺は、それに涙しながら、次の扉をたたいた。その時何を俺は返したのだろう。ただ、今まで見たことのない。プラーナの動きを師匠から感じた。


 俺は、古竜のしりぬぐいでもしてやるか……。たぶん、魔王を倒せないようなら、古竜の望みもかなえることはできないだろう。

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