小さな英雄
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そして、薄くなったプラーナを、意識しつつ、最後の最後まで、俺は力を振るったが、背後からの攻撃に、反応できなかった。
小型のゴブリンのこん棒が、俺のプラーナの壁を破り、俺の背中へ強打した。
「ぐふっ!」
俺は、ひざまずいた。
それをいいことに、ゴブリンは最後の攻撃とばかりに、包囲をせばめた。
そして、ナイフを持った一体が、俺めがけて相打ち覚悟で、飛び込んできた。
数と執念。
俺には足りないものだ。
ただ、これは勝利への道に近づくものだろう。俺は、この期に及んで、教訓を得た。これは、次の勝利の為である。そして、かならず「次」を作って見せる。
俺は、這いつくばってでも、こいつの攻撃をよけなければならない。集中力が高まり、時間がゆっくりと流れるようだ。
そして、ナイフを避けようとした瞬間。ゴブリンは、何か赤い玉に当たり、そのナイフは俺には届かず、代わりに、俺が腕で、その個体の心臓を貫いた。
「お、おいらは村の英雄……炎遊の子、煙火だ!」
小僧が、足をぶるぶる震えさせながら立ってやがる。
恐怖で、涙目の小僧。
当然、ゴブリンたちはそいつを殺そうと狙いを定める。
俺は、煙火へ向かい、その直線上にいるゴブリンを背後から刺殺する。
「小僧!どうしてきた!」
煙火は、いまだに震えながらでも、その目には並々ならない炎を感じた。
「おいらは、おいらは、絶対村を守る!その為にはここでお前を死なせるわけにはいかない!」
すべての恐怖が、その言葉から言霊となって抜けたのだろう。もう、震えは無い。そこには、小さな英雄がいた。




