6.憲兵さん、この人です
人が集まるところであれば、「地方行政(例えばギルドの統制)」「普通の刑法犯の捜査・捕縛」「暴徒の鎮圧・凶悪犯の捕縛」「民事紛争・民事訴訟の処理」は誰かがやらないと無政府状態になってしまいます。軍はこうした事柄の処理に出動することもありますが、「民事紛争の処理」などは明らかに不向きです。4つのうちひとつを担当するはずの部署が、うっとうしい仕事ばかりですから、あとひとつふたつ押し付けられることも起こります。
日本の火付盗賊改方は、行政機関・民事紛争処理機関である町奉行所を補完するため、軍の一部が凶悪犯罪の捜査・捕縛を加役(追加任務)として命じられたものです。逆にイギリスでは、武装した軍隊と治安判事(貴族・地主が多い)や自治体が自分で雇った部下の両極端しかいなかったので、1829年の首都警察創設から順次、警棒だけを持った(状況により銃を持つこともある)常勤の警察官が雇われ始めました。
憲兵はまずMilitary policeであり、軍隊内の規律違反や犯罪を取り締まりましたが、現在でも国の事情によって、民間人の犯罪を種類別・地域別に区切って、一部の捜査を担当していることもよくあります。
人々の安全が脅かされ、社会が不安定になった状態では「戒厳令」と大雑把にイメージされる非常事態宣言が出て、憲兵を中心とする軍隊が治安維持の一部を担うような法制度になっている国がよくあります。日本も第2次大戦まではそうでしたが、今は戒厳(令)という名前の法律や制度はありません。自衛隊法第78条や第81条に基づき、総理大臣が治安出動を命じる可能性はあります。
ただし国であろうと組織であろうと、非常事態であることは認めたくありませんし、認めることが騒ぎを大きくする懸念もあります。ですから「目立つところに軍の部隊を配置する」といったあいまいな行動が選ばれることもあり、戒厳下とイメージされても厳密にはそうではないこともあります。
憲兵隊には、特定の戦闘部隊に属するものと、例えば本国の陸軍病院などと同様に、陸軍省・陸軍大臣といった行政組織に属するものがありました。前者を日本では軍令憲兵と言いました。旧日本軍の場合、軍令憲兵は軍司令部や方面軍司令部の憲兵隊に属しましたが、それぞれの師団にも憲兵隊を持っていた国もありました。
本国や植民地で行政組織(陸軍省とか総督府とか)に属するものを、日本では軍政憲兵と呼びました。ただ例えば関東地方の場合、憲兵隊や徴兵関係の事務所や陸軍病院と言った非戦闘系の組織を束ねる東部軍管区司令部があり、本土を守る高射砲部隊なども指揮下でしたから、「すべての戦闘部隊と指揮系統が別だった」というとそれもウソになるように思います。軍政憲兵は行政組織や警察の整った地域にいるわけですが、ルールに書かれていない・ルールを超えた行動がとられるかどうかは国と地域によりました。
憲兵は軍の権威を体現する性質上、あまり抵抗されることのないものです。ですから少人数で行動し、抵抗が予想されるときは別の部隊を呼びました。第2次大戦期ドイツ国防軍の警戒中隊(Wachkompanie)・警戒大隊は、憲兵の職務執行を武力で助けるのが任務でした。
憲兵に関しては「戒厳令下ではない」「憲兵ではない(警察の一部、治安活動専用の陸軍部隊、現地で採用した兵補や他兵科からの補助憲兵、友好的な現地政権の部隊など)」「その地域では憲兵は原則として民間人への捜査・逮捕はしない(が実際には虐待などをした)」といった広範なツッコミが生じる可能性があります。「憲兵さん」の指すものは国と時代によってずいぶん違うので、うっかり登場させると「その世界での警察と国防の関係をしっかりイメージしているか」が透けて見えてしまいます。
憲兵っぽいものを出すときは、「取り締まる対象(民間人を含むか、犯罪・事件の種類を限定するか)」「権限の及ぶ地域」「警察との分担関係、他の治安組織があったらそれとの分担関係」「例外的に強い・広い権限を持つときはその条件」を考えておくと、ツッコミに対して「この世界の仕様です」で済ませられるでしょう。
後続予定
7.その機体番号は実在しません
8.それはミリタリと関係ありません
9.財力のある人には勝てませんか