1.ミリヲタのいろいろ
例えば日本刀の標準的な長さは時代によって違います。馬上で使う刀は長く、徒歩武者(かちむしゃ=歩兵)として戦うときの刀は短めでしたから、騎馬のまま戦うのが当たり前の時代にみんな持っていた刀と、真っ先に馬を狙われるのが当然の時代の刀は長さが違うわけです。その一方で、しばらく戦争のなかった時代を過ぎて幕末の動乱期になると、予備の長い刀をもう1本差したらどうかとか、思い切って徒歩(かち=歩兵)だけど長めの刀はどうだろうとか、いろんなことが試されるようにもなりました。個別にはパターン破りの刀を持っていた人がいたわけです。
明治になって、陸軍は片手分の柄しかないサーベルを採用しましたが、白兵戦に巻き込まれると、相手は銃剣つき小銃や両手刀(抗日大刀とか)を両手で振り回すので、やっぱり日本刀がいいやということになりました。ただ戦争のない江戸期の刀は美しいけれど丈夫でないものが多く、折れや曲がりに強い鉄を使って量産した満鉄刀が登場し重宝されました。
こういう「ハードウェアとしての武器」がもっぱら好きな人もいます。むしろミリヲタの大半はそういう人たちかもしれません。即売会でのジャンル分けが「メカミリ」になっているのは、ミリタリの中でもっぱらメカの話を書いている同人誌が多いからでしょう。
今の説明でも「騎馬か徒歩か」という話が出ましたが、「戦い方・使い方」とメカの発展はもちろん関係があります。戦法・戦術も合わせてミリメカが好きという人もたくさんいます。
いっぽう、「兵士の暮らし」や「ミリメシ」に興味を持つ人もいます。当時の兵士としての暮らし(ある程度、戦闘を含む)をそっくり追体験することをリエナクトメントといいますが、日本でもこれに熱心な人たちはいます。野外にテントを張り、ドイツ軍のマニュアル通りに野戦便所を作ったりするのです。
私は「編制表ヲタク」を自称しています。もう少し広く言えば「組織ヲタク」でもありましょう。例えば炊事兵はどのようにして選ばれ、どのように組織されるのでしょう。応召兵はすぐ退役してしまいますから、職業軍人としての炊事兵も必要なはずですが、その訓練学校はどのレベルの組織にあるのでしょう。こうしたことは、メカの写真や図面がいっぱいの資料には書いてありません。編制表などの公的な資料と、実際にはどうだったかという体験者の手記などを組み合わせて見つけていくしかありません。
そしてそれらすべては、その国の歴史の上に乗っかっています。第2次大戦中、ルーマニアはフランスの戦車やチェコスロバキア(当時)の戦車にソヴィエトから捕獲した大砲を載せ替えて使いました。ルーマニアはドイツにつくかつかないかわからない国として、1930年代にはイギリスのハリケーン戦闘機も売ってもらっています。こうしたことは技術的合理性だけで説明のつくものではなく、「歴史」として学ぶほかありません。まさに底なし沼です。ああメカが沼でないかというと、もちろん沼はあるのですが。自宅で戦闘機の復元なんか始めるともう大変なようです。
このように、ミリタリ警察は工学、歴史学、政治学、法学(徴兵制度などはまさに法律です)、経済学・経営学といった諸兵科連合であり、言うことを全部聞いていたらきりがないわけです。