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満ちてく疑問

「しつこいわね。まだ叫びが終わってなかったというの?」

は?叫びですって?

確かにさっきまで叫んではいたけど、今のは結構優しげに話しかけたと思うんですけどね…

ていうかこんな台詞キラきゅんにあったかな?

「あのぉ、ちょっと良いですか?」

おそるおそるもう一度、話しかけてみる。

「!………なんともないわ、叫びとは違うのかしら?」

左右の手のひらを交互に見みつめながら呟く少女。演技の練習かな?やっぱりこれはリハーサルだったのか。とにかく目の前の喋る大根が必死に何かを訴えようとしてる事に気付いてもらわなければ。

「あの!ちょっと聞いてもらえませんかね!」

「うるさいわね、ちゃんと聞こえてるわよ!」

「ああ!すみませんっ」

良かった、無視されてるわけではなかったみたいだ。

しかし、ひーたんって素ではこんなにキツいキャラなのかな、イメージと随分ギャップがあるけど…まぁいいか、これはこれでぐっとくるものがある。むしろ推せる!

それはおいといて、

「あの、さっきから仰ってる叫びってなんの事ですか?」

「あなた達が地中から引き抜かれる際に発する叫びの事よ。」

なんだそれ、初めて聞いたぞ。達…ってことは大根は皆そうなのか?収穫される際に叫び声をあげるのが普通だというのか。知らなかった。喋れる大根の俺スゲェーとか調子に乗りかけていた自分が恥ずかしい…

って、そんな訳あるか!

「それ違うと思いますよ?普通は引き抜かれても叫び声なんかあげませんから。」

大根の俺が言うんだから間違いない。

「何を馬鹿な事を、マンドレイクが引き抜かれるときに叫ぶのは常識でしょ?現にこの畑の持ち主も収穫の時にミスをしてその犠牲に…」

「ストーーップ!」

マンドレイク?別名マンドラゴラって奴か…

RPGなんかでも良く見かけるな、引き抜かれる際の叫び声を聞いたものは死ぬという。

実在する植物だと聞いたことはあるけど、叫びのくだりはただのファンタジーだよね。

「僕、マンドレイクなんかじゃないですよ。」

「―え?」

「大根ですから。良く見てください、ほら、つるっとしてるでしょ?」

確かマンドレイクは歪な形の根に特徴があったはずだ。それが人の形に見える時があるから不気味なんだよな。大根でも環境によって人に似たおもしろ個体が育つ事もあるが、俺は違う。一本筋のいたってオーソドックスな形をした大根なのだ。

「大根ですって?嘘…」

ここで、俺の方も思い違いをしていたかもしれない事に気付く。

問題のシーンをテレビで観たのは過去の話。そしてその撮影が行われたのはもっと過去の話。

自分が大根になった事で世の中何でもアリだと思ってしまっていたからか、時間軸を勝手にすっ飛ばしてしまった感がある。

大根になるのは可能でもタイムスリップまで出来るというのは流石にご都合主義的な気がしてきたぞ。世の中そんなに甘くはないからな。

だとしたらこれはキラきゅんの撮影ではないのかもしれないな。確かめてみよう。

「ところで、これってアイドル天使…」

ズサァァッ!

そこまで言った瞬間、少女が後ろに飛びのいて再び身構えた。何だ、今の動き?滅茶苦茶格好良かったんですけど、流石ひーたん…

「…何故私が天使であると判ったの?」

「へ?」

そんなこと言われても、ひーたんは天使。それは誰の目にも明白な事実だと思いますけど。きょとんとする俺に少女の鋭い視線が刺さる。あぁこんな凛々しい表情も愛くるしいなぁ。

「…貴様、魔王の手勢か?」

これまた馴染みのワードが出てきたな。そう、アイドル天使が戦う相手こそが「魔王」なのだ。

んー、てことはこれはやっぱりキラきゅんの撮影なのかな?何だか訳が判らなくなってきたぞ。

「待って!ヒカ。あのね、そいつは微量に邪悪な気を放ってはいるけど魔王のモンスターとは違うと思うのね。」

混乱気味の俺に追い討ちをかけるかの如く聞こえてくる変な声。この善良な大根をつかまえて邪悪とは失礼な話だ。

「どういう事?」

そう言うと、少女は胸のポケットから何かを取り出した。懐中時計かな、一般的な物より少し大きめだ。そして無駄にキラキラしている。

蓋が開くなり、その懐中時計が喋り始めた。

「その大根からはストーンエナジーを全く感じないのね。大方野良の魔物か何かだとおもうのね。」

「そう。」

だから失礼だって、至って普通の大根だから!

混乱しつつも何となく思考が冴えてきた。少しずつ状況が飲み込めて来たぞ。

「つかぬことをお伺いしますが、今何とお話されてるのでしょうか?」

俺の問いに少女は黙ったまま何かを思案していたようだが、懐中時計の方に目をやり一度頷くとこちらに見える様にそれを反転させた。開いた蓋の裏側にこれまたキラキラした装飾が無駄に施されていて、その中心には四角い鏡が貼り付けられている。そしてその鏡の中に、

「へへん、なのね」

偉そうにふんぞりかえる小動物がいた。


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