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Sunday追憶の朝

「パパー起きてー!」

「うーん、日曜なんだからもうちょっと寝かせてぇ…むにゃむにゃ…」

「もぉー!始まっちゃうよ、ボルド」

それはやばい、起きなきゃ!先週は見逃してしまったから、今日は絶対に観ないと。

慌てて起き出してテレビの前に正座でスタンバイする。そこに子供が寄って来て膝の上にちょこんと座る。日曜日の朝の決まった光景だ。

「始まったよ。」

食い入る様に二人で画面を見つめる。おっと、チビはもう一人いたな。

「痛いっ、やめて、お姉ちゃんの髪を引っ張らないで!」

「こら、やめなさい…」

「ぶーー」

く、2歳児が。怒られている事すらまだ認識出来てないとみえる。始末におえんな。

「頼むからやめたげて、パパゆっくりテレビ見たいから…」

「ぶーー」

「ほら、ちゃんとお姉ちゃんに謝って。」

「めんねー。」

「……いーよ。」

ふー、これでテレビに集中出来るよ。

娘を片側の膝へとずらし、空いたもう片方の膝に息子を座らせる。これもいつもの光景。

日曜日の朝に立て続けに放送される子供向け番組群、俗に言うニチアサといやつだが、これを観る事が40歳を目前にした俺にとって一番の楽しみになっていた。いい歳こいてと思われるかもしれないが、こればかりは仕方がない。少年の心は簡単に失う訳にはいかないのだよ。

今観ている派遣ランナーボルドもそうなんだけど、ニチアサの魅力は何といっても特撮作品だと思う。中でも一番気に入っているのが今年から新たにスタートした女児向け特撮シリーズ、アイドル天使キラくるきゅーんずだ。

これには正直今までの人生を一変させられる位のめり込んでしまったな。本物のアイドル天使達に実際に会えるイベントにも娘をつれて何度も参加した程だ。オタクとは劇中からの派生ユニット等にはしこたま弱い生き物だが、彼女達の凄さはそんな次元では語れない。ストイックなプロ意識に裏打ちされた高いパフォーマンスを持つ本物のアイドルなのだ。

この作品を通じて初めてアイドルを「推す」ということを体験した時、こんな幸せな生き方があったのかと涙を流したりもしたなぁ。

5人のアイドル天使のうち、俺が推すのは緑担当のひーたん。あぁひーたん…

今日はそのひーたんにスポットがあたるひーたん回なのだ。非常に楽しみ過ぎる反面、家族の前で平静を保てるかどうかが不安でしょうがない。特に嫁は俺がこの作品にはまっていることに一物抱いているみたいだから。

「…パー、パパー!」

「ん、なーに?」

「始まったよ?キラきゅん」

「うぉ、いかんいかん!」

とにかく今は画面に集中だ。いや、集中しすぎても駄目なのか。

そんなくだらない事を考えていた、日曜日の朝。



『充分なエネルギーの充填を確認、緊急回復モードから通常モードへ復帰―』


ん……眠っていたのか、俺は。

発芽して以来眠くなる事なんて一度もなかったから、植物は眠らないものなんだと思っていた。夜間省エネモードでも意識ははっきりしていたからな。

家族か…

あの、両膝に感じていた二人分の体重と温もり。

子供がいたんだな。

ふと空を見上げる。青空に浮かんだ雲がゆっくりと流れていた。

元気にしてるだろうか。俺がいなくなって、寂しい思いをしてないだろうか。ママがいるからそれは心配ないか…

再び会うことが出来ればいいけど、大根になってしまった父親を見たら子供達はどう思うだろう…

幸いにも俺は喋る事が出来る。旨いことやれば、人づてに家族のもとへ帰れるかもしれないんだ。希望をもたなきゃいけないな。

どうせ、この身体では長くは生きられないような気もするし、おでんになって食べられるなら、子供達がいいのか?いや、それはなんか違う気がするぞ…

何だろう、大事なことを一つ忘れているような…

うーん。

そういえば、植物になってからまだ人間を見ていない。いくら俺が喋れるとはいっても、人間に会った時にどう対処するかはよく考えておいた方が良さそうだ。

出会う人間がどういう人物かによっても対応を変えた方がいいかもしれない。子供はまず危険だな、スルー推奨だ。ユーチューバーなんかはもっと最悪だろう。捕まった日には何をされるか分かったもんじゃない。ガン無視だ。子供とユーチューバー、この二つには絶対に気を付けよう。親切な人に出会えることを祈るしかないな。

『光合成プロセス良好―』

辺りの景色は昨日と一変していた。俺の周囲を生い茂っていた雑草が、半径約5mにわたり全て枯れ果てている。こうして見ると凄まじいな…

だがお陰で陽当たりはよくなった。改めて周りを見渡してみる。うねとあぜがありますね…やっぱりここは畑だろうか?雑草だらけだったところをみると放置されてたっぽいが。

ザッザッザッ―

足音っ!

近づいて来る。に、人間か?

まだ心の準備が出来てないのに!

ザッザッザッザッ―

黙ってれば通りすぎて行くか。今回は話しかけるのはやめておこう。

現れたのはやはり人間の様だった。植物のボディに緊張が走る。

大丈夫、黙っていれば俺はただの大根だ。普通、その辺に埋まっている大根をいきなり引き抜こうとする奴なんてそうはいない。そんな真似をするのは子供かユーチューバーか農家位のもんだ。

うん、背丈から見て子供ではない。カメラもスマホも手に持ってないからユーチューバーでもない、服装から農家の線もないな。

俺の緊張を感じとり頭の葉っぱがざわつく。か、風で揺れてるだけだよ?

そしてその人物は、俺を目の前にして立ち止まった。


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