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魔法がとけても

「お前実体化出来たの?」

お供妖精が人間界で実体化する事はない、そういう認識が前提として俺にはあった。キラきゅんでは最後までそんなシーンはなかったし。

というか、

「こんな所にいていいの?」

俺がその疑問を抱くのには理由がある。キラきゅんのアイドル天使達が敵と戦うときはお供妖精の補助が不可欠だったからだ。ところが、ヒカエル様にとってのそのポジションであるはずの小動物は今、俺の横でぷんすかしながら立っている。ちなみに実体化した小動物の背丈は俺と同じ位。大根とぬいぐるみ風の不思議生物が立ち話をしているという、なんともシュールな光景だ。

「ボクを踏みつけておいて謝罪する気が全くないとはいい度胸なのね。」

ここでふとある考えが脳裏に浮かび上がる。今こいつが実体を持って目の前にいるという事は……

直接ぶん殴れるんじゃね?

「よからぬことを考えてる顔なのね。」

「何言ってるんですか、そんなわけないでしょ。ははは」

まただ。こいつにはどうも考えを読まれてしまうな。

「あやしいのね。でもボクは親切だからお前の質問に答えてあげるのね。」

そう、悪いやつじゃないんだよな。姿形はひーたんのお供妖精オペラと瓜二つだし。大好きなオペラと同じ外見をしたこいつを叩いたりとか、できるわけないよね。

「ぼけっとしてないで人の話を聞くのね。」

保留だ。保留にしておこう。

「まず最初の質問の答えなのね。ボクが妖精見習いとして天使長の元へやって来た時の事から話すのね。」

「あ、そこはまるまるカットで。」

早くしないとヒカエル様の戦いが終わってしまうだろが!女児向け特撮の戦闘フェイズは超あっさり終わる事が多いんだぞ。

あくまでTVの話だけど。でもあの実力差じゃ本当にすぐ終わりそうだよね。

「むう、仕方ないのね、簡潔に教えるのね。天使の力はとつてもなく強大なのね、抑えきるのは骨が折れるのね。ヒカが人間でいる間はボクがジェムになってエンジェルウォッチに納まってないといけないのね。逆にヒカが天使に戻ったときは自由に身動きがとれるようになるのね。」

変身解除の際に懐中時計から取り外された石の正体はこいつだったというわけか。というかあの懐中時計、エンジェルウォッチっていうのな。

小動物の話は続く。

「天使に戻ったヒカはめちゃくちゃ強いのね。ストーンモンスターなんか一捻りなのね。ボクは戦いがはじまったら地べたでじっとしてるだけなのね。」

ああ、それは分かるわ。なんせさっきのカウンターで吹っ飛ばされたモンスター、まだ起きあがってこないもんな。もしかして死んだんじゃ……一応生きてるか、ピクピク痙攣してるっぽいから。

つまりこの小動物がヒカエル様の補助をするのは人間に変身してる間だけってことだね。石になってあの懐中時計に嵌まっているので、窓や鏡を通してしか話が出来ないと。そういうことか。

2本の茎を腕を組むように絡ませてうんうんと頷く俺。

そうこうしてる内にようやくモンスターがよろめきながらも立ち上がった。ヒカエル様がゆっくりと歩み寄って行く。

「ヒ……」

モンスターが悲鳴を漏らす。怯えてますね、完全に。一撃であれだけのダメージを負わされればな。嫌でも格の違いを思い知らされた事だろう。

思えば、キラきゅんの戦闘はいかに決め技に持っていくかに主眼がおかれていたような気がする。注意をそらす、行動を制限させる、戦意を削がせる、一瞬のどんな隙もアイドル天使達は見逃さない。一秒でも早く、邪悪に染められてしまった人を浄化して元に戻してあげたい、そんな思いで彼女達は戦っているからだ。

ヒカエル様の思いも同じならば……この状況は……そろそろか。

立ち止まったヒカエル様が、右手のチャクラムをモンスターに向けて突き出す。

「いくわよ」

……来る。

光の帯が幾重にも重なってヒカエル様の身体を包み込んでいく、きっとここから浄化エネルギーを高める為の儀式の舞が行われるはずだが、繭の様にヒカエル様を覆っていた光は即座に周囲に放射され、かき消えた。

代わりにチャクラムが燦々と光を放っている。

……

やはり舞はなしか。いや、予想はしてたけどさ。そうだ、一応小動物に訊いてみるか。

「儀式の踊りは無いんですかね。」

「なんでお前がそれを!なのね。浄化の為の舞は特別な空間で行われるのね。時間の流れも違う場所だから、外からは一瞬で終わったように見えるのね。」

やっぱりそうか……現実はこんなもんだね。

俺の落胆など知るよしもなしに、ヒカエル様がチャクラムを大きく振りかぶる。

そして、

「エンジェル、ルナブレイズハレーション!」

眩いばかりの輝くエネルギーが轟音と共に射出された。それは光の奔流となってモンスターを飲み込んで行く。

「グァアアアアアーーー!」

余りにも眩しくてモンスターの姿は黒いぼんやりとしたシルエットしか視認できない。やがてそのシルエットも激流の様なエネルギー波に外側から削り取られていき……

跡形もなく消え去ってしまった。

しーん。

光が収まったあと、モンスターが立っていた場所にはもはや地面しかありません。

「二度目はないと……思いなさい。」

チャクラムを胸の所に構えてそっと呟くヒカエル様。

えっと、存在そのものが浄化された感じかな。原子か何かに還っていったんだろうね……

モンスターのいた場所に向けて手を合わせるように二枚の葉っぱを合わせる。それを見た小動物が怪訝な顔で訪ねてきた。

「何をしてるのね。」

「いや、あのモンスターって元は人間なんでしょ。だから哀悼の意を。」

「何を言ってるのね。」

「いや、浄化って天国送りにする事なんでしょ。」

「馬鹿か、なのね。」

誰が馬鹿じゃ!やっぱりしばいたるぞ、この小動物め!

憤慨する俺を気にするでもなく、小動物はふっとため息を一つ吐く。

「あくまで浄化なのね、死んだわけじゃないのね。」

へ、影も形も残ってないのに?

「というよりもヒカには人間は殺せないのね。まあいいのね、論より証拠なのね。」

そこまで言うと小動物はモンスターがいた辺りをめがけてとてとて歩き始めた。そのしぐさが妙に愛らしくてこれまた腹が立つ。とりあえず俺も後に続く。

そばでヒカエル様が佇んでいる。俺達が近づくとにこやかに迎えてくれた。

「ヒカお疲れ様なのね。」

「ケプラ、ありがとう。」

小動物の労いを快く受けるヒカエル様。思わず俺も何か言わねばという気になった。

「見事な戦いぶりでした、ヒカエル様。この私め大変感服いたしまた。」

どこの観戦武官だよと言わんばかりの言い回しになってしまった。

「大根にそんな仰々しく褒められても嬉しくないのね。」

分かってるよ!言った俺もしまったと思ってるんだよ。そっとしといてくれよ!

「あら、そんなことないわ。ありがとう大根さん。」

この時のヒカエル様の微笑みの美しさときたら。

いや、全部の瞬間が美しいんですけどね。

ヒカエル様の見せる表情、全てが世界遺産ですけどね。

「ケプラ、お願い。」

「任せてなのね、ボクのもう一つの役割を見せてあげるのね。」

ヒカエル様に促されて、えへんと偉そうに小動物が返事をする。何だろう、こいつの一挙手一投足にいちいちイラっとしてしまうんだけど。本当何故なんだろうな、見た目はとても愛らしいのに。

小動物が再びとてとてと歩き出した先の地面をよく見ると、何かが落ちている。緑と紫のマーブルという変な模様の石だ。

丁度モンスターが立っていた場所だよな、あそこって。

「あの石って……」

「イービルストーンなのね。」

小動物が石に向けて両手をかざした。

「離れろ別れろ分離しろー、なのね。」

呪文?の様なものを唱えたとたんに、石がガタガタと震え、ぴかーっと光り、中から気絶したままのおじさんが出てきた。

おじさんだ!一目で農家って分かる格好をした農家のおじさんだ!

この小さな石からどうやっておじさんが出てきたんだ?て、あれ?石の色が変わってる。

おじさんを吐き出した石はなんか虹色になって光っていた。徐にそれをヒカエル様が拾い上げる。

ああ、物凄く良い笑顔だな……

その笑顔のまま、ヒカエル様は拾った石を懐中時計の上部に空いたくぼみに嵌め込んだ。小動物が石に化けて嵌まっていたあのくぼみだ。

石が虹色から更に橙色へと変化した。

「生き物を愛する気持ちがこめられている!」

突然生き生きと小動物が解説をする。あの石の事か?というかなのねはどこ行った、なのねは!

ヒカエル様が石を装着した懐中時計を今度は空にかざす。そして

「オーガニックジェム、転送!」

と叫ぶやいなや、石は一筋の光になって空へ吸い込まれていった。

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