番外編~賊視点~
仲間割れした賊
俺たちは昔馴染みで、こういう生き方しか知らない。
こういうっていうのは、所詮『賊』だ。
生まれた時に捨てられたのか、気がついた時には路地裏のようなところで生きていた。
それに疑問なんてあのころは思ったこともない。
ただただ生きるために必死だ。
年上に負けてたまるかと必死に食らいついていた。
もちろん生き残れたのは偶然で、死んでいった奴らもたくさんみた。
次の日には動かないなんてよくあることだった。
そこで知り合ったヤツらだ。
俺たちは頭も良くないが、唯一双子が俺たちよりは頭が良かった。
あいつらが立てた作戦は成功することが多かった。
今思えば、奪えなかったり飯にありつけなかった時点で失敗もあったが、死ななかったから失敗ではない、という感覚だ。
そんな双子は顔はそっくりだった。
同じ顔、ただ1人は顔に傷があった。
見分けられるようにとつけられたと言っていた、それが本当かは知らない。
知らなくても問題はなかった。
傷のない方が、口がうまかった。
傷のある方は、力が強かった。
いつも通り、待ち伏せして襲うと、商人に扮していたら、双子が喧嘩をし始めた。
あの双子は2人での会話を母国語なのか、俺たちの知らない言語でするからよくわからなかった。
いつものことだと、止めに行ったやつが傷のある方に切りかかられた。
あ?
と思った時には、傷のないやつも切られ、続々と俺たちは切られた。
傷ってこんな痛えのか、とその場で座り込んでただぼんやりとみてた。
遠くから、街の間を往復する馬車が来て、助かるか?とおもったらとんでもなかった。
降りてきたのは双子と女ひとり。
姉弟か、目が似ている。
女なんて弱っちそうだと思ったが、それが間違いだった。
傷のある方を一瞬で檻に閉じ込めていた。
あ、と思った。
けど、なにか声を出す気力がなくて黙ってた。
女がヒールで傷を治してくれたから、魔法使いなのだとわかった。
ただここで次の問題が起きた。
このままあいつを連れていかれたら俺たちは終わりだ。
どうするのか、どうすべきなのか、このままとんずらすべきか?なんてちらりと傷のないやつを見たら、やっぱり焦っているように見えた。
俺たちは口出ししない。
黙って様子を見ていたけど、女たちも警戒を解いていないようにみえた。
おわりだな。
ふぅ、と体の力を再び抜いたら、檻の中にいた。
抵抗するなんて無駄だ。
ちょっと触っただけで、こんな硬い土の壁を崩す力なんてない。
皆それぞれバラバラの檻の中だ。
あいつらが何を思ってるかなんて知らないが、俺は少し安心してしまった。
正直疲れていた。
毎日、明日は目が覚めるのかという恐怖を物心覚えた頃から続けているのだ。
起きている間は常に緊張状態。
今だけは、この檻の中が安心だ。
どうやって運ぶ気かとぼんやりと眺めていたら、魔法騎士団がぞろぞろ現れた。
これはあれだな、空の旅だな。
昔みたことがある。罪人がぐるぐる巻きの状態で空を飛んでいた。
なかなか運ばれないが、何か言うことも叶わず、手足の自由なんてなく、目と耳だけが使える。
これで何ができるんだと思ったが、俺たちはとても運が良かったんだと思うことが出来た。
なんでかって?女が風魔法の練習で見せた技だ。
なんだ今のは。
スパッと切れた傷は浅ければ治りが早い。
深くても、上手くいけばくっつく。
ぐしゃぐしゃに潰れた傷は膿みやすく治らない。
その典型と言われる傷を作るようなものだ。
俺たちは賊だから、捕まる時に死んでても問題ないとされている。
だから正直この技を喰らわなくてよかったとおもう。
あの双子の顔も青ざめてる。
死んでても仕方ないんだからと治癒されることもない。
このあと待ち受けるのは奴隷落ちか処刑かわからないが、この技でなく檻で捕まえてくれた女には感謝だ。