強制イベントとは
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噴水広場でツインズと合流して、どうやって行くの?と聞けば、馬車移動だね、と。
ポータル登録して、さっそく馬車に乗り込む。
ポータル登録もとっても簡単だった。
乗合馬車のようで、住人がメインで乗っている。
プレイヤーも使うらしいけど、この馬車にはいないらしい。ポータル登録してしまったら馬車は使わなくなるから、プレイヤーで毎回大混雑!とは、ならないんだって、便利だな。
確かにね、毎日満員電車はうんざりしちゃうもんね。
現実世界の感じはここでは求めてないよね、本当にね。
「で、この馬車、強制的にイベント発生するから」
「え、なにそれ」
「何が起きるか分からないけど、逃れられないイベントが起きるんだってさ」
いままで隣町に向かったプレイヤーの情報はあの掲示板に集まってるが、どうやら書き込んでて隣町に向かった人は全て道中何かが起きていると。
それは魔物が襲ってきた!という定番から、賊が現れた!というものと、乗合馬車の乗客が急病だ!!とか。
そこには以前ちらっと見かけた百科事典という人も検証したらしい。
ちなみに馬車を使わず隣町に行ったとしても何かしら起きていた、と。
現実世界なら馬車なんて確実におしりが痛くなりそうだけど、そこまでわからないのはゲーム仕様かな。
「へぇ、そういうのもあるんだね〜」
「そうそう、話によると多分そろそろじゃないかな」
「あ、そんな感じなの『とまれぇぇえええ!!』」
「……これかぁ」
急ブレーキと怒号とで外を覗けば、賊っぽい感じ……?倒せばいいやつ?
仮面かぶってて顔分からないんだよね。
と、思いきや、賊の後ろに既に襲われただろう馬車とけが人。さらにその後ろに見えるのはゴブリン軍団。
これはこの賊っぽいのはどっちだ??
住人はおろおろしているし、ツインズと顔を見合せてとりあえず外に。
「どうかしましたか」
「お前らその馬車をよこせ!金目のものも置いていけ!」
「(あれ、ただの賊)」
てっきりゴブリン軍団に襲われて助けを求めるために馬車止めたかと思ったけどそんなこと無かったので、杖出してサクッと檻に収監でーす。
「なっ!?」
「いろは、ゴブリンやってくるから怪我人よろしく」
「近くにほかの怪我人いないかも見てくる」
「いってらっしゃーい」
ぎゃんぎゃん賊が吠えてうるさいので、檻の形を変更。
ほぼ壁で空気穴がてら小さめの格子があるだけスタイル。
それだけで結構声がこもるから静かになるね、いいことだ。
で、馬車近くの怪我人にポーション、と思ったけど、ヒールの練習をさせてもらうことに。
血がすごくて正直怪我の場所どこ?てなったのもあったしね……。
全体的にヒールをしたら、小さく唸りながら体を動かしたので大丈夫、かな……?
ヒールしますね〜?と声はかけたけど。
ツインズがゴブリン倒しながら怪我人探しをしたけど、この馬車の周りにしかどうやらいないみたい。
なので怪我の程度はあれど、全員にヒールを実施。
結果、怪我の程度で持ってかれる魔力量が違う気がする……な?という結論。
「ありがとうございます、怪我まで治して頂きまして、大変助かります」
「あぁいえいえ、ゴブリンやっつけたのは弟達ですし」
「賊を閉じ込めたままにしてるの姉だけど」
隣町の商人らしい糸目の男がペコペコと頭を下げてくる。
親族経営かな?と言うくらい似ている糸目の集まり。
うーん……なんていうか、気の所為かもしれないんだけど、胡散臭いんだよね…。
嘘ついてる典型の目が合わないとかじゃなくて、目が合いすぎてる。糸目の奥、じぃっとこちらを観察しているような感覚。
これが気の所為とか違ったらただ人を疑っただけっていう恥ずかしい結末が待ってるんだけどさぁ。
それは他の視線も混ざってるという時点で、この男以外の馬車を立て直そうとしている親族らしき人たちがこっちを見ているんだとおもう。
んん…居心地が悪い。
ささっとツインズにメッセージ。
簡潔に。
――胡散臭い、これはイベント続行?――
そう、強制イベント。
どこを判定して終わりなのか。
確認し忘れちゃったよね。明確に終わりがわかったりするんだろうか?
賊を閉じ込め、ゴブリンを倒し、怪我人も治療したけど、なんだかゾワゾワしているんだけど、伝わるかな〜とチラリとツインズを見たら、わかるって頷かれた。
よかった、ここは姉弟しててよかった。
乗ってきた馬車の乗客は降りずに待機していて、こちらを伺っているだけ。
目の前の頭を下げる糸目の男と、襲われた馬車を動かすためにあれこれ動き回るのはこの男の親戚か何かだろうし、顔似すぎ案件。
もうね、キツネ顔。
個人的には糸目の男の人って好きなんだけど、なんだろう……いや本当に胡散臭いのよ。
では、あと確認すべきは?
――賊の顔――
どう確認しようか。
いまは小窓だけの檻にしてあるけど、じわじわと小窓を狭めようか。
暑く息苦しくなれば仮面外すかな。
気付かれない程度に小窓を狭めてく。
その結果、音漏れも小さく。
「助けていただいてなんですが、あの賊はどうするおつもりで?」
「あぁ、そうですねぇ……このまま隣町まで運んで、そこで引き渡すことにします」
「よければ私共でその役目引き受けますよ」
――やっぱり変だ――
普通、というか賊に襲われて怪我をしたのなら、その賊とは関わりたくないという心理が働くのでは?
わたしならご遠慮願いたいけど。
ましてやわたしが作った土でできた檻なんて、いつ破壊されるかわからない。
近寄って確認もしていないから強度なんてわからないはず。
なのに、わざわざそんなことを言う??
「そんな、襲われたところですし、皆さん怖がってはいけませんからね、責任もって私と弟で運びますね」
幸いにもさっきヒールしてからしまうタイミングがなくて杖は手に持ったまま。
そう、確かにこの人たちは怪我をしていたんだよ。
馬車も横転していたみたいだし、何かがあったのは事実なんだろうけど。
糸目がすぅっと笑顔を消したので、やっぱりイベント続行ですね!?と杖を持つ手に力が入る。
ツインズもじりっと武器に手をかけてるし。
「それでは私共がこまるんです」
「なぜです?」
「ふふ、……知らせる義理はございません。ヒールをかけて頂きましたが、恩を仇で返させていただきます、ね?」
なんか、わざわざダラダラおしゃべりする時点でやっぱりイベントなのかな〜とは思うんだけど、動けたのでサクッと全員檻の中に収監です。ありがとうございます。
なんかこう、イベントムービー的なのだと体の動きを制御されることもあるから、それかな?と思ったけど、足の指動いたから動けるのね!って。
「いつ詠唱した!?」
「えーと、……知らせる義理はございません?」