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「戻りましたー。お邪魔しますーエヌさんいらっしゃいますかー?」
「おや、おかえり」
エヌさんのお店に行ったら、薬爺がお茶を飲んでた。
ほんと仲良しだなこの2人。
果物おすそ分けですと言えば喜んでもらってくれた。
美味しいもんね!
一方エヌさんは人型でヨーグルトを食べてらっしゃる。
蜂蜜多めで疲れていらっしゃるとみた、とても。
「俺は外に出る時はこの姿はしばらくやめだ」
よっぽど面倒くさかったらしい。
やっぱり早急にどうにかした方がいい気がするなぁ……。
だってこれが嫌すぎて山に引こもるとかいいだしたらどうするんだよっていう…。
あ、でもさすがにNPCにそんな思考はないのかな?でも普通に生活してるように見えるから、そこら辺も考えられるのかな?
同じセリフしか言わない村人Aみたいな感じの人は見た事ないから、考えてると思うんだよなぁ。
とりあえず…
「エヌさん!おつかれのところですが、糸集めました!!」
ドヤァと風呂敷をオープン。
たくさんの糸!圧巻!わたしがんばったー。
…おや?なんかキラキラしてる糸が混じってるね??
「なんだ高品質の糸も混ざってるな」
「あ、このキラキラしてるやつですか?」
割合なのか倒し方なのかよくわからないけど、良い糸が混じってたらしい。いいことですね!
糸はこれでいいらしく、何色にしたい?と聞かれて、確かにそこから選べるのか!?と気がつく。
いま?白色なんですよ、糸。
だって言うて蜘蛛の糸だから、一応。
ローブって言ったら黒とかでは…?
あー、んんー、濃紺…ネイビーブルーより濃い感じ…
あれだ、えーとなんだっけ
前調べたことあるんだよ…んんん
花紺青だ!!
いやまてまて、伝わるのか?
「えーと、あのー、紺色なんだけど紫がかってるというか…」
「…こだわりがありそうだな、とりあえずこの色から近いのを選んでくれ」
どどんと目の前にカラー剤?かな。
蓋に見本色が塗ってある。
ええと、あ、紺色。
これに…この紫足したらいい感じになるかなー。
「エヌさん、この紫にこの紺色足したりできます?」
「できる」
というわけで、好みの色を作ってみろと言われ、筆をかりてちょっとまぜまぜ。
あー、もうちょい紫感…
はいはい、ここにほんの少しの紺色!
花紺青?かわからないけど近い気がしている!
「こんな色を希望します!」
「ふむ…なかなか深みのある色だな。じゃあこの色を増やして」
「どうやっ」
どうやって増やすのか聞こうとしたら増えてた。
いやまぁそうだよね、魔法使いですもんね。
それを巨大なタライに入れて、水を入れて、糸を片っ端から入れていく。
アレニエの糸はドロップした時にくるくるの毛糸玉のようになってるから、しっかり染めるために揉み込む。
わしわしと握ったり沈めたり。
充分に浸ったら軽く絞って取り出すと、エヌさんが乾燥の魔法をかけて乾かしてくれるのでとてもスピーディ。
キラキラの糸も綺麗に染ってる。
で、それらをどうするのかな?と思ったら出ました機織り機!え?どこからって?
エヌさんが杖すいって動かしたら出てきました。
魔法使いってすごい。
そして機織り機はじめてみた!
「すごいですね!」
慣れた様子でテキパキとセットするエヌさんの作業を観察。
下手に手を出すとややこしくなりそうなのでね。
どうやって織るのかな?
完全なる素人のわたしにできるのか?
縦糸と横糸はわかるけど、セットはできない!
知ってるのはすい〜っと糸をくぐらせて、トントンってするくらいのレベルです。
「ここに座れ」
言われたところに座ると、織り方の説明が始まったわけですが、想像とは違ったわけですよ。
あのー、手で、糸をくぐらせてトントンして縦糸変えて?またくぐらせてと思ってたの。
ちがったわ。
ここから魔力だったわ。
「前選んだ杖、これに魔力を込めるんだ」
「まりょく…」
「魔力はこれだ」
エヌさんの手のひらの上になんかゆらゆらしてるものが…?
なんだろう、わかるのに視認できないというか…カゲロウっぽい感じ。
そのままゆらゆらしてる手を近づけてきて触ってみろというので、言われるがまま触れてみる。
なんかこう…さらっとしてる。思った感じではない。
でも抵抗も僅かに感じる。いや、抵抗じゃないけど、何かあるというのはわかる。空気の膜のような……。
あの感覚、冷房で体が冷えたあと夏の外に出た時のなんかムワッとした感じ?
でもこれがどうしたらわたしから発生するのかっていうね?
「…手を握るぞ」
「あ、はい」
宣言されたけどエヌさんの手のひらの上の魔力を触ってたので手を握るって言うよりも、わたしがお手をしてるような状態。
お?おお?おおおおお?
「なんか、…あー…なんかわかります、流れてる」
血流とは違うけど近い感じ。
止まってたバルブを全開にしたー!みたいな感覚。
わたしなんかわかるぞコレ…。
あれだ、鍼灸院で1回だけ鍼治療してもらった時の感覚だ!
「よかったの、それが魔力じゃよ」
「魔力はわかる人間にこうやって流してもらって初めて開く」
なーるほど?てことは?
この街の住民だったらできる人はまぁいるってことかな?
…これもしかして凄いことを知ってしまったのでは?