四
姫を救うべく、僕は山賊達の下へ急いだ僕。先程玄関付近で着替えていたマサや、彼を庇ったリーダーはもういないな。と言うことは、部屋の方か。目に見える扉を全て開け、中の様子を睨み付けるように凝視する。いないな。
とりあえず一旦落ち着こう。呼吸を整え、ゆっくりと部屋を一つ一つ覗く。
以前見た仕掛けでは、確かこういう大きな本棚の裏に、隠し扉なんかが――。
「……あった」
分かりやすい程見つけられた、隠し扉。
…まぁ、早く見つかることに悪いことは無いよな。僕はその扉を開け、先の薄暗い階段を降りていく。すると、奥から何やら叫び声が聞こえてきた。
もしや、姫に何か……! 姫の身を案じて駆けだした先、鍵のかかった扉を蹴破って入ると、目の前の光景に唖然とする。
倒れているのだ。姫以外の男共、全員が。それも皆股間を抑えて。
「……姫、一体何を?」
「いやぁ、何と言ったら良いのやらなぁ……」
これには左手にマイクの給料袋を持つ姫も、苦笑いをしながら僕に事情を説明し始めた。
姫の説明によると、姫を蹴ろうとした人々が、誤ってそれぞれの股間を蹴り、残されたリーダーに至っては、姫が逃げて踏んだ際に石が飛んで行ったらしく、それが股間にヒットしたのだそう。何て地獄絵図。
「では、今のうちにあのロープで巻いておきましょうか」
「うむ、頼んだ」
… … …
姫は心配するまでも無く元気だ。少々邪魔なくらい。後は、マイクの方を何とかせねば。僕と姫は急いで家を出る。
が、遅かった。
目の先にいるマイクは、今まさに山賊の残党が剣を振り上げている所だった。やはり、位の高いマイクを一人置いておくのは間違いだったか。
「マイク!」
姫が手を伸ばして叫んだ。その時――。
一つの刃が飛び、山賊の刃とぶつかった。
「誰だ!」
山賊が刃の飛んできた方向を睨み付けると、その先にいた人物に目を見開く。それもそのはずだ。だって、僕や姫だって驚いたのだから。
「テメェは……トムか!」
「ああ、この美しい顔に、トム以外の何者かがいると思うかい?」
トムは鼻に付く言葉を並べながら、マイクの前まで移動する。
「兄さん、どうして……」
「マイク、よく喋るようになったね」
トムに言われると、マイクは目を逸らして言葉を発さなくなった。それを見て、おやおやとマイクは苦笑する。
「ちょっと、痛いけど、僕の攻撃なら許してくれるよね?」
「ほざけっ!」
山賊は急いで剣を手に取りトムへと振り下ろすと、トムはその手を片手で掴み、掴んだ手で山賊を前方へと強引に引っ張りこむと、その空いた腹に一発キツイ蹴りをお見舞いした。
山賊は口から血を吐くと、後方へとゆっくりと倒れて白目をむいた。
どうやら、もう動かないらしい。それを確認して僕は駆け寄ろうとしたが、姫が僕の手首を掴んだ。彼等を二人きりにすべき、と言うことか。僕は一歩下がり、彼等を見つめる。
「マイクは、僕の言動が嫌で、喋れなくなったんだろ?」
「……どうしてそれを……」
「分かるさ、態度を見れば」
トムは寂しげな表情でマイクを見る。
「けどね、僕はこれを変えるつもりは無い。何故なら、これが僕だからだ」
「……そう」
「ただ、一つ言える。君も君だ。君は決して僕じゃない」
マイクは目を丸くしてトムを見た。これに、トムは優しい笑顔を向ける。
「君は僕じゃないのに、何故僕の言動を気にするんだ? 僕はこんな自分が好きなのに」
「……」
トムの問いに、マイクは言葉を失ってしまった。すると、トムはマイクに背を向けて歩き出す。
「帰りはお姫様達と一緒に帰って来なさい。僕に抱えられるのは嫌だろうからね」
「ち、違うっ!!」
マイクは痛みを堪えながら立ち上がって叫んだ。トムは振り返り首を傾げていた。
「……本当は、嫉妬してたんだ。自分の言動を気にせず、自由に生きている兄さんが羨ましくて、悔しくて」
「僕にかい?」
「うん。だからこそ、自分の言動に自信が無くなった。あまりにも自信に満ち溢れている、兄さんを、何時も近くで見ていたから」
「そうか。でも、君は君なんだよ。もっと、自分が楽に生きれるようになると良い」
「……兄さん!!」
マイクはトムに駆け寄ると、トムの胸の中で涙を流し、何度も何度も謝った。トムは何を言うわけでも無く、優しくマイクの頭を撫で続けた。
… … …
トムがマイクを背負い、僕達は歩いて城へ戻ることに。その間、多くの民が心配し、声をかけてくれた。此処は本当に良い国だな。
城へ着き、僕達四人は王の間へ。扉が開いて僕達が見えた瞬間、王と女王は席を立ち、マイクの下へ駆け寄った。
「マイク!」
「母上、マイクは無事だ。でも、早めに手当てをした方が良いだろう。早く医者を」
「待って、兄さん」
マイクがトムの背からゆっくりと降りると、地に足を付けた瞬間大きくふらついた。それをトムが肩を貸して支え、マイクは何とか体勢を保つ。この様子からして、きっと何か重大なことを話すのだろう。王と女王も身構えた。
「僕、今日色々なことを経験した。働いて、怪我して。色んな嫌な目にあった」
「……そうか」
「でも、嬉しいこと、良いことも沢山あったよ。少し、人を好きになった。兄さんのことも」
マイクに言われると、トムは少し顔を逸らし、照れくさそうな態度を取ったものの、口元は嬉しそうに緩んでいる。
「だからこそ、僕は王子にはなりたくない」
「……マイク!」
女王が声を上げた。王やトムも驚き、マイクを見る。
「僕は今日働いてよく分かったんだ。あの八百屋さんで働きたいってこと。そして、兄さん、トムの方が、上に立つのに適した人だってこと」
王と女王はしばし唖然として見たが、トムは何時になく真剣な顔つきでマイクの方を向いた。
「……本気なんだよな? ソレ」
「うん」
マイクの目を見ると、トムは王と女王の方へと向き直り、頭を下げた。
「どうか、僕に王子の権利をお与え下さい」
トムが頭を下げると、マイクも慌てて頭を下げる。王と女王は意外にもすんなりと、二人へと頷いてみせた。
「トム、お前がそう言うなら。私達も言うことは無い。だろう?」
「ええ。だって、マイクが良いと言ったのはトム自身ですもの」
「……え?」
マイクは驚いてトムを見る。マイクの視線に、トムは優しい笑みを向ける。
「マイク。実は王子の座をこうもこまねいていたのはな、トムがマイクの意見を聞きたいと良い、マイクの良さを自ら伝えていたからなんだよ」
「……兄さん」
マイクはトムに頭を下げた。トムは首を横に振る。
「それでは、これより王子の座をトムに任せようと思う。となれば宴だ! 宴の準備じゃ!!」
王が声を荒げた瞬間、扉の奥にいた城の者達が現れ、「おー!!」と声を揃えて宴の準備を始めた。この、お祭り好きな感じ。何だか、イリス国を思い出して笑ってしまったよ。
… … …
宴を終え、辺りも暗くなったところ。多くの人達に見送られながら、僕達は帰ることに。その道中、姫は真っ暗な空に一つ浮かぶ月を見つめ続けていた。
「……姫」
「なんじゃ」
「以前言いましたよね。星は、時に流れて他の星や生物達に会いに行くって」
「ほー、よく覚えてるのう! 意外と気に入っていたのか?」
「……僕はこうも思うんですよ。だったら、嫌な星から逃げることもまた、流れ星なんじゃないかって」
姫は、「一枚取られたな」と笑ったが、煌く星を見つめながら首を振った。
「それが、星ならばな」
と。




