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モモロン  作者: 素元安積
二十五・痛無
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 姫を救うべく、僕は山賊達の下へ急いだ僕。先程玄関付近で着替えていたマサや、彼を庇ったリーダーはもういないな。と言うことは、部屋の方か。目に見える扉を全て開け、中の様子を睨み付けるように凝視する。いないな。


 とりあえず一旦落ち着こう。呼吸を整え、ゆっくりと部屋を一つ一つ覗く。


 以前見た仕掛けでは、確かこういう大きな本棚の裏に、隠し扉なんかが――。


「……あった」


 分かりやすい程見つけられた、隠し扉。


 …まぁ、早く見つかることに悪いことは無いよな。僕はその扉を開け、先の薄暗い階段を降りていく。すると、奥から何やら叫び声が聞こえてきた。


 もしや、姫に何か……! 姫の身を案じて駆けだした先、鍵のかかった扉を蹴破って入ると、目の前の光景に唖然とする。


 倒れているのだ。姫以外の男共、全員が。それも皆股間を抑えて。


「……姫、一体何を?」

「いやぁ、何と言ったら良いのやらなぁ……」


 これには左手にマイクの給料袋を持つ姫も、苦笑いをしながら僕に事情を説明し始めた。


 姫の説明によると、姫を蹴ろうとした人々が、誤ってそれぞれの股間を蹴り、残されたリーダーに至っては、姫が逃げて踏んだ際に石が飛んで行ったらしく、それが股間にヒットしたのだそう。何て地獄絵図。


「では、今のうちにあのロープで巻いておきましょうか」

「うむ、頼んだ」


 … … …


 姫は心配するまでも無く元気だ。少々邪魔なくらい。後は、マイクの方を何とかせねば。僕と姫は急いで家を出る。


 が、遅かった。


 目の先にいるマイクは、今まさに山賊の残党が剣を振り上げている所だった。やはり、位の高いマイクを一人置いておくのは間違いだったか。


「マイク!」


 姫が手を伸ばして叫んだ。その時――。


 一つの刃が飛び、山賊の刃とぶつかった。


「誰だ!」


 山賊が刃の飛んできた方向を睨み付けると、その先にいた人物に目を見開く。それもそのはずだ。だって、僕や姫だって驚いたのだから。


「テメェは……トムか!」

「ああ、この美しい顔に、トム以外の何者かがいると思うかい?」


 トムは鼻に付く言葉を並べながら、マイクの前まで移動する。


「兄さん、どうして……」

「マイク、よく喋るようになったね」


 トムに言われると、マイクは目を逸らして言葉を発さなくなった。それを見て、おやおやとマイクは苦笑する。


「ちょっと、痛いけど、僕の攻撃なら許してくれるよね?」

「ほざけっ!」


 山賊は急いで剣を手に取りトムへと振り下ろすと、トムはその手を片手で掴み、掴んだ手で山賊を前方へと強引に引っ張りこむと、その空いた腹に一発キツイ蹴りをお見舞いした。


 山賊は口から血を吐くと、後方へとゆっくりと倒れて白目をむいた。


 どうやら、もう動かないらしい。それを確認して僕は駆け寄ろうとしたが、姫が僕の手首を掴んだ。彼等を二人きりにすべき、と言うことか。僕は一歩下がり、彼等を見つめる。


「マイクは、僕の言動が嫌で、喋れなくなったんだろ?」

「……どうしてそれを……」

「分かるさ、態度を見れば」


 トムは寂しげな表情でマイクを見る。


「けどね、僕はこれを変えるつもりは無い。何故なら、これが僕だからだ」

「……そう」

「ただ、一つ言える。君も君だ。君は決して僕じゃない」


 マイクは目を丸くしてトムを見た。これに、トムは優しい笑顔を向ける。


「君は僕じゃないのに、何故僕の言動を気にするんだ? 僕はこんな自分が好きなのに」

「……」


 トムの問いに、マイクは言葉を失ってしまった。すると、トムはマイクに背を向けて歩き出す。


「帰りはお姫様達と一緒に帰って来なさい。僕に抱えられるのは嫌だろうからね」

「ち、違うっ!!」


 マイクは痛みを堪えながら立ち上がって叫んだ。トムは振り返り首を傾げていた。


「……本当は、嫉妬してたんだ。自分の言動を気にせず、自由に生きている兄さんが羨ましくて、悔しくて」

「僕にかい?」

「うん。だからこそ、自分の言動に自信が無くなった。あまりにも自信に満ち溢れている、兄さんを、何時も近くで見ていたから」

「そうか。でも、君は君なんだよ。もっと、自分が楽に生きれるようになると良い」

「……兄さん!!」


 マイクはトムに駆け寄ると、トムの胸の中で涙を流し、何度も何度も謝った。トムは何を言うわけでも無く、優しくマイクの頭を撫で続けた。


 … … …


 トムがマイクを背負い、僕達は歩いて城へ戻ることに。その間、多くの民が心配し、声をかけてくれた。此処は本当に良い国だな。


 城へ着き、僕達四人は王の間へ。扉が開いて僕達が見えた瞬間、王と女王は席を立ち、マイクの下へ駆け寄った。


「マイク!」

「母上、マイクは無事だ。でも、早めに手当てをした方が良いだろう。早く医者を」

「待って、兄さん」


 マイクがトムの背からゆっくりと降りると、地に足を付けた瞬間大きくふらついた。それをトムが肩を貸して支え、マイクは何とか体勢を保つ。この様子からして、きっと何か重大なことを話すのだろう。王と女王も身構えた。


「僕、今日色々なことを経験した。働いて、怪我して。色んな嫌な目にあった」

「……そうか」

「でも、嬉しいこと、良いことも沢山あったよ。少し、人を好きになった。兄さんのことも」


 マイクに言われると、トムは少し顔を逸らし、照れくさそうな態度を取ったものの、口元は嬉しそうに緩んでいる。


「だからこそ、僕は王子にはなりたくない」

「……マイク!」


 女王が声を上げた。王やトムも驚き、マイクを見る。


「僕は今日働いてよく分かったんだ。あの八百屋さんで働きたいってこと。そして、兄さん、トムの方が、上に立つのに適した人だってこと」


 王と女王はしばし唖然として見たが、トムは何時になく真剣な顔つきでマイクの方を向いた。


「……本気なんだよな? ソレ」

「うん」


 マイクの目を見ると、トムは王と女王の方へと向き直り、頭を下げた。


「どうか、僕に王子の権利をお与え下さい」


 トムが頭を下げると、マイクも慌てて頭を下げる。王と女王は意外にもすんなりと、二人へと頷いてみせた。


「トム、お前がそう言うなら。私達も言うことは無い。だろう?」

「ええ。だって、マイクが良いと言ったのはトム自身ですもの」

「……え?」


 マイクは驚いてトムを見る。マイクの視線に、トムは優しい笑みを向ける。


「マイク。実は王子の座をこうもこまねいていたのはな、トムがマイクの意見を聞きたいと良い、マイクの良さを自ら伝えていたからなんだよ」

「……兄さん」


 マイクはトムに頭を下げた。トムは首を横に振る。


「それでは、これより王子の座をトムに任せようと思う。となれば宴だ! 宴の準備じゃ!!」


 王が声を荒げた瞬間、扉の奥にいた城の者達が現れ、「おー!!」と声を揃えて宴の準備を始めた。この、お祭り好きな感じ。何だか、イリス国を思い出して笑ってしまったよ。


 … … …


 宴を終え、辺りも暗くなったところ。多くの人達に見送られながら、僕達は帰ることに。その道中、姫は真っ暗な空に一つ浮かぶ月を見つめ続けていた。


「……姫」

「なんじゃ」

「以前言いましたよね。星は、時に流れて他の星や生物達に会いに行くって」

「ほー、よく覚えてるのう! 意外と気に入っていたのか?」

「……僕はこうも思うんですよ。だったら、嫌な星から逃げることもまた、流れ星なんじゃないかって」


 姫は、「一枚取られたな」と笑ったが、煌く星を見つめながら首を振った。


「それが、星ならばな」


と。

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