二
テーブルや椅子が片付けられた大広間の扉が閉まっている。と言うことは……。こちら側から扉を開けると、目の前には王と女王がいた。上手いな、こうやって部屋に閉じ込めて、一気に何人も捕まえているワケだ。
「順調ですかね?」
「ああ、お陰様でな」
姫の問いに、王は苦笑気味に答え、部屋の角に固まる金髪の人々を捕まえに走り出した。
「そうじゃな。もう時間も半分を切ったことだし、この中に限定しよう」
「本当ですか?」
尋ねる女王に姫は頷き、自ら扉の内鍵を閉めた。すると、扉の前で鍵代わりに立っていた女王も必死に駆けだす。
息子を捕まえる為、必死に駆けまわる二人を楽しそうに見つめていたレア王子。だが、五分程経過すると、その表情は少しずつ影を帯びていく。
それから十分、十五分と経過していき、一気にニセモノの兵士やメイド達が捕まって別室へと移動させられ、残りは、体力のある背の小さなメイド達が三十人のみ。
「……あ、あの。小休止に水でも飲みます? 僕、持ってこよっかな」
そこへ、レア王子が、王と女王に自ら声をかけた。それに対して姫は驚き、メイド達はひやひやとした表情をしていたが、何となく行動の真意が理解出来る。本当の自分を気づいていてほしいと言う気持ちが。
王は、「ああ頼む。スマンね、君のような位の高い子に」とレア王子に言ったものの、女王はしばらく彼の顔を疑わしく見つめていた。
「それじゃあ、行ってきますね!」
「待って!」
女王の声が、大広間に響き渡った。レア王子が振り返ると、女王はレア王子へとゆっくりと歩み寄る。
「貴方、クロノス王子ではありませんね?」
レア王子の目が大きく見開かれた。
そう、今まで彼がしていた恰好。それは、僕達が少し前まで会っていたクロノ王子の恰好だったのだ。偶然にも、変装道具を無駄に持つ姫の趣味が良い意味で転がり、クロノ王子の髪型にそっくりとピンクのカツラまで発見されたのだ。それと、かしこまった服を着せれば、背丈も近く、同じく可愛らしい顔をしたクロノ王子にそっくりになる。彼も、なるべくクロノ王子に似せようと、声を低めに話していたし、バレない作戦としては、一番上出来だと思ったが。……やはり、そこは腹を痛めて産んでくれた母親だな。
「被っているものを外しなさい」
女王に言われると、レア王子は被っていたカツラを外し、長く美しい金の髪を揺らした。クロノ王子だと思っていただけに、王はかなり驚いていた。開いた口が塞がっていないからな。
「よくぞ見つけ出した! お二人の勝ちじゃ!!」
姫が言う。メイド達が対応に困っているので、僕が拍手をすると、メイド達が合わせるように拍手した。
王もレア王子の方へと移動した。
「そ、そうか。それじゃあさっさと帰るぞ、レア」
「ちょっと待ってよ!! それだけなの!?」
レア王子が声を荒げる。それに対し、王はまだあるのかと言わんばかりの怠そうな顔をする。
「何が言いたい?」
「もうこれ以上、僕を利用するのはやめてよ! 僕は、男として生きていきたいんだ!!」
「しかしな、体が弱くて背の小さなお前じゃ、悪い女が付くとも限らん。そうなったら、国の取り返しがつかんだろう?」
「国、国、国って! お父さんは何時もそればっかりだ!! そんなに国が大切なら、違う子供呼んで王子にしちゃえば!?」
体を震わせ、目をうるませながら言った。本当は、そんなことして欲しくない癖に。そこには、素直になりきれない彼がいた。
返事に困る王。きっと、息子に此処まで言い返されたことは無かったのだろうな。
そんな王の代わりだろうか、否、母親としてかもしれない。女王が前に出ると、レア王子の頬を叩いた。
「貴方は、私が苦しんで産んだ子よ。貴方以外の子を、私の子と言うはずが無いでしょう!」
そう怒鳴った後、女王はレア王子をギュッと抱きしめた。それは正しく、母親の姿だった。レア王子は女王に身を委ねると、その目から涙を流した。
二人の様子を呆然と見ていた王も、やがて二人の前に移動する。王がレア王子の前へ来ると、女王はレア王子から手を離した。
「……この先、自分の言動に責任を持てるか?」
王に問われると、レア王子は腕で涙を拭って頷いた。
「うん! 僕、人を見る目には自信があるんだ!!」
「……そうか」
まだ、王は不安げだったが、女王が頷いたのを確認すると、王も頷いた。
「ならば、お前の望む姿で生きなさい」
王の言葉を聞くと、レア王子は両手を上げて喜び、僕達と手を取り合って喜ぶ。そして、王の方へと振り返ると、「お父さん、お母さん!」と声を上げる。
「僕、人を見る目には自信があるって言ったよね?」
「ああ、言ったな」
「僕ね、今回こうしてこの国に来て、分かったことがあるんだ」
レア王子は、キラキラとした瞳で僕や姫、そしてメイド達を見た。
「この国の人達は、みんな明るくて、楽しくて、良い人達だよ!! だから、僕はこの国と同盟を結ぶ!!」
「ど、同盟だと……!?」
「うん。本気だよ。此処の人達は、僕の為に城をこんな風にしてまで協力してくれたんだ。此処までしてくれる人達が、悪い人だと思う?」
城の者達は、大半が金髪ロングのカツラをし、城のテーブルや椅子なども片づけられている。確かに、これが出来るのはうちの馬鹿な姫の命令と、お祭りが大好きなこの国の人々くらいかもしれないな。
レア王子は僕から姫の前へと移動し、そして姫の片手を取る。姫も、これから出る言葉に、緊張した面持ちでレア王子を見た。
「イリス王。貴方の国と、同盟を結びたい」
「……ああ、勿論良いぞ。また遊びに来ると良い!」
姫が笑うと、レア王子も嬉しそうにはにかみ、メイド達は僕の先導無しでも拍手をした。メイド達が拍手をしているのを見ると、王や女王も拍手をし、辺りは和やかな空気に包まれた。




