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モモロン  作者: 素元安積
二十二・鬼隠
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 レア王子の事情を話し、城の者達の力を貸して下さいと姫に頼んだところ、姫はかくれんぼをしようと提案してきた。


「姫、かくれんぼと言いますと?」

「なぁに、単純な話だよ」


 姫は僕とレア王子に手招きすると、僕たちの耳元でかくれんぼの詳細を話しだした。


 … … …


「姫! レア国の王と女王が国にいらっしゃったようです!!」

「うむ、直ちに下へ行く。行くぞ」


 カレブの報告を聞き、姫は僕とレア王子を手招きして連れる。レア王子も先程のぶかぶかな恰好より着替え、今までの長い髪とは対照的な、ショートヘアのカツラなんかも被っており、小さな彼でもそれなりに似合う服装になった。


 下へ行くと、僕達以外にも、沢山のメイドや兵士が待っているところであった。城の者達で、出られる者達は呼べるだけ呼んだ。


 折角王と女王が来てくれたことだし。丁度姫の計画を、此処でご紹介しよう。


「や、やぁ。イリス王」

「ごきげんよう……」

「ごきげんよう。よくぞいらして下さりました」


 まず、こうしてやって来た王と女王。二人は娘ならぬ息子がいなくなり、不安でいっぱいのはずだ。そこで、イリス姫は二人に尋ねる。


「おや? レア王女はいらっしゃらないのですか?」

「いっ……!!」


 姫に尋ねられた瞬間、王と女王は顔面蒼白状態。姫はクスクスと笑うと、「大変申し訳ない」と頭を下げた。この行動に、王と女王は姫を不思議そうに見る。


「実は、お宅の王女がうちの国の者になりたいと言って来ましてね」

「では、娘がいるのか!」

「ええ。そこで、お二人に提案があるのです」


 我が子がいると聞いて、途端に目を輝かせる王と女王。これが親としての目か、国の頂点に立つ者の目か、此処はじっくり見させて頂こう。


 姫は人差し指をピンと立て、物事を説明しだす。


「お二人がこの多くの人の中からレア王女を見事見つけ出せたら、レア王女は返しましょう」

「お、おい。一体何を言ってるんだね?」

「お分かりにならぬか? レア王女は此処へ助けを求めに来たのだ。だからこれは、父と母である貴方様がたと、イリス国の真剣勝負だ」

「では、私達が負けた際には……」

「お宅のレア王女は、私達の国でお預かりしよう」


 この提案に女王は戸惑い、王は眉間にシワを寄せた。


「そんな提案、乗れるわけが無いだろう!」

「ほぉう」


 怒りを示す王を、姫はジッと見つめる。王がその表情を変えずに姫を睨む。


「では、王女は此方で預かろう」

「いいや、今すぐに出せ。さもなくば、この国に攻め込んだって構わない!」

「アナタ!!」


 王の腕を引き、必死に気を静めようとする女王。王がこれだけ怒っても、姫は怯むことなく言った。


「人を使って戦うな! 戦うなら自分自身で戦え!!」


 姫の言葉に、王は反論の言葉を失い、唇を噛みしめる。そんな王の代わりに、女王が一歩前に出る。


「従うわ」

「では、時間を定めよう。あまり長すぎるとお二人に悪いから、二時間までくらいで良かろう」


 どうでも良いような所は気を遣うよな。それに、二時間って結構長いような気がする。


「分かったわ。アナタ、こうなったら見つけましょう」

「……バカバカしい。さっさと終えるぞ。始めろ」

「オーケーじゃ! それでは……スタートじゃ!!」


と言った瞬間、姫は思わず金髪の人物に指を差していた。


「あ」


姫が言った頃には遅く、王と女王は二人を指差す。


「に、逃げろー!!」


 姫は咄嗟にその人物に叫んだ。すると、金髪の人物は早々に走り出した。これじゃあ、かくれんぼと言うより鬼ごっこだがね。


「ま、待て! あれを捕まえろと言うのか!?」

「ええ! 王女を返して欲しくばね!!」


 王は舌打ちを一つしたものの、女王は王より先に駆けだす。それを見ると、王も負けじと走り出した。


 それを見ると、姫はワクワクが抑えきれなかったらしく、ピョンピョンと飛び跳ねた後、王と女王の走り去った方向を見る。


「皆も走れ! 王と女王をかく乱するのじゃー!!」


 姫の言葉に戸惑う者もいたが、「今日は仕事無しじゃー!」と、金髪ロングのカツラを被ったカレブが駆けだしていくと、それを信じた城の者達が一斉に駆けだした。仕事が無いことなんてあるはずが無いのに。単純な人達だ。


 ちなみに、今王と女王が追っかけたのは無論レア王子などではない。何せ、レア王子はあの小ささ。体が強い訳でも無いので、持久力はそう続かないだろう。第一、彼が今被っているのは金色のカツラではない。


「さて、お楽しみといきますか」

「うん!」


 僕とレア王子は図書室へと移動した。


 … … …


「何だか騒がしいねぇ」


 あまり他国に姿をバレたくないエロス様の為に、この部屋だけ進入禁止の札がかかっている。僕達がその部屋に入ってくると、エロス様は此方へ歩み寄った。


「あれ? この子帰ったんじゃなかったっけ?」


 エロス様は、レア王子の姿を見て言った。僕はしーっと指を唇の前に持ってきてエロス様に諭す。人の顔色を汲み取るのに長けているエロス様は、コクコクと頷いた。今回の件については、一応エロス様にも話をしておいているからな。


「あ、あの。エロス様って別の国のお方じゃ……?」

「まぁ、色々あって家出中。だから、僕のことは内緒にね?」

「へぇ、家出なんですか。羨ましいなぁ」

「そう? 僕は、君の方が羨ましいけどねぇ。親がこんなに必死に探してくれてさ」


エロス様は、「僕の方は無関心だもん」と笑って励ます。だが、レア王子は俯くと、切なげに言った。


「……でも、国の為かもしれないし」

「けれど、今回の件のお陰で、君のことを理解してもらえるチャンスが出来たじゃないか。頑張れ。ちゃんと伝えなよ?」

「は、はい!」


 レア王子が笑うと、エロス様は、「よしよし」とレア王子の頭を撫でた。


「ところで、まさかずっと此処にいる気じゃないよね?」

「もちろん、途中で出て行きますよ。今は彼も疲れているでしょうし、二時間まで時間もありますので少し休んでもらおうと」

「良いの? そんなことして~」

「ちょっとはお二人に苦労して頂かないと。ですから」


 僕が言うと、エロス様は、「嫌な奴~」と冗談っぽく言って笑った。


 … … …


 レア王子が本を二冊読み終えたところで、現在おおよそ一時間が経過した。そろそろ戻っても良い頃か。


「行きましょうか」

「うん」


 僕達は立ち上がり、図書室を去っていった。


 扉を開け、状況を確かめる為、一旦ロビーに移動する。この音からして、今は二階を走り回っているらしい。流石に一時間走り続け、お二人の体力も限界に達していることだろう。さて。上に行って様子を見てくるとしよう。僕達は二階へと移動した。


 すると、上がってすぐ、逃げ惑う人の列が列車の如く僕達の目の前を通って行った。それにより、僕達の下に、大きな風圧が来る。


 そしてその後、ヘロヘロになった王と女王が何とか前へ前へと歩いてくる。我ながら、ちょっと可哀想になってくるな。


 女王は此方を見た。正直ヤバいと胸がドキリとしたが、女王は首を横に振って歩き出した。……だよな、まさか今の彼がレア王子には見えまい。


 二人が去っていった後、姫が僕達を見つけると、「こっちじゃこっち!」と僕達に手招きをした。


 空き部屋である場所へと移動すると、そこには沢山の捕まった人がいる。


「これを見よ!」


 姫が手を伸ばす先には、”ニセモノ”と張り紙を張られた金髪のカツラを被せられた背の小さい人々だ。今回、こうなることを予想して、金髪のカツラをあるだけ被せたからな。その中には、カレブの姿もあった。


「バレちまったなー」


 いや、バレるに決まってるだろ。見た目が全然違うんだから。


「でも、楽しかったな! 子供の頃、追いかけっこした記憶が蘇ったよ。お前も走ったら?」

「僕は毎日走らされている。今日くらい休ませてくれ」

「はは、じゃあゆっくり休みな!」


 カレブは明るく笑い飛ばした。姫は僕達の様子をニコニコしながら見つめる。


「それにしても、これだけ捕まるとは、意外でした」

「計四十人じゃからな。ま、今日出れるだけの人間でもまだまだいるから、見つけるには程遠いじゃろうけど……そろそろ戻るか」


 姫の言葉により、僕達三人は部屋を出て行き、沢山の足音がする方向へと移動した。

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