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モモロン  作者: 素元安積
二十・取材
44/66

挿絵(By みてみん)



「クォオラ(こら)!!」


 ムネモシュネ王の怒鳴り声が部屋中に反響した。


 … … …


 急で一体何が何だかお分かりにならないかと思うので、説明しておこう。


 意外なことにも、今回我がイリス国のイリス姫に、取材依頼が来たのだ。取材と言うのはテレビなどと言った大それたものでは無い。そもそも、テレビなどと言う高価なものはイリス国には存在しない。そういうわけで、今回取材が来たのは雑誌である。


 これが美人なイリス姫に~とか、国々の街並みを紹介する為と言う理由なら納得がいくが、着眼点はそこでは無いらしい。今回の取材班の着眼点、それは姫の食レポなのだと言う。とうとう姫の食いっぷりも世間を振り向かせるまでになってしまったか。


 実はこの食レポ、姫にと言ったのは、他ならぬコイオス王なのだ。以前から親交を深めていたコイオス国で、中でもコイオス王はグルメで知られているが、そのコイオス王が、わざわざ記者に姫を薦めるとは。どうやら、姫の食べっぷりを買ってくれたらしい。これは吉報だな。


 此処までは良かったのだが、姫はこれを嫌だと言ったのだ。何故ならば、本来の姫の食べ方は非常に野蛮だからだ。


 しかし、食レポではコイオス王との会食の時同様、気張っていただかないとならない。


「食い物は好きなように食べたいのじゃ!」


姫はこの一言でプイッと顔を逸らした。


 愛しの妹に様々なドレスを着せたがっていたエロス様は、これに非常にショックを受けていた。挙句には、僕へ救いの視線を向ける。人の心を読めるなら、それくらいの窘め方は知っておいて欲しいものだが。


「姫、取材を受けると言うことは、多くの人の、それも他国の人からの目にも晒されると言うことです。つまり、今回取材が来た貴方は、イリス国の顔そのものになるのです。良いんですか? イリス国の人々が、姫のように食べ方の汚い人だと思われたり、来た仕事を簡単に断るような人だと思われても」

「そう言うことだ」


 さも、自分が思ってましたよーみたいな顔して。エロス様は腹立たしい程に開き直って僕の言葉に同調する。いかんいかん、こう言った感情を覚えてはエロス様にどんな顔をされるか分からない。エロス様を見ると、エロス様は僕を見て舌をペロリと出した。……小憎らしい。


 何とか姫の取材許可を得られたが、問題は彼女の楚々の悪さをどう直すか。であった。普通に執事に頼もうとも考えたが、それだと姫が途中で眠ってしまう。何せ、あの落ち着いた声は羊を数えるより余程眠たくなってしまうのだ。


 そう言うわけで誰が指導すべきか迷っていたところに、彼女がいらっしゃったのだ、ムネモシュネ王が。


 ムネモシュネ王は潔癖症で知られるくらいだ、きっと作法も良いのだろう。そう思った僕が、試しにムネモシュネ王に尋ねたところ、今に至る。ちなみに、クロノ王子も僕達に会いたがっていたらしく、おまけ感覚でついてきているのだがね。


 何かあった後では大変だと戻ってみると、意外にも真面目に姫は作法に取り組んでいた。ただし、気を抜くとすぐに食器とフォークがぶつかってしまう。そこをすかさずムネモシュネ王は、「クゥオラ!!」と叱る。


「ガチャガチャしているぞ!」

「むぅ、今のは聞き流せるレベルじゃないのかぁ?」

「記者はな、粗を探すものなんだ。良いのか? 相手になめられても」

「既に城の者には味がしなくなる程なめられておるからのう」


 姫が言葉を返すと、ムネモシュネ王は腕を組みながら首を捻った。


「だからこそ、そのままじゃいかんのだぞ! 逆に、逆にだぞ? これで良い所を見せられれば、名誉挽回出来るってものだ。私は期待しているのだよ、イリス王」

「お、おう……」


 妙に熱心なムネモシュネ王に、イリス姫も思わず普段と違う口調で答える。イリス姫はなかなか王と呼ばれることが無いし、恐らく困惑しているのだろう。


「ホラ! 黙ってないで続けろ!!」

「ほ、ほい!!」


 ムネモシュネ王に叱られ、慌てて姫はナイフと皿を持ち上げた。が、当然此処を叱られる。


「クゥオラッ!! イリス王、持つのはナイフとフォークだろうが!!」

「す、すまない!」


 姫は慌てて皿を置いたものの、そのまま空いた手にカップを持ち、豪快に紅茶を飲み込む。


「休憩するな! なめとんのか自分?」

「失礼した! 慌てるといかんな、一旦落ち着こう」


 姫はナイフとカップを置くと深呼吸をした。気を落ち着けた姫は、リラックスした状態で持ち上げる。ナイフと皿を。ところで今、方言みたいなものが聞こえた気がしたのだが、勘違いだろうか。


「……馬鹿にしているのか?」


 ドスの効いた声で聞くムネモシュネ王。イリス姫は苦笑いしながら首を振り、「お助けを……」と、僕に救いの眼差しを向けた。僕とクロノ王子はその視線からゆっくりと外れる。外れた視線の先から、「外道者!!」と言う声が聞こえてきた気がした。


 とりあえず、料理を使った悪ふざけとかはしていない。二人とも子供じゃないし、ムネモシュネ王に至っては潔癖症なのでそんなことはしないだろうとは思っていたが、姫の方はもしもと言うことがある。皆様も、くれぐれも食べ物で遊ばないように。


 何はともあれ、その後も姫はムネモシュネ王のしごきを受けながら食事の際の汚点を直していった。そして……。


 スッと滑らかな動作で、食事を頂く姫。持ったナイフやフォークは他の食器と当たることなく、ちゃんと手に収まっている。オシャレな料理の如く、中身の少ない食事を頂くと、姫はナイフとフォークを静かに置いた。


「良し、これで良いだろう」

「やったー!!」


 姫がこうなるまで、おおよそ一時間。でも、呑み込みが早い方じゃないだろうか?


 姫が両手を上げて喜んでいると、ムネモシュネ王は徐に扉の前まで歩いていく。


「では、雑誌が出るまで楽しみにしているよ。それじゃあな」

「もう帰るのか?」

「あんまり遅いと、大臣に心配されるのだ。また今度会おう!」


 ムネモシュネ王はニヤリと笑い、そこそこ良い年だと言うのに全力疾走をして去っていく。……あの感じ、恐らく大臣に黙って出てきたな。


「つくづく面白い人だな」


 姫は言った。姫が言うくらいなのだ、ムネモシュネ王は相当面白い人なのだろう。僕とクロノ王子は頷いた。


 … … …


 ムネモシュネ王が去った翌日、もうすぐで姫の取材が来ることとなった。そこで、昨日イリス城に泊まっていたクロノ王子が何気なく姫に話しかける。


「そう言えばイリス姫、食レポとかしたことあるんですか?」

「そもそも、食レポって何なのだ?」


 姫が聞くと、その場の空気は簡単に凍り付いた。姫は依然首を傾げる。どうやら本気で言っているらしい。


「姫、食レポと言うのは食事をレポート、つまり食べたものの良さを説明することなのです。例えば」


 僕は目の前にあったからのお椀を自分の顔の辺りまで持ち上げる。


「極端に言えば、このように料理を持ち上げてみたり」


 次に、僕は人差し指と中指をくっつけ、箸に見立てて皿の中から指をあげてみせる。


「こうして料理が見やすく、美味しく見えるように見せてみたり」


 そして最後にその指を口に持っていき、ズルズルズルと音を立てて啜る動作をしてみる。


「綺麗に食し、そして簡潔に旨さを述べるのです」

「君、普通に上手いね」

「私よりモモロンがやった方が良いんじゃ無いのかぁ?」


 姫とクロノ王子がじっと僕を見る。いかんいかん! 全国紙に乗るのだけは絶対に嫌だぞ。


「いえ! コイオス王が求めるのは貴方です姫。僕はちょっと見てくれが上手いだけで、実際は下手なのです」

「あがり症ってやつか? そちはそう言ったタイプには思えないが……」

「とにかく、姫が見せるべきなのです。最高の食レポを」


 僕は姫の手を取り、グッと距離を詰め、その綺麗な瞳をジッと見つめる。姫は目をぱちくりとさせながら僕の目を見ると、「う、うむ」と首を捻る形で首を上下させる。


「そう言うわけで頑張って下さいね、姫」

「全く、嫌なことになると必死なんだから」


 クロノ王子が呆れて言う。痛い所を疲れた僕は、クロノ王子を冷めた目で見つめる。クロノ王子はムスッと頬を膨らました。


 … … …


 何とか姫を説得したことで、城下町の食レポは姫が進行することとなった。僕とクロノ王子は、それを少し遠めの位置から確認している。どうやら、関係者以外は近寄っちゃいけないとのこと。


「まずはあちらの店から行きましょう」


 雑誌の良い所は、こうして話ながら進行出来ることだな。右も左も分からない姫にはうってつけだったかもしれない。


 姫は指定されて店に行ったが、店のメニューを見ると首を振った。


「今、これを食べたい気分じゃないな。他じゃダメなのか?」


 姫の発言に、スタッフがどよめきだした。見ていられない……。僕とクロノ王子は額に手を当てて顔を姫から逸らした。


「なぁなぁ、私はあっちの方が食いたい気分なのだが」

「あ、いや、そっちの店は撮影許可が下りなくて……」

「えー? そんなはず無かろう。私の国の人間がそんなヒドいことをするはずが無い! 何なら、私が直接言ってこよう!!」

「良いんですか?」


 こういう事が出来るのは姫の特権だよな。先程失われかけた信用が取り戻せたようだ。姫が店の中へと歩いていくのを見つめていると、やがて姫が悲しげな顔つきをしながら戻ってくる。あの顔は知っているぞ、きっと悲しげな顔をして困らせておいて、実は撮影許可下りました~と言って戻ってくる顔に違いない。そう決めつけて見つめていたら、姫は、「すまぬ」と頭を下げた。


「全然駄目じゃった……」


 見せかけじゃないのか!? だとすれば、姫の威厳は……スタッフの方を見ると、スタッフは苦笑いをしながら、「大丈夫ですよ」と気遣ってくれている。良かった、良い人達だ。


「カメラとか、そもそも取材がダメな人って多いんですよ。こだわりがあるんですよね」

「いや、私がいるから駄目だと言われたのだ……」


 スタッフ達も返す言葉が無くなる。と言うか、姫を大丈夫か? と言わんばかりの疑いの目で見ている。姫、そこは素直に言わなくて良い所ですよ!


「こりゃ受けない方がマシだったかもね」

「ムネモシュネ王の言う通り、このままでは逆に記者に粗探しをされてしまう。クロノ王子、何とかなりませんかね?」

「僕にどうにかって……まぁ、手が無いことはないんだけどね」


 そう言って、怪しい笑みを見せるクロノ王子。底意地の悪い彼の発想だ、きっとロクな方法じゃ無いだろうな。

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