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モモロン  作者: 素元安積
番外・侵略
43/66

 梓喜(アズキ)のいた里と別れを告げ、イリス姫一行が帰路を歩んでいた丁度その時、世界を揺るがす最悪の事態が起ころうとしていた。


 片手は大きなフォーク、もう片方の手はナイフ。首元には白い布を当てた、銀色の堅いボディ。その存在は自称最強にして最凶。そう。今日この日こそ、彼等の手によってこの世界のXデーともなりかねないのであった。


「はい、魔王様。此方は何の変哲もない穏やかな里であります。今より、この里から世界を侵略しようと思います」


 上司の言葉を聞き届けると、その怪物は腰元のボタンを、太く長い尻尾を上手く動かし通信を切った。そして額と眉の下に二つある三つ目を開くと、怪物は口元を歪めて気味の悪い笑い声をあげた。


 今日は彼にとって、待ちに待っていた昇格のチャンス。今回この世界を侵略できれば、一気に二つ階級があげられるのだ。何せ、世界を征服するのだから。


 それを思うと、怪物は笑いを堪えきれなかった。故に、(ギン)と呼ばれる、銀色の髪をした丸っこい目をした少年からドン引きの目で見られていることも気づかない。吟は、その異質な化け物の姿を焼き付けるように様々な角度で見ると、急いでその場から走り去った。


 そこでやっと我に返った怪物は、走り去る吟の姿を満足げに見つめた。


「ふふ、奴もまた、俺に恐れをなして逃げたらしい」


 怪物は脇腹より若干後ろにあるボタンを尻尾で押した。これにより、ナイフとフォークだった腕はギュルギュルと蠢き形を変え、片手はマシンガン、片手はレーザー砲と変わった。食事用から武器へと変える辺り、戦闘態勢を取ったとみて良いだろう。


 此処から、怪物はマシンガンに体内の一部から弾を抽出し、レーザー砲に魔力を溜める作業に映る。これを行わないことには、彼の本領を発揮することはままならない。少々時間がかかるが、これも世界を征服する為。怪物はその場から動くことなく力を溜め始めた。


 そんな彼の下に、四つの影が忍び寄る。


「あれだよ、明らかに変だろ?」


 吟は、隣にいる竜太(リュウタ)に尋ねた。聞かれた竜太は、「そうかなぁ」と首を傾げていたが、吟より少し背の高い里の長老がコクコクと首を振る。


「あれは怪しい!」


 見た見た目で判断してはいけないと言っていたはずの長老が、あれは怪しいと激しく同調する。それもそのはずだ、姿恰好は元より、その体に淡い光をまとって両腕の武器に力を溜めているのだから。それにしても、一見だけで判断するのは発言と矛盾している気がしている。吟は目を細めて長老を見た。


「ちなみに、長老はどうしてそう思うんだ?」

「わしは見たことがあるんじゃ! 文献で、あのような怪物の本を」

「そうなんだ! そりゃあ怪しいよな」

「まぁ、戯画じゃけどな」

「戯画かよ!? それでよく疑うなじーさん!!」


 吟が思わずじーさんと言うと、その言葉にカチンと来たのか、吟よりも大きな声で長老が声を上げて怒った。竜太は、二人と怪物の様子を交互に見る。大丈夫かなぁ、だんだんと光が小さくなっているんだけれど。と、思いながら。


 竜太の予想は的中してしまった。淡い光が腕に収束すると、怪物は殺気立った様子で三人に近づいてくる。


「くるよ」


 竜太の言葉で言い争っていた吟と長老が怪物の方を見る。先程と明らかに様子の違う怪物の姿に震え上がった二人は、急いで竜太の後ろに隠れる。


「雑魚め!」


 怪物はマシンガンとレーザー砲を此方に向けて撃ちつける。もう駄目だ。吟と長老は目を閉じたが、しばらくしても痛みはない。二人がゆっくりと目を開く。


 すると驚くことに、竜太の隣にいたヒュドラが炎を吐いて対抗していたのだ。お互い譲らず力を出し合っていたものの、ヒュドラの首の多さが良かったらしい。徐々に炎が力を圧していくと、やがてその炎が怪物を包み込んだ。


「ギィエエエエッ!!」


 怪物は叫び声を上げてのたうち回る。その姿が可哀想に思えてきた竜太は、ヒュドラに、「やめ」と言って制止させる。竜太に言われてヒュドラが炎を吐くのを止めたものの、そのころには怪物の銀色ボディも真っ黒になっていた。


「……今回は、このくらいにしてやろう」


 炎から解放された怪物は、そう言い残すと急いで空へと飛んで消えていった。


「なんだアイツ」


 竜太の前に立ち、吟は空を見上げて言った。竜太も首を傾げながら、怪物のいなくなった空を見つめた。


「でも、あやつは放っておいても良さそうじゃな」


 長老が結果をまとめるかのように言うと、吟と竜太は声を揃えて、「うん」と答えた。


 … … …


 場所を変え、イリス国近辺の森の中で一息つく怪物。此処までくる道中、「死ぬかと思った」を連呼していたが、次に狙うのは、怪物が出ると言った情報の無い小さな国。人間のみならば、きっと勝てる。そして、此処から多くの人間を従え、あの怪物と戦えば……。自分のことを棚に置き、怪物はヒュドラを怪物扱いして、計画を目論んでいた。


 ピカピカの銀色ボディも今や炭の如く真っ黒になってしまったが、その体に淡い光をまとうと、再度両腕に力を溜める。


「待て、待つんだ愛しのチョコマよ!!」


 力を溜めている最中、中年男性の叫び声が聞こえてきた。何事かと思って顔を上げたその瞬間、目の前まで突っ走ってくるダチョウのような大きな鳥がいた。


「ちょ、やめ――」


 発した時にはもう遅く、チョコマは怪物と正面衝突した。力を溜めていて無防備だった怪物は、宙に吹っ飛び、イリス国場内へと消えていった。


「つーっかまえた! こら、もう逃げ出しちゃダメだぞ?」


 中年男性ことコイオス王は、チョコマに頭を突かれながらも嬉しそうに微笑んだ。


 … … …


 チョコマとぶつかり、イリス国場内へと落ちてしまった怪物。地面に激突した痛みがあまりに酷くもがいていると、そこへ紫色の髪の女性と少女が駆け寄ってくる。マリアと呼ばれる女性と、その娘のマツリだ。


「あら、この方怪我してる。大丈夫ですか?」

「大丈夫?」


 優しく声をかけてくれた二人だが、これを怪物は利用出来ると思ってしまった。武器である両手をそれぞれの胸に突き付けた。


 だが、それが間違いだった。


「まぁ!」


 武器の腕はマリアの柔らかな胸に思い切り当たった。恩を仇で返されたマリアは、カッと顔を赤くして怪物を睨み付ける。


 違うと咄嗟に手を放して首を振った怪物だが、今更どうこう言ってもマリアには伝わらない。マリアは怪物の腕を掴むと、そのままグルグルと回転し、その手を放して怪物を空へ放り投げた。


「宇宙まで飛んできやがれー!!」


 マリアは空に叫ぶと、怪物はきらりと光ってその姿を空に消した。


「さぁ、お父さんの帰りを待ちましょう」

「う、うん……」


 マツリは若干心残りだったものの、過ぎてしまったことはしょうがないと、怪物の無事を信じて家へと帰っていった。


 … … …


 マリアの望み通り、怪物は星々のある宇宙の中で一人浮いていた。そこで今までのことを思い出し、侵略しようとしていた世界を見つめる。


 やがて腰元のボタンを押し、魔王との通信を始めると、怪物は一言発した。


「魔王様、やっぱり俺、世界征服止めときます」


 これによって、世界は一匹のドラゴンと、もう一匹のチョコマ、そして一人の女性によって救われ、その代わり一人の怪物の昇進はまた遠のくのであった。

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