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モモロン  作者: 素元安積
十八・ゴミ
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 姫が帰ってから数日経ったが、さほど変わりないイリス国。きっと姫もそれは予想済みだったのだろう。いつも通りに人が働くこの国に、一つの話題を作り出そうと目論んでいた。


「姫、公務のお時間ですよ」


 何故か、こんなことを伝えに行く役目まで僕が担うようになっていた今日この頃。一応兵として演習や剣技の稽古にも参加している身なのだが。僕はそろそろ給料を多めに貰っても良い頃だと思う。


 返事がないので姫の様子をチラッと覗くと、姫は俯せに寝そべって大きな白い紙にらくがきをしていた。


「姫、らくがきなどしている場合じゃありませんよ。今度面会するレア様との計画書に目を通して頂かねば……」


などと言いながらも、何が描いてあるのか紙を見つめる。そこに描かれていたのは、図面だ。それも、恐らくイリス国の。


 描き上げると、「よしっ!」と姫が立ち上がって僕に図面を見せつける。


「また何かする気ですか?」

「ああ! する気だよ!! 何をする気に見える?」


何でも良いよ。どうせ、また僕の苦手なタイプの派手なイベントなのだろうし。


「何ですか?」

「答えないとはつまらん男じゃのう。その名も、”広い大地を拾いつくそう! ゲーム”じゃ!」


また何とも変わったタイトルを。広い大地を拾いつくそう? それはイリス国を指しているのだろうか。だとすれば、皮肉にも取れる程この国は狭いと思うが。僕が渋い顔をしていると、姫は怪訝そうな顔をした。


「なんじゃ、その如何にもめんどくさそうな顔は。そち達を労う行事とも言えるのだぞ?」

「僕達を?」


姫は頷く。


 姫曰く、このゲームは姫が指定したゴミを拾った数でポイントを稼ぎ、そのポイントが多い上位入賞者には商品を渡す企画なのだそう。


 この企画内容だと、指定したゴミしか持ってこないのでは? と言う疑問を僕は言ったが、そこはちゃんと考えているらしい。その他のゴミは、五個拾うごとに一ポイントとなる為、何でも拾ったもの勝ちのルールにしているそう。これなら、商品が欲しいものや、上位に入りたいものが沢山拾ってくれそうだな。


 それが何故僕達の労いになるのかと言うと、国周辺のゴミ拾いも僕達兵士の仕事になっているからだ。週一で行われるこの仕事は、幾ら狭い国と言ってもそれなりに範囲が広いので一苦労する。それに、何と言っても日々の鍛錬をした後のこれなのだから。新米兵士には苦行とも言えるだろう。


 その大変な仕事を、一般市民がやってくれる。それは大変有り難い。有り難い、が……。


「姫、広いと言っておりましたが、範囲はどうなさるおつもりで?」

「そりゃあイリス国内限定じゃな。だが、指定しても多分森の中に入る奴がおるじゃろう」

「そこで、僕達が見張り役になると」


深いため息をつく。やはりそう来るよな。ゴミ広いが無くなることは良いことだが、市民を巻き込む大きな行事をやって、尚且つその見張り役。どっちもどっちな選択と言える。


「姫、ちょっと規模が大きすぎるのでは……」

「モモロン、これは兵士達の為だけのお遊びじゃない」


 姫はそう言って窓の方へと歩き出す。遮光カーテンを端に寄せ、姫は町中を見つめる。


「あれを見ろ」


姫が指さしたのは、金属製のごみを入れるカゴだ。その中には沢山のゴミが入っているが、その真隣に、あともう少しの位置で紙クズが落ちている。信じられないな、あんな位置にゴミが転がっているなんて。そのゴミを、兵士の一人が広い、大きな袋に一纏めに入れていた。


「ああいったことをやる奴にこそ、ゴミを捨てることの楽しさ、大切さを知ってもらわねば。そう思うのだ」

「ああいったことをする者に、この方法で届きますかね?」

「難しいかもしれんな。しかし、ごく僅かでも、この方法で気持ちを切り替えてくれる者がいるかもしれぬ。まずは、その者達からだよ」


 姫はそう言うと、真っ白な机の上にあった自身の健康診査の紙を持ち上げる。それをぐしゃぐしゃに丸めると、前を向いたまま、丸めた紙をゴミ箱へ向けて放り投げた。じっとそれを見つめれば、ゴミは見事ゴミ箱の中へ命中する。


「良いんですか? 大事な紙だと思いますけど」

「良いよ、今回もどうせ異常なしだ」


 姫は満面の笑みを向けると、僕を置いて公務をしに部屋から出て行った。


 一応心配なので、ゴミ箱から丸めた紙を拾い上げ、結果を覗き込む。それはものの見事に”異常なし”だった。……脳内は、異常だらけな気がするのだが。


 … … …


 僕に話していた提案を、城の者達にも伝えられた。姫は笑いを……と言っても主に姫一人が笑っているだけだが、とにかく笑いを交えながらこの企画を熱を込めて話した。普段は渋い顔をする人々も、今回の提案には悪く無い様子だ。特に兵士達は男女共に喜んでいたな。この先、それに近い、もしくはそれ以上に大変な見張り役と言う役目があることを考えもしていないのだから。まぁ、それがあっても人が良いことをすることに喜ぶ人達だ。好感触と見て良いだろう。


 結果、異状なしとのことで満場一致で快い返事を頂けた。明日のうちから掲示板などで城下町の人々に知らせることになり、実行日は二週間後にすることに。全く、此処の国はすると決めたらせっかちでいけない。


 そう言うわけで、城はまず掲示板への記事の作成、進行の順番など、話し合いが進められた。姫は真剣に話し合う城の者達に何度か茶々を入れたが、どれも完璧にスルーされていた。発案者を無視するって相当だと思うぞ。


「モモロン、誰も私の話を聞いてくれんのだ。アイツ等の耳くそを吸い取る道具は無いかの?」


 姫、僕は万能ポケットを持つロボットでは、ましてやからくりを作れる奇天烈少年ではありませんよ。


「アレか、私が粗大ゴミなんだと言いたいのじゃろう~!?」

「いえまさか。人間は、リサイクルの出来ない存在です。リサイクル出来るゴミも、出来ない人間も、大切にしないといけませんね」

「ほぉう。何時になく真面目だな」

「姫が卑屈なことを言うからですよ」


僕が呆れながら姫を見て言うと、姫は、「失敬失敬!」と、明るく笑い飛ばした。

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