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モモロン  作者: 素元安積
十三・自信
30/66

「む、むむむムネモシュネこ、国、の……ひぃぃいっ!! ま、またぶん殴られる……!!!」


 ポイぺ王は、頭を抱えて左右に振る。本来、そんな理不尽な人じゃないと言ってやりたい気もするが、鼻をほじったくらいで従者を殴るのは相当理不尽な気がして、素直にそうも言えない。


「あー。奴は頭おかしいからなぁ。物資を届けられなかったポイぺ王をフルボッコかぁ~。なかなかクレイジーじゃのう」

「そ、そんなぁーっ!!」


 とうとう涙を流し始めたポイぺ王。姫、デタラメが過ぎますぞ。今頃ムネモシュネ王がくしゃみをしているのが浮かぶ。


「あ、あの、イリス姫……いえ、イリス王は、ムネモシュネ王様と親交が深いのでしょう?」

「そうだなぁ。彼女とは深いふかーい付き合いだぞ!」

「姫、勘違いされる言い方はよして下さい」


 これはつっこまないと真に受けられると大変なのでつっこんでおく。姫はゲラゲラと笑っているが、大臣や兵士は一瞬真に受けたのか、顔が強張っていた。大臣が此方を見る。やはり、真に受けていたらしい。僕は慌てて手を振ると、大臣や兵士達も笑顔になる。


「もう終わりだ~っ!!!」


 ポイぺ王の声を聞き、皆がハッと現実に戻される。そうだ、ムネモシュネ国へ送る物資が賊に取られたんだったな。ムネモシュネ王の性格なら、多分ちゃんと謝れば許してくれそうなものだがな。


「そうだよなぁ、たかが鼻ほじってたくらいで殴るんだもんなぁ。やっぱり奴は相当頭おかしいよなぁ」


姫の言葉に、ポイぺ王が震えあがった。コラ、煽るな煽るな。そもそも、アンタが一番頭おかしいからな。


「な、何とかしてくれませんか!」

「王落ち着いてください。一旦どうすれば良いかを考えてみましょうよ」

「いいや、私如きには何も」

「王、こういう時こそ貴方様の判断を皆必要とするのでは?」


 俯いて目を合わさないポイぺ王の肩を掴み、強引に顔を上げさせる。ポイぺ王が顔を上げると、その目にはきっと映ったはずだ。彼に向ける、大臣や兵士達の希望の眼差しが。


 ポイぺ王の目を見ると、その目はうるうると激しく揺れ動き、ギュッと目をつぶって顔を左右に振った。


「私には無理なんだよ……!」

「答えはそれで良いのか? ポイぺ王」


足を開いて座る姫が、ポイぺ王へと前のめりになって顔を近づける。ポイぺ王が顎を引いて少しでも距離を取ろうとすると、姫は目を細めた。


「その答えの場合、今あるこの目も失うことになるだろう。それでも構わんのだな?」


そうだ。目の前にある事実、そして感情をまでをも否定する。それはつまり、期待してくれているそれらを否定することにもなるのだ。否定された者達は、傷つけられた者達は一体どうなるのだろう? その者からきっと離れていくだろう。そして、たった一人残されて、その時に消えていった人々の存在の大きさに気付くのだ。


「じゃあ、じゃあどうすれば良いんだよ!! 本当は王なんてしたくなかったんだ。それなのに、それなのに……」

「それでも、そなたは選んでしまったのだ。王と言う道を。王ならば、見返りなど求めず、ただ己の国の為に奮闘する。それしか無いんだよなぁ」

「そんなこと……私には出来ません。貴方とは違うのです」

「違わんよ」


 きっぱりと否定する姫に、ポイぺ王が涙まみれの顔を上げた。


「同じ人間だ。人間、本来死ぬか生きるかの二択しか無いだろう? もしそなたが死ねないのなら、生きるだろう? なら、笑って生きる為に、最悪ライオンと社交ダンスだって出来るはずなのだ!! 私はしないがね」

「姫、おふざけは要らないです」


 姫は空気を読まずに、手を叩いて大爆笑。仕方ないので、僕が話を続ける。


「ポイぺ王、とりあえず動いてみましょう。今回、ポイぺ王は何もなされていません。賊が勝手に取っただけ。ポイぺ王は誰にも迷惑をかけていません。それどころか、この機会を貴方が良き方向に持っていったとしましょう。なれば、きっと貴方のことを信用してくれる人が見つかるはずですよ。そして、貴方自身もね」

「僕自身……?」


僕は柔らかな笑みで頷く。自分を信じてもらうには、まず自分から。これは当然のことだ。自分を信じてあげないと、自分自身は一生報われないだろう。本来、僕が言える身では無いのだがね。


「……これ、まだ続くか?」

「姫は黙って」

「続きそうだよなぁ」

「続きます。だから黙って」

「なぁ、私が命令しても良いか?」

「はい?」


 兵士達が姫の方を見る。いやいや、此処は時間かけてでも王を立ち直らせないと! 姫が口を開くのが分かり、咄嗟に口元に手をやろうとしたが、時すでに遅し。


「兵よ、ポイぺ王を現場に連れていくのだ!!」


 姫の命令が、はっきりと兵達に届いた。しかし、予想していた命令と違ったのか、ポイぺ王や兵達が、「え?」と戸惑っていた。


「現場の状況も分からんで命令なんてちと難しすぎるじゃろう? もう少しポイぺ王に気を遣わんか」

「い、いや、そんなこと言われても」

「ほら、王を気遣わせるのでない。さっさと連れていくのだ!」

「連れて行きなさい」


 大臣の後押しもあり、兵士達は、「はっ!」と敬礼をすると、ポイぺ王を持ち上げて急いで現場へと連れて行った。


「それじゃ、私達も行くとするか」

「はいはい」

「イリス様」


ポイぺ王を追いかけようとした姫に、大臣が声をかける。姫と僕が振り返ると、大臣は深々と頭を下げた。


「ポイぺ王を、どうか宜しくお願い足します」


大臣の言葉に姫は少々目を丸くして驚いたものの、やがてニヤリと笑い、大臣へと背を向ける。


「健闘してみるよ」


僕の背を叩くと、姫は歩き出す。かっこつけちゃったりして。代わりに大臣へと頭を下げると、僕は姫を追いかけた。

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