かわった世界
朝、いつものように目が覚めると私の日常がはじまった。
ベッドから起き上がり、そしてまたベッドに倒れこむ。
「おやすみなさい」
10分ばかりの時間だったとしても二度寝最高。
「でもそろそろ起きないと間に合わない」
電車のドア越しの恋人のように布団を見つめながら部屋を出る。
いつもと変わらない廊下を歩き洗面所へ、そしていつもと同じ顔を洗う。
リビングへ行き、水を入れたヤカンを火にかけ、沸くまでの間にコーヒーの準備。
そしてテレビもスイッチオン。
「あれ?映らない」
スイッチオフスイッチオン、スイッチオフスイッチオン、スイッチオフスイッチオン。
と見せかけてテレビのコンセントを抜く!入れる!スイッチオン!
それでも真っ黒でなにも映らない。
「最悪だ・・壊れた・・」
ヤカンから湯気が噴き出しているが今の私の気分は真逆だ。
「おぉぉあぁぁぁぁぁ」
思わず口から絶望の声が出てしまった。
ご飯も食べる気がおきない、着替えて早々に出かけるとしよう。
玄関の扉を開けいざ外へ。
嫌な事を忘れるように駅までひたすら速い足取りで歩く、歩く、歩く。
疲れたから少し休憩。
そしてまた歩く、歩く。
「あれ?」
誰も道を歩いていないなんて珍しい。
まあこんな日もあるかと思いまたひたすら歩く。
おかしい、どう考えてもおかしい。
この時間の駅のホームにまで誰も人がいないなんて。
「おかしい」
まさか電車が止まっているのにホームに来てしまったのか。
いやそれにしては駅員もいなかったが。
そうだこういう時こそスマートフォンの出番だ、なにか情報がないか見るとしよう。
「映らない」
これはまさかテレビに続きスマホまで壊れたのか・・・
いやそうは思いたくない。
電源ボタンを押す、何度も何度も押す。
だが無情にも画面は真っ黒のままなにも映らない。
ああもうお手上げだ、とりあえずベンチに座ろう。
「ふー」
今日は朝から最悪続きだ、これが俗にいう厄日というやつなのだろうか。
もしやあのまま家で寝ていたほうが正解だったか・・・。
そう思っていると向こうから電車がやってきた。
「えっ」
驚きの光景が目の前を横切っていく、一両目も二両目も見たところ誰も乗っていなかった。
そして私の前に停まった三両目も外から見て誰も乗っていない。
「回送か」
だが扉は開いた、周囲を見渡すが駅員も乗客もいない。
なぜ開いたのだろうかと不思議に思っていると、扉が閉まりゆっくりと電車が走り出した。
「やはり回送か」
まったく、この時間に回送なんて紛らわしい。
次がくるまでこのままベンチでだらけていよう。
ドアの開く音が聞こえた私は慌てて目の前に停まった車両に乗り込み、シートに座った。
ようやく一息つけたと思いふとあたりを見回すと、誰も乗っていなかった。
「まさか」
どうして誰も乗ってないんだ、また回送がきたのか、ならどうしてドアが開いたんだ。
いや、そういえばさっきの電車も開いていたじゃないか。
頭の中がパニックになり、心臓の鼓動が早くなる。
あたふたとしているうちにドアが閉まり電車が発車した。
わからない、わけが分からない。
やはり両隣の車両を見ても誰もいない。
いったいこれはどうなっているんだ。
そう思い電車内を歩き回っているうちに次の駅に着いた。
だがやはり誰も降りないし乗ってこない、そして扉が閉まり発車する。
これはいよいよ何かがおかしい。
そう思った私は今まで見ないようにしていた先頭車両に移動することにした。
やはりそこには運転手すらいなかった。
「ここの電車も自動運転が実装されるなんて」
さすが儲かっている企業は違うなと思おうとしたが、無理がある。
ありえない!大体昨日は普通に運転手も客も乗っていたはずだ!
絶対に次の駅で降りる、そう決意しドアの前で今か今かと着くのを待った。
ほどなくして駅に着いた電車から、今まで生きてきた中で最高速度と言えるほどの走りで駅の出口へと向かった。
やはり駅前を見渡しても誰一人としておらず、ならば店の中はどうかと思い近くのコンビニへ足早に向かった。
自動ドアを通り、中に入ってみるが客はおろか店員すらいなかった。
「いらっしゃいませー」
代わりに言ってみたがやはり何の反応もない。
だが諦めずに今着いたコンビニを出てまた違うコンビニへ。
「ここも誰もいない」
さらに別のコンビニへ、ファストフード店へ、スーパーへ。
いない、いない、いない、誰もいない。
そうだ国道なら車が走っているんじゃないか、そう思い大きな道路に向かって走り出す。
車がない。
「この時間なら走っているはずなのに・・・」
まるで歩行者天国のように一台も見つけることができない。
だが、信号は動いているようで今まさに車道の信号が青にかわったところだった。
しかし遠くまで見渡しても走ってくる車はない。
消えたのは人だけじゃなかったのか。
考えることに疲れ、ふと頭上を見上げると鳥すらいないことに気づいた。
それからも商店街、学校、病院と近場で色々なところを見て回ったが、人はおろか車さえも存在していなかった。
それでもどこかに誰かがいるはずだと思い歩き回っていると、突然お腹の音がなった。
「あ、そういえば」
ご飯を食べずに外出したことを思い出し、目に入ったコンビニへ寄る事にした
コンビニに入り食べ物と飲み物を選びカウンターに置いてふと気づく。
「店員がいないのだった」
このまま外に出るのはまずいので値札分のお金をカウンターに置いて、外に出ることにしよう。
「あ、袋ください」
そう言いつつ自分でカウンター裏から袋を取り出し商品を入れる。
お金を置き、自動ドアの前まで来たところで、唐突に重大な事に気がついた。
トイレの水は流れるのだろうか。
これは死活問題ではないだろうか。
考えても見てほしい、もしトイレの水が流れなかったら、一体どこでトイレをすればいいのだろうか。
家のトイレの水が流れないだけなら、スーパー、コンビニなどに借りに行けばすむが、
もしすべてのトイレの水が流れなくなったら、一体どこですればいいのだろうか。
なんという恐ろしいことに気づいてしまったのだろうか。
早速確認しなければ、そう思いすぐにコンビニのトイレに駆け込み、水を流すボタンを押してみる。
するとどうだろうか。
「よかった」
無事流れた、これで一安心。
いやまてよ、今のボタンは小の方だった、なら大の方はどうだろうか、そう思いもう一度ボタンを押してみる。
「おお、流れた」
これで一つの疑問が解けた。
気分がよくなった私は意気揚々と食料の入った袋を手に自動ドアに向かいコンビニを後にした。
近くの花壇に腰掛け、手に入れた食料を口にしながら、よくよく考えてみるともっとおかしなことに気づいた。
誰も人がいないのに、電気が通っている。
電車も信号もトイレのボタンもすべて電気がなければ動かない。
いやもっとよく考えてみればガスも使えていた。
「あっ」
ヤカンの火、消したかな・・・
これはまずい、人が誰もいないとかどうでもよくなるぐらいにまずい。
ああどうしよう今から確認しに家に戻った方がよいのだろうか。
家はここから二駅か、よし全力で走って帰ろう。
「よかった」
どうやらちゃんと火を消して家を出たみたいだ。
そして食後に全力で走った結果、脇腹がいたい。
「よし、痛みを忘れるためになにか別のことをしよう。」
なぜ電気が通っているのに、テレビが映らなかったのかを調べることにした。
わからない。
テレビとスマホとパソコンだけが映らない。
冷蔵庫や洗濯機などの他の家電は動くのに、なぜだかこの3つだけが動かない。
これはあれか何者かが情報を遮断しようとしているのだろうか。
だとしても人が誰もいない説明はつかないが。
とりあえず今は、これからどうするかを考えよう。
あれからしばらく考えてみたが、まず食料を確保するために近所のスーパーへと来てみた。
やはり誰もいないが持って帰る分の商品代はレジにおいていくので、あまり高いものは買わないでおこう。
このままずっと誰もいない場合を考えて、置いておいたら腐りそうな物から食べようと思い売り場に向かったが、どうやら商品を補充していなかったようで棚にはあまり残っていなかった。
「商品が少ない」
そうつぶやきつつも、残っていた商品をカゴに入れレジを通り店の出口へと向かった。
スーパーから家への帰り道にある、本屋が目に入ったので少し寄ってみることにした。
やはりここも誰もいないらしく物音ひとつしない。
「いや、ちょっとまった」
奇妙なことが起こっている。
本屋なのに棚に本が一冊もない。
だが人が誰もいなくなった衝撃が強すぎて、この程度では驚きもしない。
「閉店か」
店の前に出て確認してみるがどこにも閉店のお知らせは書いていなかった。
そもそも閉店していたら入口が開いているわけがない。
こうしてまたひとつ謎が増えてしまった。
「早く帰ろう」
そうだ、家に帰って御飯を食べて、お風呂に入って、寝て起きたら元の日常に戻っているのではないだろうか。
そう思い私はスーパーの袋を手に家路についた。
どれだけの時間がたっただろうか、相変わらず街には誰もいない。
そして遠くの場所まで確認しに行く気も起こらずに日々を過ごしている。
そういえばまた謎が増えた。
なんと、スーパーやコンビニへ行くと棚から取ったはずの商品が勝手に補充されていた。
商品を買って家に帰り、翌日にその商品が置いてあった場所に行くと、空になったはずのスペースに新しい商品が置いてあった。
さらになんと、何日か後には今までその店には置いていなかった商品まで棚に並んでいた。
商品が少ないと言ったことを聞かれていたのだろうか。
かなり気味が悪いが、食料がなくなるよりはましだと思い見て見ぬふりをすることにした。
そしてもう一つ謎がある。
最近になって家のテーブルの上にいつの間にか料理がおいてあるのだ。
最初は気味が悪く食べなかったが、何日か後に好奇心に負けて食べてしまった。
なんてことはない普通の料理だった。
一体誰が作っているのかと思い、一日中テーブルを見ていたが料理が突然現れるだけで何も謎は解けなかった。
出てくる料理はありがたくいただいている。
一体この世界はどうなったのだろうか。
しかし色々と謎はあるが、あまり詳しく調べたいとは思わない。
私だけになった そんな世界の物語