第8話 髪型で印象は180度変わる
「果鈴ちゃんの髪、いい匂いがする」
「え?」
前々から思っていたけど、果鈴ちゃんからは柑橘系のいい匂いがするのだ。ほんのり香る、残り香っていうか。まるで、本当の女の子みたいだ。
「何でですか。シャンプーのせいかな? でも、ここまで匂いが残らないよね?」
「そ、そんなに気になるのか」
基本的に何を言われても動じない、果鈴ちゃんが戸惑っている。顔がちょっと赤くなっていて、可愛い。うむ。
「香水でもつけてるんですか? 校則違反ですよ」
「仕方ないだろ。そのままだと、男子特有のにおいが発せられるかもしれないじゃないか」
「そうなんですか?」
私はあまり男の人と関わりを持つことがない。だから、男子のことをあまり知らない。そんなこと、知っている方がおかしいとは思うけど。
「そうなんだよ。恥ずかしいから、髪すかしの作業に戻ってくれ」
「ああ、ごめんね」
でも、やっぱり無関心に見えて、そういうところはしっかりしてるんだなぁ。軽い気持ちで女装してないっていうのは確かなのかも。そもそも、バレたら大変だもんね。色々と。
「じゃあ、とりあえずまっすぐにした。というか、するの」
「まずはこうすればいいんだな」
果鈴ちゃんは髪の毛が肩までかかっている。一般的にいうところのセミロングぐらいだろうか。でも、ただ伸ばしてるだけって感じ。
「うん。それで、今日は髪型どうするの?」
「ああ、そうか。髪型を決めないといけないのか」
単純な疑問だけど、男子って損してるのかも。女子だったら、髪型を毎日変えることが出来る。でも、男子はそのまま。面白くないね。まあ、面倒だから、そんなに変えることはないけど。
「と言っても、ピンとゴムしかないよ」
「じゃあ、無難にポニーテールで」
「ええ」
「何だよ。難しいのか?」
いや。髪の毛を後ろでまとめてゴムで止めるだけだし。何も難しくないし。でも……。
「果鈴ちゃんはポニテよりツインテの方がいいよ」
「は!?」
「その方が、可愛い」
「俺はこんな姿だが、男子だぞ。そんな奴がツインテール?」
「可愛ければいいのです」
ああ、待って。私の口が勝手に! これ以上話すと変態扱いされかねないので、自重しよう。
「そんなにしたいのか? ツインテールに」
「ええ。出来るのであれば」
すると、果鈴ちゃんがふぅとため息をついて、こう言った。
「仕方ないな。いいぞ」
私は心の中でガッツポーズを決めた。
私がセットしてあげると言っても、最終的には果鈴ちゃんが出来るようにならないといけない。だから、手順を一つ一つ丁寧に教えた。果鈴ちゃんは飲み込みが思っていたよりも早くて助かった。もしかして、一回やったことある?
「ありがとう。一人で出来るように頑張るよ」
「うん。頑張ってね。何かあったら、いつでも連絡してくれていいから」
「それは助かるな…って写真撮ろうとするな」
「えへへ。とっても似合ってるよ、果鈴ちゃんのツインテ」
果鈴ちゃんは嬉しそうだった。案外、こういうことが嫌いじゃないのかもしれない。機会があったら、またこういうことしたいなぁ。