第7話 地毛って素晴らしい
「呼び捨てで? うーん」
「うん。そう呼んでもらえる方が嬉しい」
どうしよ。果鈴会長はその方が嬉しいらしい。でも、私はやっぱり憧れの果鈴会長を目の前にして、呼び捨てだなんて。罰が当たりそうで怖い。
「仕方ないで…な。果鈴ちゃんで勘弁してください」
「おお? えっとな、聞こえなかったからもう一回」
「え」
聞こえなかった? 生徒会室には二人しかいなくて、特に声を妨害するような音とかは無いのに? でも、聞こえなかったって言うんだから、仕方ないか。
「果鈴ちゃん…でどう?」
そう言うと、果鈴ちゃん(仮)がニヤニヤしだした。あれ? 私、何かおかしなこと言ったのかな。
「夏菜子。お前、そんな可愛い顔もできるんだな」
「なっ!?」
卑怯です。卑怯ですよ、果鈴ちゃん(仮)! そんな手を使ってくるなんて。すごく恥ずかしいじゃないですか。うう。顔が熱いよぉ。
「それで、呼び方は果鈴ちゃんでいいの?」
敬語を外すことにようやく慣れてきた。慣れたくなかったけど。
「いいよ。ありがとう」
「いえ、感謝されるようなことしてませんよ」
何でありがとうなのだろう。感謝されるようなことしたかな? 私。
「じゃ、じゃあ始めましょう?」
「そうだな」
果鈴ちゃんはそう言うと、机の方へと体を向けた。そして、私はその後ろに立つ。当然ながら、果鈴ちゃんの方が身長が高いので、見下ろしているみたいで面白い。
こんなに果鈴ちゃんの近くにいるのって文化祭以来かもしれない。
「果鈴ちゃんってくしとか持ってる?」
「持ってると思うか?」
「いえ、全く」
「正解だ」
よく考えてみれば、果鈴ちゃんがくしを持っているというのは不自然である。休日は男子として生活している可能性があるからだ。ただ、身だしなみを整えるという意味でも、出来れば持っていてほしいなぁと思うんだけど。
「買う予定はないんですか?」
「今のところはな。夏菜子がどうしてもって言うなら、買わないといけないな」
何でそこで私の名前が出てくるんですか。
「じゃあ、今日はとりあえず私のくしを使いますね」
「俺、何もしてないからな。すかしにくいかもな」
そんなことを言う、果鈴ちゃんの髪はとてもきれいだった。もしかして、きちんとお手入れしてるのかな。えらいよ、果鈴ちゃん。
「と言うか、果鈴ちゃんの髪って地毛なんだね」
「うん。ウィッグだとバレた時に面倒だろ?」
「それもそうですね」
髪を引っ張られて、取れた! 何てことも予想できるもんね。そう考えると、地毛の方が楽かも。
「それに、ウィッグは手入れが大変だしな」
「そうなんですか」
私は使ったことないから、分からないんだよね。って、やけに詳しいなぁ。もしかして、果鈴ちゃんは使ったことあるのかな?