第4話 趣味は人それぞれ
「果鈴会長って、何でそんな格好をしてるんですか?」
こんなこと、誰だって気になると思う。いや、絶対気になるでしょ。
わざわざ女子として高校に通わなくても、男女共学のところに入学すれば、男子として通えるわけだし。無理はしなくてもいいと思うのだけど。
いや、もしかしてそういう趣味があるのかな。
「女装の事か?」
「はい」
うーんと果鈴会長がうなりだした。そんな、回答に困るような質問をしたつもりはないんだけど。もしかして、人には言えないようなことでも隠しているのかな。ああ、そういう趣味なのね。
「初めに言っておくが、これは俺の趣味ではない」
「あ、はい」
人の考えを読むような能力を持っているのかな? 見透かされているみたいで怖かったよ。
「どこから説明すればいいんだろう」
「長くなる話なんですか?」
別に放課後だし、時間も気にしてないから大丈夫なのだけど。用事なんてないからね。
「短く出来そうだから、これも言ってしまうか」
言ってしまう? どういう日本語ですか、それは。秘密を暴露する前の会長はどこへ行ったんですか! 投げやりな感じで嫌になってきましたよ! いや、聞きたくないわけじゃないけどね。
「実はね、これは私の母の趣味なの」
「果鈴会長のお母さんの?」
待って、待ってね。果鈴会長じゃなくて、会長のお母さんの趣味だって言う事だよね。実の息子に女装をさせる母親なんだね。しかも、それに素直に従うんだね。いい子なんだか、どうなんだか。
「うん。どうしてもって言うからさ」
「それで、従ったと」
私がそう言うと、果鈴会長はふっと笑った。遠くのものを見るような目だった。手では届かないところを見ているみたいだった。
「あまり、言いたくはないんだけれど、母が体調が良くなくって。先生には『覚悟しておいてくださいね』って言われてるの。だから、少しでも喜んでもらえるようなことをしたくて」
「そうだったんですか」
なんか、聞いてよかったのかな。こんなこと、人には話したくないだろうし。無理させちゃったかな。
「同情はいらないからな。私が好きでやってるだけだし」
「女装を?」
「違うわ! 母の喜ぶようなことをだよ」
どっちも一緒じゃん!って思ったけど、果鈴会長の中では意味が違うのかな。でも、息子に女装をさせたいって思うようなお母さんってどんな人なんだろう。ちょっと気になるかも。