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第1話 果鈴会長の秘密

 今日はなんだか体調が悪いなぁ。せっかく学校が始まったばっかりなのに。ちょっと頭も痛い気がするし。次も授業なんだけど、さすがに今日は勘弁です。

 というのはあくまで口実である。ここまで健康体である私が風邪なんて引くはずがない。もし『何があなたの特技ですか?』と聞かれたとしよう。私は迷わず『健康なことです』と答えるだろう。要するに何も考えずに生きているのであろう。もはやそうでもしないと生きていけないよ。うむ。

「失礼します。すみません、少し具合が悪いんですけど」

「どうしたの。風邪かな?」

 今日もいつも通り、保健室担当の坂下先生がいた。通常、こういう人はあまり綺麗ではないものだ。現実にはアニメや漫画のような展開はない。

「なに、急に。私のことじっと見てきて」

「…ああ、いえ。何もないです」

 いけないいけない。無心になって先生を凝視してしまっていた。私の悪い癖である。

「じゃあこれで測って」

 保健室に常備してある体温計を先生が私にくれた。昔、家にあった体温計は測るのに三分近くかかった。でも、最近の体温計は測るのに1分もかからない。便利な世の中だよ。

「熱はないみたいね。少しベットで寝ておきなさい。治るかもしれないから。何か欲しいものはある?」

「いえ、特にはないです」

 私がそういうと、先生はニコッと笑った。その笑顔の向こうには何が隠されているの。もしかして仮病使ったのがばれたのかな。そんなはずはない。私の隠し能力は最強のはず。

 しばらくすると、坂下先生は『じゃあ果鈴ちゃん頼むね』と言って去っていった。先生はどうやら他の用事があるみたい。いや、待てよ。その…果鈴って名前、どこかで聞いたことあるなぁ。ついさっき聞いたような…。

「果鈴…って会長じゃないですか!? 何故ここに?」

 聞いたことがあるはずだ。その名前は現在の桜が丘女子高校の生徒会長だった。生徒会長なのに存在感が薄いということでも有名。ここまで酷かったのね。同じ生徒会役員なのに気が付かなかったことが少し悔しい。生徒会役員として失格かもしれない。そこまで考えてしまうほどに私は会長のことを尊敬している。

 尊敬しているといっても、あくまでも中身の話である。容姿の話ではない。簡単に言うと、小っちゃくて可愛いのである。言うことはいつも大胆なのであるが、姿が小さい。そのせいか、一部の女子が作成している、『付き合いたい女子ランキング』では、いつも一位に君臨している。ちなみに、今は二連覇している。

 ちなみに、このランキングは新聞部主催の公式な学校行事の一環になっている。校長先生が面白い人だから、いろいろ試してみようということになったものの一つなのだ。二学期にもあるらしい。今度は開催時期を文化祭と重ねると新聞部が言っていたから、票が多くなりそう。

「私がここにいたらダメ?」

「いえいえ! 別にそういうことではないんです!」

 会長の何が悪いかというと、たまに狙っているかのような発言をするの。例えばさっきみたいな『いたらダメ?』とか。もしかして、これも会長の戦略にはまっているのだろうか。そう考えると、何だか恐ろしくなってきた。全然落ち着かないよ。先生にはゆっくりすると言ったけれど、これでは全くゆっくりできない。それどころか、逆に緊張している。

 そもそも、会長が保健室にいるとは思わなかった。いくら体が可愛らしいものだとしても、健康体だと思い込んでいたからだ。まだ夏の手前で、制服の衣替えも始まっていない。制服がまだ長袖なのである。早く半袖に移行してほしい。会長特権でどうにかしてもらえないだろうか。

「ねえ、会長。制服の衣替えを早めたりってできないんですか?」

「あのね。そんな権限、私にはないってことぐらい分かるでしょ」

 以前、この話を校長先生に言ったときに考えると言ってくれたけど…多分忘れているのだろう。もう気づいているかもしれないけれど、実はこの高校には冷房がない。今の時代には珍しいことらしい。冷房は仕方ないにしても、せめて扇風機ぐらいは設置してもらえないのかな。

「会長も体調が悪いんですか?」

「なんでそう思うの?」

「夏バテしたのかなって思いまして」

 こんなに暑いのに半袖では過ごせない、とう環境下である。そこから考えると、会長は夏バテしてしまったのではないかと思った。しかし、見た感じでは特に具合が悪い様子はなかった。だか、特に授業へ行くような素振りは見せない。一体ここで何をしているのだろう。授業に出たくないだけなのだろうか。いや、生徒会長がそんなことをするはずがない。では、どうしてここにいるのだろう。

「いや、私の体は健康そのもの」

 会長、どういうことですか。こんなに殺伐とした空間ですけど、ここは保健室なんですから。本来は体調の悪い方がいらっしゃるところじゃないんですか。やっぱり、授業に出たくないのだろうか。

「なら、どうして…」

「気になるか?」

 そういうと、会長はニヤリと笑った。何かものすごく大きな秘密があるのだろうか。聞くのが恐ろしくなってきた。

「…気になるといえば気になりますけど」

 そう言うと、会長は少し難しい顔をした。やはり、簡単には人に言いづらいことなのだろう。やっぱりこんなこと聞かない方がよかったのかもしれない。しかし、もう遅い。

「じゃあ、ヒントをあげましょう。私のクラスは体育の授業中です」

 ヒントと言うから、もっと具体的なものかと思っていたけれど、余計にわからなくなった。これだけだと、全然意味が理解できない。どういうことなの。

 会長のクラスは体育の授業中。もしかして、運動が苦手だから休んでるとか。でも、そんな単純な話じゃないような気がする。他には、運動制限をかけられてるとか。見た目だけだと、そんな感じでもないけれど。だめだ。見当がつかないよ。

「もう一つヒント。体育の授業中だと、私はいつもここにいます」

 一つ目で結構苦労していたのに、ヒントが増えてさらに分からなくなった。体育の授業に当たるときはいつも。つまり、今日だけじゃないってことね。

 会長のことは出来るだけいつも見るようにしていた。ただ、確かに体育の授業に出ている会長を見たことがないような気がする。この会長が走ったり飛んだり、道具を使って競技を楽しんだりする姿を想像できない。でも、理由までは分からないよ。

「どうしてもわかりません」

「ほんとに? ちょっとしたことでもいいよ?」

 会長の顔はあまり悲しそうではなかった。むしろ、何故か勝ち誇ったような顔をしていた。何に対してそんな感情を持ったのかは分からないけれど、少し不気味だ。

「すみません。降参です」

「出来れば、察してほしかったんだけど」

 会長、これは無理ですよ。察するも何も、ヒントが難しすぎます。何ですか、体育の授業中限定のヒントって。会長は私の尊敬するべき先輩なので、出来れば正解したかったです。でも、問題が難しすぎました。今度問題を出すときは、もう少し簡単な問題にしてくださいね。

「もう、しょうがないな。ちょっとこっちに来なさい」

 会長はそういって私の手を握ってきた。そして、保健室のベッドのほうへと私を誘導し始めた。保健室にはベッドの周りに白いカーテンがかかるようになっている。私を奥へと行かせると、会長はカーテンを閉めたのだ。今からいったい何が始まるの。

「じゃあ始めるか」

 私は会長が何を始めるのかが全く分からない。会長はため息をつくと、私の手首を握った。状況をうまく理解できずに、立ち尽くしていると、会長は制服の上から胸の部分に私の手のひらを当てた。意味が分からないを通り越して、会長は一体何をしているの、という疑問で頭の中が埋まった。

「まだ気づかないのか」

 まだ、という言葉に引っかかったけれど、私には何の事だか分からなかった。一体、私に何を気付けというのだろう。普段ではありえない会長との距離感に私は少し動揺していた。顔と顔がくっつきそうなぐらいに近いのである。こんな至近距離で会長は何を企んでいるのだろう。

「もういい。わかった。仕方ない、夏菜子の肉眼で確かめろ」

 あきらめたのかと思いきや、会長は肉眼で確かめろと言ってきた。肉眼ってどういうこと…なんて思っていると、急に上の制服を脱ぎだした。さらに意味が分からない行動に、私は驚きを隠せなくなっていた。しかし、会長は華奢だな。

「何を始めるんですか」

「お、お前が分からないっていうから仕方ないだろう」

 いつの間にか私が悪役のような扱いになっていた。私は会長の言うままに従っていただけなのだけれど。何か悪いことをしただろうか。

「いいんだな。行くぞ?」

 会長がじっとこっちを見ながら言った。目線を少し逸らしたりしていたが、私も会長の方向に目線の向きを合わせる。会長は制服のボタンを外すと、上の制服を脱いだ。最初は大した違和感は感じなかったけれど、時間が経つにつれて違和感が生じた。この感覚は何だろう。何かが足りないような気がする。

「あ、すまない。こうしないとわかりにくいか」

 どんどん露出部分が増えていく会長の姿に、私はポカンとしていた。気づくと、会長はブラに手を付け始めた。って…あれ?

「すみません。私は混乱しすぎて、何が何だか分からなくなりました。一体、何が起きているのですか。そもそも、これは夢でしょうか現実でしょうか」

「信じたくないのか? ちなみに言っておくが、これは現実だ」

 会長の姿に私はおかしいと感じた。本来ならば、会長にあるはずのものがなかったのだから。いや、何かの間違いだ。

「もしかして、成長しなさ過ぎて胸も全く成長しなかったとか」

「お前は違う方向で私を馬鹿にしたいのか」

 どうやら違うらしい。一体、何が私の中で引っ掛かっているのだろう。

「もうわかった。口で言ってやる。私…いや俺は男だ。これで分かっただろう。このせいで体育に出席出来ないんだよ。ブラに詰めてるパッドが取れたりするといけないから」

 びっくりし過ぎて、あごが外れるかと思った。果鈴会長が男。もしかして夢でも見ているのだろうか。だって、こんなにかわいいじゃないか。

 女子高の生徒トップに君臨する果鈴会長が実は男…? こんな話、誰も信じてくれるわけがない。

「まだ信じ切れていないみたいだから言うけど、下付いてるからね? 隠すために特殊な下着を履いてるけど、制服を脱げばすぐにばれる」

 もはや反論のしようがなかった。と言うより、反論しようとも思えなかった。非現実的な話を会長はわずかな間に話し終えた。そのせいか、頭の中が整理できていなかった。しかし、果鈴会長の声はいつの間にか男の人の声になっていた。両方の声を出せるのだろうか。

 何の取り柄もない、平凡な私にはその姿は輝いて見えた。でも、会長が男だという事実がどうしても受け入れられない。

「ちなみに、当たり前だけど、このことをほかの人に言うなよ。俺が最も信頼してる夏菜子だから言ったんだぞ」

「わ、わかりました」

 会長がそう言ってくれたことに、私は嬉しくなった。しかし、それは嬉しい反面、悲しいことでもあった。ここまで言うということは、会長が男だということは確定なのだ。


 何だか、知ってはいけない会長の闇を見てしまったような気がした。

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